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第51話 ミンナトモダチ

「諦めるのはまだ早いですよ」


 なんとも力強い台詞を吐くこの世界一カッコイイ中学生は雨宮小春。中学に上がって初めて手に入れたスマホで現在通話中。

 相手は『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の折月だ。


 映画『渋谷戦争』--出演が決まった僕は憧れの日比谷真紀奈と高校で同級生だったという極太パイプ、『おひねりちょーだい』の橋本圭介にゴマすり中……


 そこで発生した『おひねりちょーだい』の盗作疑惑(ほぼ確定)と脅迫。

 それにより日比谷真紀奈の招待されている全国ツアーも中止にしようかと『ヤッテ・ランネー・プロダクション』は吐かしているのだ。


 ここで漢雨宮、立ち上がる。


「あの2人は納得してるんですか?」

『納得も何も事務所の意向だから……今回は事情が事情だし、上も色々慎重になってるんです。それに、今朝届いた新しい脅迫状の内容も……』

「新しい?」

『……このまま解散という事も……』


 どうやらかなり深刻らしい。

 業界人のくせにペラペラ喋ってくれた折月の心意気に応えるべく、僕はひとつ提案する。


 全ては半年ぶりの仕事の為--

 そして、日比谷真紀奈との再会の為--


「……あの、折月さん。僕こういうトラブルに強い人、知ってますけど…」


 *******************


 雨宮小春は停学中で暇であった。

 そして雨宮小春はこの日、東京に再び降り立っていた。


 目的はそう--この騒動を終わらせる為に。


「『おひねりちょーだい』?」

「え?美夜知らないの?」


 この日東京に現れたのは3人。

 僕、日比谷教教祖、雨宮小春。

 そして双子探偵、浅野詩音と美夜……


 そう、またしてもあの双子探偵を召喚した。


 空港で迎えの車を待つ僕の隣で世間から取り残されし妹、美夜へ姉、詩音が説明していた。

 それより説明が欲しいのは姉妹の手首を繋ぐ手錠である。

 双子探偵とは小3からの付き合いになるけど今だに説明は無かった。


「浅野さん」

「うん?」「あ?」

「今回は男性アイドルグループを脅迫してる謎の犯人の正体を突き止めるのが仕事です。報酬は『ヤッテ・ランネー・プロダクション』から出ますから」

「いくら?」「美夜、スカートがよれてるよ?もう20歳過ぎたんだからスーツくらいちゃんと着ないと。TPOだよ?」


 ジャラッ


 その手錠はTPO的にOKなんですか?


「で?ついでにお前の出る映画が完成するのを手伝えってか……」

「それはついでで……僕としては別の報酬目当てでしてね……」

「なに?お前には別の報酬があんのか?なんだ?言ってみろ」

「美夜、来たよ」


 成人しても忙しない双子の目の前に黒塗りのセダンが止まる。もちろん、ドリフトだ。


「うぎゃああっ!?」「ひぃ!」「おい!事故ったぞ!?」


 そして失敗してタクシー乗り場の列に突撃!隣の晩御飯してた。


 目の前で盛大に人を轢いておいて悠々と助手席から出てきたその人物は眼光だけで人を殺せそうな程の威圧感と共に呆然と事故現場を眺める僕らの前に現れた。


 三つ編みを揺らすその女性の姿に双子探偵がギョッとした。


「乗れ」

「おっ……お前は!?」「宇佐川さん!?」


 ……なに?知り合い?


 車が事故った事よりびっくりしてる双子探偵に対して『ヤッテ・ランネー・プロダクション』警護主任、宇佐川結愛は「は?誰だおめー」みたいな反応。


「浅野です!浅野詩音!高校生の時あなたの家でお手伝いしてたじゃないですか!!」

「お前は確か……愛染高校最強の女……」


 どうやら知り合いらしい。そういえばこの人うちの師範とも知り合いだった。狭い世界の中で生きている事に驚愕する。


「…………?」


 が、しかし。宇佐川結愛はやはり覚えていなかった。


「おい雨宮。折月から話は聞いてる「無視ですか!?」「おい雨宮!こいつが依頼人か!?」コイツらが例の探偵か?」

「そう「ほんとうに覚えてないんですか!?毎日ご飯作ってたじゃないですか!!ほら!あと、うちの野球部の盗撮事件の件でもお世話になりましたよ!?」「おい、なんでこいつがここに居る。雨宮!」です」


 もうやかましさが天元突破してる双子探偵に向かってまるで猛獣のような勢いで「おいてめぇら!」と宇佐川結愛が噛み付いた。


 ガブッ!


「痛え!?」「美夜!?」


 物理的に。


「今回の件はまだサツにも相談してねぇ極秘事項だ。この件、もし外に漏らしたら--」


 などと恐ろしい顔で恐ろしい事を忠告してくる彼女の肩を……


「君が運転者かね?」


 サツが叩いていた。


 振り返った先では勤勉な警察官がもう事故現場に到着していたのだった。


 *******************


 こうして僕らは警察と壮絶なカーチェイスを繰り広げた後、再びあのホテルにやって来ていた。

 早くも極秘事項が警察にバレかけながらもなんとか到着した僕らは『おひねりちょーだい』の2人の待つ部屋へ……


「……警察にも相談してないって言うのは、その盗撮疑惑が原因ですか?」


 と、部屋への道中詩音さんが宇佐川結愛の背中に問いかける。

 この場で答えるつもりは無い、と無言で返すように彼女はその言葉に反応すら見せなかった。そこへ美夜さんが追い討ちをかけた。


「本当に疑惑なら、警察に相談するのが普通だよな?宇佐川…つまり……」

「黙れ、どこで誰が聞いてるか分からねぇ所でペラペラ喋るな…」


 その言葉と同時に--



「うわぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 奇声と共に逆さで独楽のように回転する何かが部屋から飛び出してきた。その回転は旋風を吹き散らかしながら廊下を席巻する。一般客も釘付けだ。


 もはや何の為に隠れてるのか分からない。

 それくらい人目を引いてしまうのはスター故だろうか?

 違う。エナジードリンクを吸引したからだ。


「……到達だ」




 部屋では半狂乱の橋本圭介と早川大地、そして折月が僕らを待ち受けていた。あとロケラン持ったボディガード2人も……


 こうして僕はあの日聞けなかった事件の詳細、そのベールに手をかけるのだ。


「この度は「あああぁ!こ、殺し屋だァ!?」遠い所をありがとうござ「校内保守警備同好会を呼んでくれぇ!」い「落ち着け圭介!彼女らは探偵さんだ!」ます。私『おひねりちょーだい』の「ひぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!」マネージャー兼プロデューサー兼ヘアメイク兼家事代行兼公認会計士の折月と申します」


 読みずらい……


「早速なのですが--」

「その前に待て!!」


 と折月を制止したのは双子探偵妹、美夜さん。彼女は寝ても寝ても取れない目の下の隈がより深くなる程目を見開いて……


「お前橋本圭介かっ!?うちの高校の!!」


 と絶叫。


「え?美夜知らなかったの?」

「し、知らねぇよ!!おま……嘘だろ!?あの冴えないメガネが!?アイドルだと!?てか!またお前の面倒見なきゃならないのか私らは!!」

「……お知り合いですか?」

「うん、小春君。実はお姉さん達、橋本君とは同じ高校だったんだ」


 狭い世界パート2……


「なんですって!?!?」


 つまり、つまりだよ!?

 橋本圭介=日比谷真紀奈=浅野姉妹という事ですか!?みんな同じ高校!?ミンナトモダチ!?


 ……確かに双子探偵の後輩の師範が『校内保守警備同好会』なる同好会で先輩だった的な話をしてた。橋本圭介もなんかそんな名前を口にしてた。あの時何かが引っかかっていたが……


 てか……え?じゃあ別に橋本圭介要らないじゃん…


「ちょっ……ちょっと、ちょっとちょっと。え?じゃあ浅野さん達はあの日比--」

「話を進めてもいいか?」

「待て宇佐川。その橋本はなんだ?この狂いっぷりは。私の記憶ではこんな…うちの高校の写真部みたいな狂い方はしてなかったぞ?こいつ」

「はわわわわわわわわ。フルエル……フルエル……ガタガガタガ……」

「…これはエナジードリンク中毒だ。脅迫事件から精神的に参っててな」

「エナジードリンク、吸引したら大変だからね。生徒会の先輩にも1人居たよ」


 どういう高校なんですか……?


「……まさか元同級生が盗作アイドルでかつエナジードリンク中毒とは……」

「高校時代なら即拘束だったね」


 情けなさに天を仰ぐ双子探偵に対面の人間シーブリーズかの爽やかさの男、早川大地が食ってかかる。


「待ってください!僕らは盗作なんて--」

「お前は黙ってろ」


 そんな彼を強い口調で黙らせたのは宇佐川結愛。

 彼女の重たい口調が懐かしき同窓会から仕事の場に空気を切り替えた。

 ネクタイを正す双子探偵。

 三つ編みを編み直す宇佐川結愛。


「あーーーーーー」


 ヨダレを垂らす橋本圭介。


 そして折月が数枚の紙を机の上に差し出した。


「……まずはこちらをご覧ください」

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