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第47話 エナジードリンクに中毒性はありません

「盗作ってなんですか?」

「「え?」」


 きな臭くなってきた新作映画撮影……

 暗雲立ち込めるは『ヤッテ・ランネー・プロダクション』

 所属アイドルグループ『おひねりちょーだい』に届いた脅迫文。その内容はなんと『おひねりちょーだい』が盗作をしているから殺すというものだった。


 どうも、日比谷教教祖、雨宮小春です。中学生になっても、日比谷教教祖です。



「と、盗作?なんの事ですかな?」


 目の前でこしょこしょ話を聞かれたにも関わらずシラを切るのは『おひねりちょーだい』のマネージャー兼プロデューサー兼ヘアメイク兼家事代行兼公認会計士の折月早田照氏。


「滅多な事言うんじゃねーよ。お前、うちのアイドルグループが楽曲パクったとでも言うのか?あ?」


 と、どうやら楽曲を盗作していたらしい事を暴露したのは警護主任、宇佐川結愛。


 まさか……あの和楽器系男性アイドルグループ『おひねりちょーだい』にそんな闇が……


「……したんですね?」

「「……」」

「……それは、良くないと思います」

「違う。盗作じゃない……いや、そんな事はいいんだ。おい、とにかく今日は帰れ。こういう事態だからな、今橋本とは面会謝絶だ。今回の映画に関してもどうなるか分からんから……」

「……」

「なんだその顔は」「雨宮小春さん、お分かりだと思いますが、今回の件、ファンの皆様に要らぬ心配をかけてしまうといけませんから決して!口外なさらないように……」

「もしもし?週間フィクションさんですか?」


 --ドドドドドドドッ!!


 瞬間、僕の背後に立っていた職員の軽機関銃が後頭部を撃ち抜いたのは言うまでもない。


 *******************


「酷いことしますね。僕じゃなかったら死んでましたよ?」

「そうか残念だ。お前じゃなかったら片付いてたのにな……」


 雨宮小春、監禁。


「もしもし?私『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の折月と申します。KKプロダクションの諸橋様でお間違えないでしょうか?」

『はい…』

「お宅の雨宮さんをお預かりしました」

『は?』

「無事にお返しできるかは分かりませんので、そういう事で」

『はぁ?』


 ……すまない。マネさん。



 車で走ること1時間…僕は都内の某ホテルに連れてこられた。

 相変わらず後頭部に軽機関銃が突きつけられているが……


「いらっしゃいま……きゃあああっ!!」


 ホテルのスタッフもびっくりである。こんな事をしていたら秒でバレる。脅迫文どころじゃない。


「……約束通り橋本には会わせてやる…その代わり、口外したら今度は私の正拳突きをフルコースで喰らわせてやるからな?」


 つまり殺すということですね?


「『おひねりちょーだい』は今このホテルに避難しています…ここなら万全の警備体制を敷けますから」

「ところで、盗作したんですか?」

「……こんな事になってしまって……全国ツアーも控えているっていうのに!」

「ねぇ、折月さん」


 銃口が後頭部をノックしている。いい加減にしろという事だろう……


 これ以上後頭部にダメージを負うわけにもいかない。今回の僕の目的は橋本圭介から日比谷真紀奈へ繋がるコネクションを作る事にある。


 目的の部屋の前にはロケットランチャーを携えたゴツイ警備員が2人控えていた。もう丸分かりである。


「お疲れ様です主任」「お疲れ様です」

「おう、圭介は?どうしてる?」

「ご乱心です」


「あれはうちの警護スタッフです」

「芸能事務所ってどこにでも武闘派が居るんですか?」


 宇佐川さんが少しだけ扉を開けて中を伺うと渋面を浮かべてから「入れ、面会は5分だ」と僕に告げる。

 僕が部屋の入口に近寄るとロケランの先端が向けられる…ホテルの部屋に入るのにこんなに緊張する事はない。


 --橋本圭介。

『おひねりちょーだい』のメンバーにして日比谷真紀奈の高校の同級生……

 僕と日比谷真紀奈のラブロマンスがこの男の手により動き出す!


「失礼しま--」

「あーーっ!!うわぁぁぁっ!!誰だお前はぁぁっ!!はぁーーーっ!!!!」

「……」

「ふぁーーーっ!!殺し屋かっ!?殺し屋だなぁっ!?僕には校内保守警備同好会が着いてるぞ!!ふぁーーーーっ!!!!」

「橋本さん!」「落ち着いてください!」


 橋本圭介、23歳。アイドル。

 特徴的な丸メガネをかけたマッシュルームヘアの青年はジョン・レノンを彷彿とさせる。服を着たもやしのようなこの青年が世を席巻した男性アイドルだとは……


「ふぁーーーっ!!」


 少なくともこの光景からは信じられない。


「……脅迫文が届いてから恐怖で錯乱状態だ。終いにはエナジードリンクを吸引して中毒だよ……」


 まるで独楽のように頭頂部のみで床をクルクル回りながら叫び散らす彼はどうやらエナジードリンク中毒らしい。

 エナジードリンクは吸引すると中毒症状を引き起こす危険があるんだ。


「圭介!こら!落ち着け!殺し屋じゃねー!!」

「ふぁーーーっ!!!!」

「圭介!!私だっ!!」

「北京原人!!」

「ぶち殺すぞ?」


 容赦ないパンチが回転する橋本圭介に叩き込まれた。その威力はロケットランチャーなんか比ではない。回転しながら吹き飛ぶ橋本圭介の体は壁を突き破り隣の部屋へ…


「うわぁ!?なんだ!?」

「雨宮さん、こちらが早川大地です」


 隣の部屋は『おひねりちょーだい』のメンバー、早川大地の部屋だった。

 清涼飲料水のCMに出てそうなイケメンが飛び込んできた回転中毒者に度肝を抜かれている。


「僕は死なない!!死なないぞーーーっ!!」

「……」「……」「……」


 盗作疑惑にエナジードリンク中毒…

『おひねりちょーだい』はかつてない危機を迎えていた。




 ……気を取り直して。


「落ち着いたか?」

「はぁ…はぁ……結愛さん?あぁ……結愛さんか……ありがとう。正気に戻ったよ…」


 テーブルを挟んで向かい合う『おひねりちょーだい』と僕。突然の来訪者を前に早川大地が宇佐川さんに疑問をフルスイングで叩きつけた。


「宇佐川さん……この人は?」

「圭介の客だ。おい圭介、こいつはKKプロダクションの雨宮ってんだ。前に城ヶ崎の毛根を消し飛ばした奴」

「……やっ、やっぱり殺し屋!?校内保守警備同好会を--」

「黙れ。私が居るだろ」


 再びご乱心な橋本圭介を宇佐川さんが何とか抑え込む。エナジードリンク中毒は深刻そうだ。それにしてもさっきから何かが引っかかる。


「……初めまして。今回『渋谷戦争』で共演させていただきます、雨宮小春です」

「はぁ……はぁ……結愛さぁん……ガタガタ」

「はいはい大丈夫だ」


 抱きつく橋本、抱きしめる宇佐川…


「……」

「あ、あはは……すまないね、雨宮君。この2人は恋人同士なんだよ」


 と、早川大地。

 なんだ道理で……


 ……!?


 おいおい!

 盗作疑惑にエナジードリンク中毒にそして事務所の人間と交際関係だって!?これがアイドル業界の闇かっ!?


 度肝を抜かれすぎてもう20歳過ぎてもお酒が呑めない僕に向かって、話にならない相方を差し置き早川大地さんがまず頭を下げた。


「申し訳ないです。わざわざ御足労頂いたのに……今僕らは大変な状況でして……」

「……ええ、殺害予告が来てると……」

「はい……なので、折角映画の話も頂いたけど、まずは自分達の安全を--」


「--やるよ」


 その時、さっきまで半狂乱だった橋本圭介がキッパリと、急にはっきりとそう断言する。

 それに直ぐに口を挟むのは折月さん。


「……やるって…………」

「映画にも出るし、全国ツアーもやる……僕らは今、大事な時だから……」

「だがな?橋本!今は……」

「折月さん……僕らは今まで、どんな困難でも乗り越えて来たんです。今更脅迫文が来たくらいで……それに、僕らはもう--」

「さっきまでビビり散らかしてたくせに何言ってんだ」


 辛辣な宇佐川さんは続けて「お前の気持ちも分かるが……」と挟んだ。


「……脅迫文に『おひねりちょーだい』の盗作についての言及があった」

「……っ」「ど、どういう事だい?宇佐川さん」


 途端に橋本圭介が唾を呑み、困惑した様子の早川大地が詳しい事情の説明を求める。が、宇佐川さんは対面の僕を視線で指し示し無言で首を横に振る。


 ……はい、確信しました。盗作してます。なんてこった。


「……結愛さん!あれは--」

「とにかく!今はまずい……事が収まるまでは、仕事は…………」

「……っ!でも…早川君は……」

「橋本、いいんだ……」


 何やら深刻な空気が流れる。僕には分からない所で進む重たい議題に触れて僕はひとつだけ理解した。


 多分、僕邪魔だねこれ……

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