第39話 大武連闘技会
「そうですか…あれから体調も良く……良かったです。芝原さん」
『……雨宮君は?平気?』
『おーーっほっほっほっ!!慰謝料はまだですのーーっ!?』
「…………幻聴が聞こえますが元気です」
『元気なの?それ?』
今通話中なのは元気になったドラマ『虚空』共演者、「劇団ゴクドウ」の芝原きき。
悪霊騒ぎで自殺未遂までしてしまった彼女だけど、何とか撮影に復帰出来そうとのことだ。良かった……
『……まぁ今度また連絡して?雨宮君にピッタリのお仕事あるの』
「ありがとうございます」
『……ところでしばらく撮影お休みするって?どっか行ってるの?お正月だしね』
「ええ。僕は今、北京に居ます」
日比谷教教祖雨宮小春。
芸能界の大スター、世界一の美女日比谷真紀奈との約束を果たす為世界一カッコイイ男を目指して芸能界を邁進……
するのは一旦置いといて。
僕は今道着に身を包み我が師、彼岸神楽と共に中国は北京に居た--
彼岸神楽流--
世界最強を誇る武術流派『彼岸流』から派生した超実践剣術流派である。
その彼岸神楽流の総師範である彼岸神楽の下で僕は今教えを乞うている。
そんな役者兼剣術家である僕は今から『大武連闘技会』なる中国の伝統的な武術大会に彼岸神楽流代表として出場する。
狙うは優勝賞金1000万円。
城ヶ崎麗子を落ち武者ヘアーにした慰謝料500万円。
双子探偵への調査依頼料5万円。
神宮寺天連への除霊料100万円の返済。
計605万円。
僕には金が必要だった--
「……小春、この闘技会で優勝した者は世界の武術界において栄光の誉れを手にする事になります。あなたは賞金目当てでしょうが、ここに集うは真に武道に命を捧げし猛者ばかり……」
「…………はい」
「なによりあなたは彼岸神楽流の代表、負けは許されませんよ」
当たり前である。
わざわざ事務所に頼んで再開した『虚空』の撮影スケジュール変更してもらってまで来たんだ…
何としても賞金を手に入れる。
これからお兄ちゃんになる僕が借金まみれじゃ産まれてくる弟か妹にカッコがつかないじゃないか。
--僕は日比谷真紀奈に釣り合うカッコイイ男になるんだ。
誰にも負けないっ!!
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ゴォォォーーーンッ!!
『世界中が待っていたっ!!ついにこの日がやって参りましたっ!!4000年続く武術の聖地、この中華人民共和国にてっ!!第123回大武連闘技会っ!!開催でございますっ!!』
『うぉぉぉーーーーっ!!』
大武連闘技会とは。
123年の歴史のある世界一の闘技者を決める武術大会だって。
つまり天下一武道会または大擂台賽である。
『你好、私今大武連闘技会司会を努めさせて頂きます、北北北でございます』
「…テレビまで来てるんだ…」
会場に立ち客席を見上げる僕は客席からこちらを見下ろす無数のカメラを見つめてその茹だるような熱気を肌で感じていた…
あれ?これってまたしてもメディア露出では?
『今宵しのぎを削る選手の紹介だぁぁっ!!』
『おぉぉぉーーーっ!!』
客席からの大歓声と共に、闘技場に出揃った武術家達が紹介されるらしい。
ちなみに今回彼岸神楽流からは僕のみエントリー。師範はセコンドです。
選手入場門から師範が誰よりも熱い視線を送ってくる。
そんな中でやたらとテンションが高い司会から次々に名だたる武術家の紹介が行われていく…
『まずはこの男!全大会優勝者!大大林寺、真茶平!!』
『続きましては今大会優勝候補!世界で1番強い男!ボクシングヘヴィー級チャンピョン、ムチャ・ツエーヨォ!!』
『まだまだ行くぞ!!『なんと!?無音拳』からヤ・ンデレ!!』
『ジパングからの刺客!!大日本空手、古武士拳士!!』
『謎!謎である!!今大会初出場!謎に包まれた暗黒街からの刺客!!八極拳、ノア・アヴリーヌ!!』
等々…その他たくさん。
残念ながらその名前は誰一人聞き覚えは無かった。
『そして!サムライの国からやって来た!!今大会最年少!!彼岸神楽流、雨宮小春っ!!』
「あ、どーも。どーも。へへっ。あの。ドラマ『虚空』よろしくお願いしますっ。へへっ」
このテレビ中継、日本でもやってるのかな?番宣しとこ。
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さて、かくして始まりました大武連闘技会。
各選手が試合に備えて一旦闘技場から…
引き上げるかと思われたんだけど、誰一人としてその場から動こうとしないばかりかみんな既に臨戦態勢を整えだしたではありませんか。
「小春!剣を抜くのです!!」
「え?」
雨宮小春、勝手にトーナメント制だと思ってたんですけど……
『それでは第123回大武連闘技会!開催ですっ!!』
『うぉぉぉーーーーーっ!!』
違った。バトルロイヤル制だった。
つまりコリーダコロシアムだった。
司会の合図と共に武道達が一斉に殺気立ち、各々の牙を剥く。
試合形式もルール説明もないままいきなり始まったバトルロイヤル。僕は面食らって腰から太刀を引き抜く。
が、遅かった。
「フォアチョォォッ!!」
「ふべっ!?」
謎の格闘家からの鉄拳が無防備な僕の顔面を貫き、闘技場の端っこまで吹き飛ばされます。痛いです。小学生にも容赦がありません。
「小春っ!!」
吹き飛ばされた先で師範の悲鳴のような声が…
「うぅ…師範…大丈夫で--」
「なんと情けない!あの程度の相手に一撃を許すとは!!あなたは彼岸神楽流の道場で何を学んできたのですか!!」
違った。怒号だった。
「彼岸神楽流は超実践剣術!戦いでの敗北など許されませんよ!?」
「ぐふっ…そんなこと言われても……」
「あちょぉっ!!」
鼻が潰れた痛みにふらつきぬがら立ち上がる僕の頭上から強烈な踵落としが炸裂。僕の頭が割れて額から鮮血が飛び散った。
痛いです。
「小春!反撃するのです!!彼岸神楽流の真髄!死に際の集中力はこういう時の為のものですよ!!思い出すのです!!」
そうは言いましても……
僕が今手にしてるのは師範から賜った真剣…そう本身です。こんなので斬りかかったら相手、死んじゃわない?
カメラもあるんだし…いずれ芸能界を駆け上がるスターになる僕がこんなところで殺人なんて……
僕は目の前に迫る武術家達からの拳を、剣を、脚を前に立ちすくんでいた。
いや握る剣から腕に伝わる重みに……
「小春!!どんな剣も握る者の力量で全てがきまります!!あなたは今まで我が彼岸神楽流で何を学びましたか!!」
「まずはガキ1匹だせぇっ!!」「ひゃあっはぁーーっ!!」「死ねぇぇっ!!」
「こんな所で終わる気ですか!?無様を晒して!!賞金を得るのでしょう!?こんな所でカッコ悪く散るつもりですか!?」
--カッコ悪く?
その瞬間、凝縮された僕の意識が一気に頭に流れ込んできたようだった。
凝縮された僕の意識は不要なものを全てを取り除き、師範の言葉と、目の前の敵と、そして僕の心に一本走る芯のみを認識させていた。
いいやっ!!僕は世界一カッコイイ男になって日比谷真紀奈ともう一度会うんだっ!!
彼岸神楽流奥義その一--死に際の集中。
極めし者はあらゆる不要物を認識から排除し、極限の集中力を以てあらゆる攻撃を見切る事が出来る。
僕が生皮を剥ぎながら体得した彼岸神楽流の真髄--
極限状態にスイッチした僕の意識は今、武道家というか世紀末のチンピラみたいな敵達のみを捉える。
「--彼岸神楽流、三流滅」
僕はすれ違い様に3人の三流を斬り裂いていた。
極限の集中により相手の体に張り巡らされた血管、神経を知覚し最もダメージの少ない箇所へ刃を滑らせて--
「うげっ!?」「ごふっ!?」「あひっ!?」
そうだ。僕には賞金が必要なんだ!
この過酷な芸能界を生き残る為にっ!
あの人に会う為にっ!
人を斬ったのは、城ヶ崎麗子以来だった--
「…それでいいのです、小春」




