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第28話 ハルマゲドンタイプ

 日比谷教教祖雨宮小春、小3、9歳。

 そろそろこの自己紹介も飽きてきた…そんな日だった。



「サッちゃん?サッちゃんって聞こえたの?」


 小学生の素朴な疑問に向き合うこの男は処。僕が今回出演するドラマ『虚空』の監督らしい。まだ若そうなのに生え際の後退が予断を許さない男だ。


 今日は『虚空』制作チームの皆さんとの顔合わせだったんだけど、その時本気坂48の城ヶ崎麗子の音響兵器(高笑い)に皆の鼓膜がやられた中僕は聞いたんだ。

 スタッフにも出演者にも居ない「サッちゃん」なる自己紹介を……



 --このスタジオには幽霊が出るらしい。


 たまたま再会した子役、白羽ハイル君がそんな事を口にするものだから僕、ビビりまくってしまってます。えぇ……


 日比谷真紀奈と約束したカッコイイ男への道のりはまだ遠そうだ。


 何かの勘違いかなと処さんに訊いて見たところ彼からなんか不穏な反応が返ってきてしまった…


「……なにか知ってるんですか?」

「うーん…雨宮君、だっけ?このスタジオ来るの初めてか。実は有名な話があるんだよ」

「……もしかして昔このスタジオでサッちゃんって人、死んでます?」

「なんでオチを先に言っちゃうのかな?」



 --テレビ夕日第2スタジオ。

 昔ここで収録が行われたバラエティ番組の撮影中、凄惨な事故が起きたというのだ…


「--あれは…2年くらい前だったかな…雨宮君は知ってるかな?『教えて!カシマ先生!!』っていうバラエティ番組…」

「知りません」

「まぁカシマ先生っていう番組のキャラクターに、視聴者から募った素朴な疑問を答えて貰うっていう趣旨の番組だったんだけど…」

「…………その日の撮影の時、ゲストがスタジオに来ていたの」

「「うわぁ!」」


 突然背後から割って入って来たのはまだその場に残っていた実力派女優、芝原きき。

 万人が認めそうな都会の美女って感じの、目と声が死んでいる『劇団ゴクドウ』の人だ。このドラマ『虚空』での共演者の1人。


 彼女は誘ってもないのに話に入ってきて、僕がかつてクラスメイトの誕生日会に行った時「え?コイツ呼んだの誰?」って目でみんなから見られたあの時の視線をまんま芝原ききに返していたにも関わらず昔を懐かしむような顔で遠くを見つめた。


「私はあの番組のレギュラーだったわ」

「えぇ……」

「そうだよ。ききちゃんは確かにあの番組のレギュラーだった」


 復唱した処さんの言葉に本人が口にした以上の情報はなかった。残念である。


「……そのゲストさんがサッちゃんさん?」

「…………あの番組では視聴者からの質問をその質問にまつわるお仕事をしてる人なんかを実際に呼んで解決したりしてたんだけど……サッちゃんもそんな風に呼ばれたゲストだったわ」

「へぇ……」

「…………サッちゃんがスタジオに入って……いつも通りの収録が始まるものと思ってた…ただひとつ違ったのは、その日はスタジオの照明がなんかグラグラしてた事……」

「……」

「そう、なんかグラグラしてた…なんか、グラグラしてたのさ」


 処さんは進行役から降板である。


「…………司会の人とサッちゃんがスタジオ中央で対面に座った時……事件は起きた」

「照明が落ちてきたんですか?」

「…………どうしてオチを先に言うの?」


 落ちてきたらしい。オチだけに。

 しかし参った。

 どうやらその収録で事故死したゲストさんの霊がこのスタジオに住み着いているみたいだ。

 この手の話は作り話も多いと思うんだけど…実際現場に立ち会った人間が居るとなるとやはりあの声は…………


「…………それからこのスタジオでは時々、サッちゃんの声が聞こえるようになったのよ」


 ……それだけ言って芝原ききはササッとスタジオから出ていってしまった。

 突然現れて突然消える、まるで怪談師……


「……まぁ、そういう事。昔そういう事件があったんだよ。でもま、今回のドラマは撮影ほぼロケだから、ここで撮影する事ないし、心配しなくていいよ」

「……芝原ききさん、実際に事故の現場に立ち会ってこんな話聞かされて……しなきゃ良かったです」

「……小3だっけ?君。そんな事まで気にできるなんてちゃんと教育されてるね」

「いやぁ……」


 人の顔色伺う天才ですから。僕。

 まぁそれで言うと僕の聞いた声の話は芝原ききさんには怖い思いを……


 ……?


「……芝原ききさんって事故の当事者なら

 もしかしてサッちゃんの声って芝原ききさんがこの現場に連れて来たって事は……」

「雨宮君」


 急にゾッとした僕の背中を処さんがバシバシ叩く。しかし、彼岸神楽流五段の僕にはダメージはない。


「幽霊なんて居ないよ!君もあの時、城ヶ崎麗子の高笑いで耳がおかしくなってたのさ!」


 不安がる少年に大人の余裕を見せつける。

 そうだねよ……

 幽霊なんている訳ないよね!


 *******************


 謎の幽霊サッちゃんの声を聞いた気がする日から1日……僕達は今回の撮影地に降り立つ。


 神宮寺天連原作『虚空』--

 上京してた主人公が故郷の離島に帰ってきたらなんか幼なじみが殺人鬼になっていた、というお話。


 なので撮影の舞台も実際に東京から離れた離島を使う。ロケだ。

 便宜上この島を「東京島」と呼ぼう。


「おーーっほっほっほっ!!久々のロケですわーーっ!!東京から出たのは、MV撮影以来ですわーーっ!!おーーっほっほっほっ!!」

「あはは、厳密にはここも東京らしいよ?城ヶ崎さん」


 高笑いで高潮を起こす城ヶ崎麗子と主演の鳴海誠也。この2人は同じ『ヤッテ・ランネー・プロダクション』らしい。



 ……さて、今回の仕事だけど。

 元々僕がドラマに出る事になった成り行きは僕が養成所の教官の鼻を潰して退学寸前に追い込まれたから。

 オーディションに受かったら続けて良いと言われて今回、殺人鬼ヒロインの息子役『洋太』を僕が演じる。


 その中で共演者に城ヶ崎麗子が居るのは知らなかった。


 --城ヶ崎麗子。

『ヤッテ・ランネー・プロダクション』の本気坂48の不動のセンター。

 今や超国民的アイドルであるこのスター、アイドルである事に並々ならぬプライドを抱いているのは有名な話。

 アイドルはアイドルとしてファンの前にあるべき--それが彼女の心情らしく、ドラマの演者としてメディア出演するのは稀。


 …………まぁ過去を振り返ればアイドル業以外も結構やってるけど、そこはアイドルばかりしてても知名度は上がらないという事か…


 そんな城ヶ崎麗子!過去に何度かあの、あの!日比谷真紀奈と共演してる!!


 地元の北桜路市のローカル番組にも出てたし、『明日のリーダー達』って番組でも共演してた!


 …………もしかして仲が良いのかな?

 ひょっとして仲良くなったら日比谷真紀奈紹介してくれるかな?


 そうだ!折角東京まで来たんだから、これはチャンスではないのか!?


『そうだね』


 …………?



 ロケ地到着後共演者達に挨拶をして回っていたらリハーサルの準備ができていた。


 本読みとリハーサルを兼ねて行いその後本番撮影までに3回くらいリハーサルみたいのがあって……


 と、慣れない…というか初めてのドラマ撮影。皆の流れについて行くだけで必死。


『がんばれ』


 …………?


 今日の撮影では僕「洋太」と城ヶ崎麗子の「ヒロインの妹」役が主人公と初対面するシーンがある。


 しかし……


 ヒロインは自分の子供の世話を妹に押し付け、2人は貧乏な生活を強いられている、まさに幸薄家庭。

 全体的に息の詰まりそうな雰囲気の漂う今作の中で、主人公が密かに想いを寄せていたヒロインに子供が居る事実、その子供に対してネグレクトしてる事実--

 主人公視点で作品を観る視聴者にとってもこのシーンは前半屈指の鬱シーンだろう……


 なのに…………


 事件はドライリハーサル(カメラを使わないリハーサル)で起きた。



「おーーっほっほっ!!あなた、もしかして姉と昔仲が良かっ--」


「城ヶ崎さん!?ちょっと!!」


 島全体に漂う陰鬱な空気、終始胃もたれしそうな作品の雰囲気は演者達で作るもの……


 その中で湿気を吹き飛ばすような勢いで冬の孤島に響き渡る高笑いがリハーサルを止めたのは言うまでもない。

 なぜかこのタイミングで突然のアドリブ。


「笑っちゃダメだよ。このシーン、ヒロコはついさっきまでヒロインにぶたれてたんだから…何顔に痣作って笑ってんの」

「おーっほっほっ!監督!!高笑いは私のアイデンティティですわーっ!!」


『うるさい』


 …………???


「この城ヶ崎麗子を起用した時点で高笑いは必須です事よーー!?高笑いが納まってなくて、城ヶ崎麗子が出演したと言えますことーーっ!?」

「いやあのね?君の役は--」

「私から高笑いを取ったら、もう視聴者は私が誰か分かりませんことよーー!?」

「分かんなくていいから、君はヒロコに徹してくれよ!」


『真面目にやりなよ……』


 ………………????


 *******************


 12月に海に囲まれた離島での撮影は寒い。

 島全体もなんだかどんよりした雰囲気が漂ってるし……話によればこの島は実際に作品の舞台になった島のモデルなんだって…


「……それにしても」


 僕がなんだか嫌な空気を感じてるのはそれだけでは無い。


「おつかれさん」


 と、ぼんやり座って休憩してると隣に監督の処さんが座ってきた。

 お水をくれました。


「君、これがデビュー作なんだって?初めてで慣れないことばかりで、大変でしょ?」

「……まぁ、気になる事もありますし…」

「初仕事が大きなドラマで君は恵まれてるよ……KKさんも期待してるわけだ。俺も期待してるよ雨宮君」

「それはいいんですけど監督--」

「雨宮君、役者ってのはね--」

「聞いてますか?監督」

「主に3つのタイプがあるんだ。共演者がどのタイプかを見極める事が、重要。演技ってのはね、コミュニケーションさ」

「聞いてませんし、僕も訊いてませんねそれ」

「役に徹し相方の演技の感情を汲み取る……見てご覧」


 黒蝶に続き処さんまで僕の師匠ポジを狙ってきてる……


 処さんと僕はカメラリハーサル中の演者達に向ける。


「鳴海君…彼は周りの演技に合わせて共演者達を引き立てるタイプだ……周りを食わないから主演も助演もこなせる万能タイプ」

「へぇ……」


『そうなんだ』


「反対にききちゃんは存在感が大きい。時には周りを食ってしまうような目を惹き付ける演技をする…スターだ。受け身な主人公と狂気的なヒロイン……いい演技のバランスさ」


『そうなんだ』

「ガタガタガタガタ……」


「そして最後にハゲ」

「うわぁ眩しい!!」


 監督が指さした大トリはハゲだった。ハゲたおっさんが立ってる。


「彼はハルマゲドンタイプ……そこに居るだけで画を全てぶち壊しにする」

「ハルマゲドンってか…マルハゲドンなんですけど?あんな人居ましたっけ?」


 ……え?もしかして幽れ--


「ちょっとここ、照明強めにしてみよか!照明さーん!」

「はーい」


 ピカーーーッ


 違った。照明さんだった。

 曇天から差し込む太陽光ですら反射し強くライトを炊くこのハゲ……出来る…


 ……?


「さぁ、雨宮君はどんなタイプの役者さんになるのかな?」

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