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異世界103日目 7月12日(金) ②ルーミィの女心


「スライム製品の売れ行きは如何でしょうか?」


「概ね好調だな。特にアイスの売れ行きがずば抜けている状況だ。さっきまで大量の客がなだれ込んできたぞ? おかげでこっちも商売繁盛だよ。保管の冷凍庫はまだ余裕があるから、もう少し作り置きを増やしておいた方がいいな」


 おっちゃんとの給食プランも無事まとまったので、引き続き雑貨店へと足を運び、イリアさんとスライム製品の販売動向を確認させてもらっている。

 どうやら本当にお客が押し寄せたようだ。スライムアイスを買うついでに、いろいろとお買い物もして行ってくれたようだ。思惑通りである。


 作り置きの増産か……雑貨店には冷蔵、冷凍の保管庫が設置されており、商品のストックも可能となっている。これはナーシャさんの魔法によるものらしい。村一番の大店は非常にハイスペックである。

 だが、容器に問題がある。やはりスライムタピオカミルクティーみたいに回収システムを導入すべきかな。


「そうですか、となると……容器の追加と材料は前みたいに袋単位で仕入れた方が良さそうですね」


「ああ、そうだな。大量仕入れは使用する見込みと、保管場所があるならメリットが勝るからな。あの保育園なら十分スペースもあるし、それを選択しない手は無いな」


 その後しばらく販売戦略の打ち合わせを行い、ひと段落した所でイリアさんから例のイベントの件について尋ねられた。


「ところでビーチフェスだが、カズヤ達ももちろん行くんだろ?」


「ええ、先程クレイドからお聞きしまして。ルーミィは葛藤中のようですが」


「なに? ルーミィは来ないのか? じゃあ、あたしと二人で行こう! 夕暮れのビーチにカズヤと二人……沈む夕日を背に、ふ、二人は……きゃっ!」


「私、ビーチフェス行きますから」


 イリアさん、乙女度上がってませんか? 先程の打ち合わせの時とのギャップが天と地ほどあるのですが……。そしてルーミィの即断におっさんビックリだよ。


「いいのか? 海では常に水着だぞ? しかも人も大勢集まる上、女の子は注目の的だぞ?」


 そりゃあ……イリアさんはね。女性も含めて振り返ると思いますよ? 一瞬裸かと思いますもん。二度見する人は初見で『え? 裸!?』となって次の『ほぼ裸じゃん!』となるだろう。


「み、水着じゃなくて普段着で行けば……」


「それはダメだ。水着じゃないと海に行ってる意味が無いじゃないか」


「うぅ、でもぉ……」


「いや、待てよ……海に入ってしまえば水着じゃないルーミィは入っては来れない。と言う事は、海に入って少し沖にでも出ればそこは楽園……カズヤと……二人っきりの海……」


「水着着ます。そして海にも入ります。二人きりにはさせませんから」


 イリアさん惜しいですね。妄想は心の中でするものですよ? なんかまだ二人で言い合っているがそっとしておこう……仲の良い二人だ、ほんとに。



≪≪≪



 夕食の準備が完了し、リビングに食事を並べ終わり、ルーミィを呼んだ。なんて事は無い、異世界に来てから毎日行っている風景である。

 だが今日に限っては同じではなかった……もはや言葉では言い表せない程の衝動が胸に突き刺さった。


 どうして? 何故? 原因は? 自問自答を幾度も繰り返すのだがその先にある答えには一向に辿り着かない。見えるのは永遠に続く深い闇のみ。

 全身が小さく震え、口が渇く。そんな状態なのに汗がこめかみ付近から一つ伝い落ちてきた。


 ルーミィが……あのルーミィが何故……。


 いや、もう自分の中では解決するのも、理解する事も不可能だ。問い正すしか無い。本人に直接……目の前に居るのだから……。

 いつもの……いつもの女神様に戻って欲しい。そう心に誓いながら。




「も、もう一度宜しいでしょうか? 本当に夕食、要らないのですか?」


「う、うん……今日は、ちょっと……やめとくよ」


 ぶっちゃけあり得ない!


 思わずどこかで聞いた言葉を思い浮かべてしまったが、異世界に来た初日からお腹空いた、お腹空いたと訴え、嫌いな物など聞いた事が無く、誰よりも幸せそうな笑顔で食事をするルーミィがそんな事を言ったのである。気が動転して当然である。

 そして何より大好物の唐揚げ&ハンバーグを前にして拒絶するなど天変地異の前触れとも取れる!


「……イリアさんに診てもらいましょう」


 調理用のエプロンを脱ぎ、静かにルーミィに伝えた。


「えっ!?」


 何かの病気かも知れない、神力では病気は治す事が出来ない。手遅れにならない内に一刻も早く!


「急ぎましょう、大丈夫です。イリアさんならきっとなんとかしてくれます!」


「か、和也、ちょっと落ち付いて……」


 落ち着く? 何を悠長な事を! そんな事を言っている場合では無い! 止むを得ない、少々強引になるが無理やりにでも連れて行く!


「すみませんが失礼しますよ!」


 ルーミィの体に手を回して抱え上げた。俗に言うお姫様抱っこである。いつぞやかの泥酔状態になった時も抱えたのだが、相変わらず軽い……いつもあれほど食べているのになんて華奢な体つきなんだ。

 いや、それが危険な状態とも言える。そもそもあれだけ食べて体重が増えない時点でおかしいのだ。


「あぅ、わわわゎ……ス、スットプぅ! 和也ぁ!」


「しっかり掴まっていて下さい!」


 腕の中で暴れるルーミィだが離す訳にはいかな――


「わ、私、ダイエットしてるだけだからっ!!」


 ……はい? こんなに軽いのに? ダイエット?


 思わずフリーズしてしまったが、どうやら本気らしい。必要無いでしょ、女神様……。




「ううっ、酷いよ和也……よりにもよって抱っこするなんて。重いのバレちゃったじゃない……」


 お姫様抱っこを解除した途端、そのままラグの上に崩れ落ち、丸くなってしまった。もう悲壮感が半端無い。でもパンツ見えそうになってるから気を付けてね?


「和也の作るお料理、美味しいからいつもいっぱい食べちゃってたし、これからは給食で食堂のお料理も毎日食べれるし、海に行くならずっと水着だし……」


 あ~、それで食堂でも頭抱えてたんですね。それでダイエットですか。全くする必要無いと思うのですが……しかも明日ですよ? 一食抜いた所で変わらないですよ……でもそこは女心と言うものなのでしょうか。


「もう……私、ダメ……全部バレちゃった……最近顔も丸くなってきたし」


 両手で頬をつまんでいますけど……どこが? いつもの清楚でお美しいお顔ですが?


「腕もたぷたぷだし……」


 二の腕を掴みしゅんとしていますが……どこが? 触れれば折れてしまいそうなか細い腕が見えますが?


「脚だって太くなってるような気がするし……」


 ふくらはぎを撫で、ため息を付いていますが……どこが? 大変綺麗な御身脚でございますが?


「全然太ってません、むしろ痩せ過ぎです。さっきも抱いた時も軽かったですから」


 あ、無我夢中だったけどルーミィをお姫様抱っこしちゃってたな。うわ、やらかしちゃってるわ、俺ぇ……。


「……う、うん。そ、そうだね、確かに抱かれ……ちゃったね……」


 先程の悲壮感は何処へやら、一転して頬を染めながら目線を外してラグを指でぐるぐるいじっている……いや、あの、あれはね、ちょっと慌てて……しかも抱いたって言ってもお姫様抱っこ! 抱っこですからね!? 

 同じような言葉ではありますが、全く内容は違ってきますからね!?


「と、とにかく! ルーミィはダイエットなんてしなくても、十分綺麗で可愛いですから!」


「えっ……ほ、本当? き、綺麗で可愛い……はわわゎ、う、嬉しい……そ、そっか、和也は私の事そう思っててくれてたんだ……」


 だああっ!? 何言っちゃてんの俺! 大告白しちゃってるじゃん! 誤解、誤解なんですぅ! しかもなんかイリアさんに影響されてか、ルーミィも積極性が増してませんか? 


「ありがとう、和也。心配してくれて……私、お腹空いちゃった!」


 真っ赤な顔して嬉しそうに席に戻ると笑顔で夕食を食べ始めた……まあ、いいか……とりあえず変なダイエットはやめてくれたようだ。

 尚、その日の夕食の味は全く感じる事が出来なかった……はぁぁぁ、マジで耐性無いよなぁ、俺……もう100日以上女神様と暮らしておきながら……。


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