異世界103日目 7月12日(金) ①神イベント開催!
「ビーチフェス?」
週末限定の即売から新製品披露会へと業態変化させ、初の露店販売ブースでの商売。今日は新製品であるスライムアイスクリームのデビュー日であり、それを買いに来たクレイドから不意に言葉を投げかけれ、オウム返ししたところである。
尚、今回並ぶスライム製品はアイスだけであり、前もって考えておいた露店ブースならではのアピール力を活かして広報活動中である。
「ああ、この前サマーフェス用の竹を取りに行った時に見たろ? あの海で開かれるイベントだ。忘れたのか? ほら、水着コンテストの件でルーミィちゃんに怒られてたじゃないか。しっかしこれ美味いな!」
なんと……あの神イベントが遂に!? っとルーミィがアイスよりも冷たい目でこちらを見ている。平常心、平常心と……。
クレイドは早速アイスを食べて舌鼓を打っている。やはり今まで食べた事が無いものらしい。この商品は真新しさもあり、掲示板への宣伝効果も相まっておそらく村全体にすでに広がったのではないかと思う。
やっぱり暑い夏にはアイスは外せない。しかも雑貨店に行けばいつでも買えるので今後は安定した収益を出してくれる事だろう。
「えっと、それでは何か私の方で新しいイベントを用意すればいいのでしょうか?」
サマーフェスは流しそうめんだったし……次は海かぁ。何にしようかな。やきそばとか焼けばいいのかな?
「いや、今回はカズヤ達は楽しんでもらえばいい。すでに露店ブースやイベントの手配も完了してるしな」
「露店ブースあるのっ!?」
クレイドに食い入るようにぶっ込んできた。これこれ、可憐な美少女がはしたないですよ。ほんとに食いしん坊な女神様なんだから。
「あ、ああ。ルーミィちゃんも気に入ると思うぜ? なんたって焼きそば、フランクフルト、とうもろこし、豚や牛、鶏の串焼き、夏の食べ物のフルコースだからな!」
「和也、行こう! 今すぐ行こう!」
いや、今はやってませんから……みんなここに居るでしょ?
「ルーミィ、ちょっと落ち着いて下さい。よだれ出てますよ……。ところでクレイド、ビーチフェスはいつ開催なのでしょうか? 保育園もあるので平日に伺うのは難しいのですが」
「安心しな、開催はなんと明日だ! それと同時にしばらく村から送迎馬車も出るんだが、明日はわざわざこっちに来るのも手間だろうし、よかったら保育園の方に寄るように手配しておくぜ?」
クレイド……急過ぎやしません? もうちょっと前もって教えてくれも良かったのでは。意外とルーミィが言ってた事が近いじゃん……お迎えの件は非常にありがたいお話ではありますけど。
そして相変わらずの職権乱用具合に頭が下がります。
「は~い、宜しくお願いしま~す!」
ルーミィ、よだれはもう拭けたのかな? 後、勝手に返事しちゃったね。まあ、断る理由なんてこれっぽっちもないからいいんですけどね。でも女神様、分かってるのかな?
「よし、じゃあ手配しておくぜ! それとスライムアイスクリームをもう三個貰えるか? その、あれだ、これからギルドに用事があるからついでに差し入れでもと思ってな……」
ほうほう、ついで、ね……もろバレですよ?
「はいそうぞ! フラムに宜しくお伝え下さいね!」
「お、おう。これ、時間が経つと溶けるんだろ? い、急いで持っていかなきゃな。じゃ、じゃあな!」
クレイドよ、ムフフメイドに宜しくな……しかしルーミィは隣で鼻歌を歌って楽しそうにしているが、一応確認しておこうかな。
「相当楽しみにしているみたいですね。でも海のイベントなんで間違い無く、水着参加ですよ?」
俺からの言葉を受け止めた途端、先の上機嫌から一転し頭を抱えてしゃがみ込み葛藤しだした。ここに食欲VS恥ずかしさの闘いの火ぶたが切って落とされた訳である。
≪≪≪
「おっちゃん、今よろしいでしょうか?」
「おう、カズヤじゃねえか。すっかり手は治ったみたいだな」
「ええ、すっかり良くなりまして」
スライムアイスクリームは大好評であり、夏の日差しも相重なり、売り切れ最短記録を更新した。今頃はイリアさんの雑貨店に露店ブースで買えなかった人がなだれ込んでいることであろう。
そんな中、思っていた以上に時間が余ったので武器屋食堂に立ち寄らせてもらった。
おっちゃんには手を怪我している時に一つお願いをさせてもらっており、今日はその件について相談しに来たのだ。ちなみに魔法で治してもらったというのは秘密だ。もともと大した事無かったと言ってあるし、問題は無い筈。
「いかがでしょうか? 『給食』のプランの方は?」
手を怪我していた時に相談していたのは昼食の委託だ。だが決して園児達に料理を作るのが面倒になった訳では無い。出来る事ならずっと作っていてあげたいぐらいである。しかし、園児も三人に増え、ルーミィの負担が上がってしまっているのも事実である。
園児達の給食は当然栄養面も考慮しなければならないし、育ち盛りならではの味付けも重要なポイントとなってくる。毎日濃い食事ばかりではダメなのである。
これを頼めるのは俺以上の腕前を持つおっちゃん以外にいない。ギルドのマスターが作る料理も同じくレベルが高いのだが、ちょっと味付けが子供向けでは無いような気がする。
まあ、マスターの技術なら合わせて来るとは思うけど。
「料理の方は大丈夫なんだが届ける方法と時間がな……うちも昼時は手が離せねえからなあ」
ふふ、おっちゃん、その辺りは抜かり無いんです。
「その件につきましては問題無いです。給食は朝に作って頂ければ大丈夫です。そして完成した給食はこのカバンに入れて頂ければ、三時間程時間が止まりますので」
取り出したのは何の変哲も無い、ボストンバックのような布製のカバン。尚、雑貨店で980Gで購入した品だ。もちろん種も仕掛けもある。
「ほう、ナーシャの魔法がかかった物か。それはいいな、朝作って昼まで出来たてって事だな」
「はい、そして出来上がった給食は、この魔方陣が描かれた布に置いていただければ園に転送出来ます」
続いて取り出したのは何の変哲も無い、大きなバスタオルのような布である。いや、これは無理があるか、完全に魔方陣が描かれてるもんな。尚、480Gである。
折りたたんでいた布をおっちゃんに渡して確認してもらった。尚、同じ物を園に置いてあり、この上に物を乗せると転移が可能となっている。
ほんと魔法って素晴らしいよな……これなら場所も取らずに食器の返却も自由自在である。俺の仕事は盛りつけだけで済むと事になる。
サマーフェスの時にナーシャさんが転移魔法を使って園の前に荷物を届けてくれたので、もしかしたらと思ったのだが、案の定簡単に用意してくれた。
お礼にまたルーミィの作ったクッキー持って行かなきゃな。
「用意がいいじゃねえか。よし、分かった! 来週から任せときな。とびきりの給食を作ってやるからよ!」
「ま、毎日、食堂のご飯が食べられる……そ、そんな……こ、これは、ゆ、夢!?」
ルーミィ、挙動が不自然ですよ? 目の焦点を合わせていきましょう。
「おっちゃん、予算内でお願いしますね。無理して損はしないで下さいよ?」
「ああ、分ってるよ。これから大人二人、子供三人分の給食、確かに承ったぜ!」
宅配や調理時間の憂いも無くなり、おっちゃんは快く引き受けてくれた。これでルーミィの負担も俺の負荷も落ち、より園児達と遊べる時間も増えるだろう。
少々経費はかさむが、その為のスライム製品の委託なのだ。これからもバンバン作ってお金を稼がなくては。
……なんだ? またルーミィがしゃがみ込んで頭を抱えてぶつぶつ言ってる。さっきの闘いの第二ラウンドが急に始まったのだろうか?
ちなみに水着コンテストは見せて貰えるのだろうか……多分、いや絶対ムリだろうな……。でも、見たいなあ……なんとか見る方法は無いものだろうか。
別行動を取るタイミングさえ作れば……例えば大量の食べ物を与えている間とかに。いや、それでも『どこ行くの? そこに座ってなさい!』とか言って身動き取らせてくれなさそうだ。
う~ん、となれば……。
「お前ら何やってんだ? 二人揃ってブツブツと。なんか悩みでもあるのか?」
……あら、お恥ずかしい所をお見せしてしまいましたね。でもこの悩みは言えないんです。言った時点で俺、確実に首を絞められますから。




