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異世界100日目 7月9日(火) ②100日目の誓い


「そんな事があったのかい、なんて子供なんだい……」


 その日の夕方、約束通り園を訪ねて来てくれたイリアさんにサラちゃんの事を話した所、呆然とした表情を浮かべながら感想が漏れた。やけに驚いているみたいですが、ここは異世界なのでわりかし良くある事じゃないんですか?


 ちなみに今日の服装も際どい。というかもはやNGである。夕食の材料を手に持っているので料理をしてくれるつもりだったのだろうけど、出会った時点でエプロンが装着済みであった。普段からの露出の高さから、ぱっと見、裸エプロンみたいになっているので直視し辛いんですけど。


 この人、その恰好で村からここまで来たのか……。


「それって回復魔法だろ? 神でも扱えないと聞いてるぞ?」


「そ、そうなんですか? てっきりメジャーなものかと思ってました……」


 RPGとかだとバンバン使ってるイメージがあるんだけど、現実は違うのか……神でも使えない魔法を使えるサラちゃんって一体。

 流石は世界記憶さんのご息女といった所か。


「そうだよ、イリアさんの言う通り使える人は限られてる伝説級の魔法だよ。まさかサラちゃんみたいな小さな子が使えるだなんて思いもしなかったんだから……」


「くっ……このままずっと晩メシを作り続けて『あ~ん』とかして食べさせたりして、二人の距離がどんどん縮まって『気付けばそこは愛の巣に』作戦が台無しになってしまった……」


 がっくりと項垂れてますが心の声だっだ漏れですよ? 愛の巣って……ここは保育園ですから。


「何ですかその良く分からない作戦は!? それに私は何処に行ったんですか! ちゃんと居ますからね!」


 あ、代わりにツッコんでくれましたか。うん、100点満点です。でも『あ~ん』はちょっと魅力があるかも。


「でも……カズヤの苦しむ顔を見なくて済むようになったから、あたしは嬉しいよ!」


 ――ドキッとした。心から心配してくれて、そして喜んでくれている……嬉しいじゃないですか。


「イリアさん、本当にありがとうございます」


 建前でも無い、礼儀でも無い……自然と言葉がこぼれ落ちた。


「な、なんだい、改まって。て、照れるじゃないか!」


「でもイリアさん、和也、園児の胸触ったんですよ!」


 ……なんでそんな事言っちゃうかな? 今、良い場面だったじゃないですか。


「なっ!? カズヤ! 子供はダメだろ、犯罪だぞ!?」


 何故こうなる……イリアさんまで俺をそんな目で見て来るんですか? え、お説教? 嘘でしょ……。



≪≪≪



 やっとお説教から解放されて部屋に戻ってこれた……。最近、お説教をされる率が跳ね上がっているような気がする。

 まあ、半分以上は自分が悪いんだけど残りは全て冤罪だと思っている。


 とりあえず気を取り直して神ポイントのチェックをしておこう。



 ――神ポイント――


 ・前日までに神ポイント 2838ポイント


 ・園児の成長 500ポイント

 ・神力使用 -10ポイント


 ・現在の神ポイント 3328ポイント



 なんと! サラちゃんの頑張りがポイントになってるじゃないか!? 魔法の成功が成長とみなされたんだな。これで100日目にしてほぼ三分の一を達成した事になった。


「……確かめておくか」


 神ブックを開き念じた……。



 ――神界、上司さんに繋がれ。


 この行為で神ポイントは消費されない。神ブックの便利機能の一つである通信だ。


「これはこれは寿さん、いつもお世話になっております。こちら神界の上司でございます。なにかご用でございましょうか?」


 よし、繋がった、相変わらずの営業トークだな……。


「今日、神ポイントが三分の一まで貯まったのですが、試練についてちょっとお伺いしたくて」


「なんと! もうそこまで貯まったのですね。素晴らしい進捗具合じゃないですか。このペースで行けば机上計算上は余裕を持って達成出来そうですね」


 なんだろう、元の世界での仕事を思い出すぞ、このやりとりは。


「ありがとうございます。早速ですが宜しいでしょうか? 神ポイントが貯まり、試練を達成した場合、どうやって願いを叶えるのでしょうか?」


「はい、試練、つまり10000神ポイントを貯めますと願いが叶えられる状態になります。使用方法は神力と同じ要領で、神ポイント使用の旨と願いを合わせ、念じればいつでも叶えられます」


 なるほど、条件をクリアさせていればいつでも叶えられる仕組みなのか。


「もちろん、期限ぎりぎりまで温存しておく事も可能ですよ。寿さんの思いが固まるその日まで」


 ほんっとに頭の切れる人、いや神様だな、上司さんは。顔を合わせている訳でも無いのに完全に心を見透かされているじゃないですか。


「流石ですね、私の悩みなんてお見通しですか」


「いえいえ、恐縮です」


 今の神ポイント収集率はスタートダッシュが効いており、かなり良いペースを保てているので正直気が付けば達成してた。なんて可能性もある。

 しかしこのルール上、ポイントが貯まった瞬間にいきなり願いを叶える必要はなさそうだ。イリアさんとの約束もあるし、急に消える事は無いのでとりあえずは一安心だ。


「ありがとございます。これで今後も憂い無く保育園運営に力が注げます」


「それは良かったです。あっ、すみません! 今からCEOとの会議がありまして。もし他にご相談があれば、また後日にお願いさせていただいて宜しいでしょうか?」


 chief executive officer……最高責任者とか居るんだ。なんだろう、神界もサラリーマン社会が確立してるんですね。


「は、はい。私が聞きたかったのはそれだけですので。お忙しい中申し訳ありません」


 流石にCEOさんとの打ち合わせを邪魔する訳にはいかない。上司さんの立場が危うくなってしまうし、出世の道を閉ざしてしまって天罰とか笑えない。


「すみません、それでは失礼致します」


 上司さんとの通信を終え、神ブックを閉じた。ふと、空を眺めようと思い、窓を開けると心地良い夜風が部屋に吹き込んできた。その先には月明かりに照らされ、青々とした桜の大樹が伺える。


「今日は満月か……少し散歩でもしてみるか」


 ルーミィを起こさないように静かにドア開き、足を大樹の方へと向かわせた。



≪≪≪



「ここから始まったんだよなぁ……」


 大樹に手を当て丘からの景色を眺めると、手前に保育園、奥には村が映った。所々に暖色の明かりが灯っているのが伺えた。緩やかに流れる夜の一時だな。


「望んでも無い異世界に飛ばされて、女神様の再研修を任されて、保育園を運営押しつけられて」


 大樹から手を離し、ゆっくりと丘を下って行った。


「一日でも早く元の世界に帰りたい。そう思って頑張ってきたもんな」


 途中の草陰で立ち止まり、更に言葉を続けた。


「スライムに出会って料理を作って、何度も死にそうな目にあって。その度に早く帰りたいって気持ちになったものですよ?」


 口調を変え、草陰に向かって大きな独り言をつぶやいた。


「でも今は正直どうしたらいいのか、私にも分からないです。ですが、少なくとも神ポイントが貯まっても、期間中はぎりぎりまでこの世界に居ます。再研修中の女神様を放って置く訳にはいかないですから。ね、ルーミィさん?」


「……さんは、いらないってば……」


 草陰から桜色の光が消え、月明かりを受けたルーミィの姿が徐々に現れてきた。目が潤んでいるのが分かる。


「盗み聞きは良くないですよ?」


「だって、何も言わずに外に出て行くのが窓から見えたから……不安になって……」


 俺はイリアさんみたいに、気配を察知出来るような特殊スキルは持っていない。もちろん最初から気付いていた訳では無く、景色を眺めている時に、保育園の明かりが付いていなかった事で違和感を感じたのだ。 そしてたまたま草陰に桜色が見えたので口調を戻した訳である。


 この季節に桜スライムは居ないもんね。


「大切にしてくれてますね、その髪留め。本当に綺麗な桜色をしていますよ」


 ルーミィはお風呂上りなどにも使用している事が多く、園の仕事以外でも髪留めは多用してくれている。

でもその髪留めは光るので、夜に付けてると簡単に居場所バレてしまいますよ?


「これからも宜しくお願いしますね、ルーミィさん」


「もう! だからぁ!」


 少し意地悪してさん付けで呼んでみた。ふくれっ面を見せてきて怒っている様子だが本気で怒っている訳ではなさそうである。

 おっさんもこれぐらいのコミュニケーションが取れるようになったんだな……成長したものだ。


 今、結論を出す事は出来ないが、明日からも全力で保育園の運営を頑張ろう……月明かりの下で唸り声をあげ、膨れている女神様を見てそう心に誓った。


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