異世界86日目 6月25日(火) ①夏の新定番、スライムアイス!
「まぜまぜ~! まぜまぜ~!」
「……アメリア、上手」
日差しは強いが時折吹く風が暑さを緩和してくれている。その風に乗り、温められた牛乳の良い香りが辺りに漂った。園児達はお料理のお手伝いをしてくれている最中である。
今日は園で料理を作っているのは無く、今日は気分を一新して牧場のオープンテラスで料理を作らせて頂いている。
先日、アレクにお願いしていたのは牛乳の確保の他に牧場をお借りさせて頂く事だった。自然を前にしての調理は新鮮であり、初夏の風も心地良く感じる。普段なら冷房が欲しいところではあるが、割り切ってしまえばこれはこれでありだと思う。
「ふふ、二人とも上手ね」
「すみません、ナーシャさん。お手伝いをお願いしてしまって」
実は牧場で新製品を作らせて頂くには理由がある。それは時間だ。この料理、いかんせん完成までに時間がかかるのが弱点なのだ。事前に牛乳を仕入れていたのも時短の為だ。
もちろん、園でも作れるのだが保育時間には完成させる事が出来ない。出来れば今日作った物を園児達にその場ですぐに食べて欲しいのだ。
新製品である『スライムアイスクリーム』を。
――スライムアイスクリーム――
材料
牛乳、砂糖、ジャム、スライム
調理方法
①牛乳を砂糖と一緒に焦げないように鍋でか
き混ぜる。
②鍋の半分になるまで煮詰めて容器に入れて
冷ます。
③冷めてきたら牛乳を馴らしながら粒上に刻
んだスライムを入れる。
④ジャムなどで味付けを加え、冷凍庫に入れ
て凍らせれば完成。
「……カズヤ先生……牛乳半分になった」
「それじゃあ少し冷やすね。それと二人はスライムを一つ取って来てくれないかな? ほら、あそこに居るから」
「カズヤ、アイスクリームって暖かい食べ物なのかい?」
いえいえ、勇者様、このような暑い日中にそんな拷問のような真似はさせませんよ。それにしても今のアレクの問いかけ……この世界にはアイスは存在していないのか?
元勇者で世界のあちらこちらを旅して相当な知識を持っているアレクが知らないのであれば、恐らくこの世界には無いと言う解釈になりそうだ。
「いいえ、冷たい食べ物ですよ。そこでナーシャさんのお力をお借りしたくて」
「持ってきたよ~!」
アメリアちゃんの声に振り向くと、赤い髪と銀色の髪が風に乗って広がりとってもキュートである。この子達、美少女に成長するの待った無しだな。
そんな未来の美少女達が合わせた手には一つのスライムが乗っていた。ほんと仲良しさんである。それにこのあどけなさ、おっさん思わず笑みがこぼれちゃうよ。
「ごほん! 和也先生!?」
さて、警告が入りましたのでさっそく調理する事にしましょう。スライムをみじん切りにしてと。
しかしライムを捌くのにも大分慣れてきたな。最初はゼリーを切るような特殊な感覚に違和感があったけど、慣れてしまえば普通の食材と変わらないもんな。
「凄い包丁捌きだね」
「本当、私よりもずっと上手だわ」
勇者様に賢者様、恐縮でございます。そしてルーミィ、包丁を下ろそうか。怪我をする前に。
「ルーミィ、今日は切るのはこれだけですから。ま、また今度、腕前を披露して下さいね」
「むうう……私の出番は無いんだね……」
しぶしぶ包丁を置いてくれた……いつか調理指導してあげようとは思うんだけど、それまでは絶対に出番なんて作りませんからね?
刻んだスライムを鍋に入れ、軽くかき混ぜた後、用意した器に流し込んだ。ある程度冷めてはいるがここは大人が行わないと。万が一に火傷でもされると大変だ。
まあ、白銀狼、古龍のご息女である。この程度で火傷なんてしないであろうが。特に古龍であるソフィちゃんは。確実に火耐性持ってそうだもんな。
「さあ、二人はジャムを垂らして模様を付けるよ。好きな味を選んでいいからね。じゃあ見ててね」
器に移した生地にジャムを垂らして少し表面をかき混ぜると、綺麗なマーブル模様が浮かび上がった。果実の甘味も交わったぐるぐるアイスの完成である。
「……綺麗」
「すご~い! ぐるぐる~!」
さて、園児達がマーブル作りに夢中になっている間にナーシャさんにお願いしておこう。
「ナーシャさん、魔法で冷気的な物を出して貰えませんか? あの器の中身を凍らせたいので」
そう、魔法で瞬間冷凍庫を作って貰い、一気に凍らすのだ。ただ直接魔法をかけてしまったらただの氷塊になってしまうので間接的に冷やす必要がある。
アレクからはナーシャさんは魔法が得意と伺っており、それが可能とも聞いている。これにより通常の冷凍庫よりも更に低い温度を作り出す事が実現可能と踏んだのだ。
「ええ、それじゃあ、絶対零度ぐらいの温度でいいかしら?」
-二百七十三.十五度も要りません。この世の全てを凍てつかせる気ですか!? というか大賢者様の出力が半端無い……。
「あの……-三十度ぐらいでお願いしても宜しいでしょうか?」
「分かったわ。じゃあその辺りで……それ!」
掛け声と共にオープンテラスに設置されたテーブルの周りに水色の光と雪の結晶的な物が降り注いだ。
ナーシャさんが使った魔法は氷を出すのでは無く、空間をその温度にしてしまうという物だった。空間が切り取られたかのようにテーブルの上には立方体の青白いものが出現していた。即席の強冷凍庫の完成だ。しかも空間なのに一切冷気が漏れてこない。一体どんな仕組みなんだ……。
園児達が作ったアイスの入った器を乗せたトレイを持ち、そのままその空間に手を入れてみたのだが、中がとっても冷たい! ってか痛い! 取り出し出来無い程では無いけど。
そしてナーシャさん、貴女が本気になればこの世界を絶対零度の世界に変える事が出来る事が判明いたしました。
そんな事は万に一つも無いかと思いますが、アレク、絶対に不倫とかしないで下さいね。氷河期以上の試練がこの世界を襲う事になっちゃうから。
「ありがとうございます。これならば昼食を食べている間に完成すると思います。今日は私がお弁当を作って持って来ていますのでお二人も一緒にいかがですか?」
「カズヤ特製のお弁当か、楽しみだね、是非いただくよ」
「ええ、私も楽しみです♪」
その会話の隅でルーミィは膝を抱えて座り込み、いじけている。拗ねないで下さい……今度包丁の使わない料理を教えてあげますから……。
だが少々機嫌をとっておくとしよう。このままいじけられていても困るもんな。
「……今日のお弁当はルーミィの大好きなおにぎりですよ。しかもいろいろな具が入ってますから」
ふくれっ面の女神様の耳元で囁いた。これが愛の言葉では無く、おにぎりの内容と言うのが何とも言えないが……。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、立ち上がりスキップで草原で遊んでいる園児達を呼び戻しに行ってくれた。この食いしん坊系美少女め。
園児達とも合流してテラスに向かおうとした時であった。ルーミィの少し横を歩くアメリアちゃんのケモミミと尻尾が跳ね上がり硬直し、同時にソフィちゃんが走ってきて俺の足にしがみついて来た。
二人とも完全に怯えている様子が見て取れる。絶対強者の子供がである。
……ええぇ~、この状況知ってるよぉ。命に関わる絶対にダメなやつじゃん。
ルーミィもアメリアちゃんの異常を察し、そのまま抱き抱え俺の元に寄って来た。ま、まあ、ここにはイケメン勇者様と絶対零度の賢者様も居るから今回は大丈夫であろう。
……そう願いたい。




