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異世界83日目 6月22日(土) ⑫サマーフェス ~今度は和也が行方不明になる~


 ギルドブースを抜け出し、露店ブースでお酒を購入してキャンプファイヤーから少し離れた場所に腰を落とした。

 改めて周囲様子を伺うと広場の中央に組み上げられた土台から炎は高く舞い上がり、その周囲の談笑している人達を照らしている。闇夜の中、赤く燃える光を眺めていると自然と心が落ち着いてた。


 しかし濃い、濃過ぎる……アメリアちゃんとソフィちゃんの癒しが懐かしく感じてしまう。ああ、なんか炎の中にあの無邪気な二人を思い描いてしまう。

 居たら丸焼けだな……いや、ならないか。相当な耐性持ってそうだもんな、あの二人は。


「おや、カズヤじゃないか。一人かい?」


 精神の安定を計る為、炎の中に園児達を思い描くという現実逃避中にイケメン勇者様であるアレクが声をかけてきてくれた。

 

 お会いしとうございました! 是非とも聞いて頂きたいお話があるんですぅ……。


「え、ええ。アレクもお一人ですか?」


「そうだよ。ナーシャやおじいさん達もさっき転移魔法で家に戻った所だしね。僕は朝まで居る予定さ」


「アレク、実は他言無用で相談があるのですが……」


 周りを見渡し、話声が聞こえない事を確認してから全てを打ち明けた。流石にルーミィの再研修の事は伏せたが、手違いでこの異世界に来た事、神ポイントの事、神力の事、そして今の状況を。




「成程、それで保育園という仕事をしていたんだね」


 あれ? 意外と驚いていない。って言うか保育園の運営が一番印象に残ったんですか? ほら、神力とかもっとツッコむ所ありましたよね?


 そんな肩すかしを喰らったような表情をしていたら俺の内心が見えているかのようにアレクが付け加えてきた。


「カズヤのその腰に付けてる本、神ブックですよね? 何の試練をしているのかは知らなかったけど、神の力は感じていたからね」


 お見通しでございましたか。流石は勇者だ。神ブックの事を知っているとは……。もしかして神様ともお知り合いなんですかね?


「流石アレクですね。そう言う訳で私がこの世界に居られるのは三年弱となっており、やがてはこの世界から去ってしまう身です。言い寄られている二人にはどう接したらいいのか分からなくて。やはり二人には深く関わらない方が正解なのでしょうか……」


 まさか言い寄られる日が来ようなど夢にも思わなかったが、こんな事なら言い寄られない方がまだマシだ。未練が残っちゃうじゃないか……。


「ルーミィちゃんは全て知ってるんですよね? それにイリアさんはカズヤが思っている以上に強い人ですよ?」


「ええ、それは承知しているのですが……」


 本当の意味でも強いんですけどね。あの殺気は出来る事なら二度と経験したくない。怖いもん。


「僕もカズヤには好感を持っていますよ? 園児達の為に尽力する姿がね。そんな姿を間近に見てお二人も好感を持ったと思います。無意識かも知れませんが、試練達成の為ではなく、純粋に園児達を正しく導こうとしていますもんね」


 アレクはじっと俺の目を見て話してくれている。そして知らず知らずの内に行っていた事をまるで見ていたかのように的確に言い当てて来た。

 確かに元の世界に帰りたいという思いはある。だけど知らない間にどうやったら園児達が喜んでくれるかという思いの方が強くなってるな……。

 いつからだろう、最初はこの世界があんなに嫌だったのに……逆転しちゃってるな。


「カズヤは今のままでいいと思います。これからもその気持ちは持ち続けて下さい。それが出来なければお二人の気持ちが離れるだけでなく、試練達成も叶わないと思います」


 よくよく考えたら当り前の事だ。神の試練がそんな容易なものである筈が無い。少なくとも元の世界に帰る事を最優先にしていてはダメなんだ……アレクに言われて初めて気付いた……。


「いつか真実を伝える時は必ず来ます。その時に後悔をしない選択をし、言葉に出来るようにならないといけません。その為にもカズヤ自身が成長する必要があります」


 アレクの言葉の一言一句が心に突き刺さる。なんて素晴らしい人なんだ……強いだけでなく優しく、そして厳しい。これが勇者か……。


「すみません、なんか説教染みた事を偉そうに喋ってしまって」


「とんでもない! アレクの言葉、しっかりと受け取らせて貰いました。そして自分がどうあるべきかも、二人の気持ちの答え方も……」


「ふふ、いい目をしていますよ。これじゃあ、ますますお二人に言い寄られてしまいそうですね」


 真剣な表情を緩め、冗談を飛ばしてくる。そうか……少し恥ずかしいがこれが友と呼ばれるものか。本気で心配してくれ、本気で怒ってくれる存在、アレクからすれば迷惑な話かもしれないが初めて心を許せる存在だ。


「さて……そろそろ戻っては如何ですか? きっとカズヤの事を探していますよ? 女性を放置するのは感心しませんよ?」


 歯を光らせていつものイケメンスマイルを向けてきた。ありがとう、勇者様! 恋愛についてはどうにもならないけど、俺、吹っ切れました!

 よし、戻ろう! ルーミィとイリアさんに怒られに! 


 ……やっぱちょっと嫌かも。吹っ切れたけどそれとは別に純粋に怖いから。



≪≪≪



「和也! どこ行ってたの!? 探したんだよ!」


 ギルドブースに戻る途中に女性陣と鉢合わせた。ルーミィはすっかりろれつが戻っているな。もう酔いが覚めたのか?


「まったく、今度はカズヤが行方不明になったのかと思ったよ」


 イリアさんの言葉にルーミィが項垂れ、頬を膨らましながら申し訳なさそうに両手の人差し指をツンツンしている。可愛い仕草だこと。


「まあまあ、まだ朝まで時間はたっぷりあるよ! さあ、お話の続きをしましょ!」


 そこのムフフ、お願いだからもう二人に強いお酒を飲ませないでよ……。


「すみません、ちょっとアレクと話込んでしまいまして」


「無駄な時間を使うんじゃない。朝までしっかり付き合ってもらうからな!」


 無駄って……勇者様との語らいですよ? それに朝までは勘弁して欲しいです……。


「ちょっと、イリアさん! 近付き過ぎです! あと、その服は刺激が強過ぎですよ!? カズヤもスリットとか胸元を見ないの!」


 え、今になってそこツッコむの? でもそこを制限されたら人の視野的にイリアさんを視認出来なくなりませんか?


 やっと普段通りのやりとりに戻れた。さて、お迎えに来てもらった事だしお礼も兼ねたお願いをさせて頂こうかな。俺には……いや、さくら保育園にがこの二人が必要だ。


「二人とも、これからもさくら保育園共々、宜しくお願いいたしますね」


「え? う、うん、こちらこそ宜しくお願い致します?」


「あ、ああ。よ、宜しくな?」


 突拍子も無いセリフに驚いたのであろう、反応がワンテンポ遅い上、語尾がおかしい。小首を傾げる二人だが今後も仲良くやって行きたく思う。


「ねえ、私は?」


「ああ、すみません、忘れてました。フラムさんも宜しくお願い致しますね」


 こちらメイドさんにはジョークを織り交ぜておくとしよう。少し拗ねている様子だが散々やられたので小さなお返しだ。是非とも受け取って頂きたい。


「もう! カズヤさんの意地悪! さ、飲み直しましょう!」


 尚、この後、本当に朝方まで飲んでしまった。ルーミィも頑張ってはいたものの、途中で限界に達したのか地面の上で丸くなって寝てしまった……。


 風邪引くから地面で寝ちゃダメだってば……。


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