異世界83日目 6月22日(土) ⑪サマーフェス ~ルーミィVSイリアさん~
「お帰りなさい、お二人さん!」
「おっ、無事に捕まえたようだな」
ギルドブースに戻ってくるとあんなに賑わっていたのに今は村の方が誰一人いなかった。ルーミィさんを探したりなんだかんだしている間に相当時間を費やしてしまった為、どうやらギルドブースは閉店してしまったようである。
ただ、他のお客さんは一人も居ないのだが、樽テーブルにはフラムさんとイリアさんがお酒を飲んでいる姿が映った。
……フラムさんが居るのはいい。ここはギルドブースだし、会いに来た訳だから。問題は何故そこにイリアさんが一緒に居るんですか? 完全に波乱の予感しかしませんけど!?
後、スリットが際どいを通り越して全開です。何度も言いますがパンツ見えてますから。
「か、ず、やぁ?」
なんかこのやり取りも随分久しぶりな気がする……なんだろうこの安心感。いや、厳密に言えば危機的状況なんだろうけど。
「す、すみません、ルーミィさん! その、ついですね……」
「……」
黙っておっさんの目を見てくる……お、怒ってる? あ、違う! それもあるだろうけど、呼び方か!
「すみません、ル、ルーミィ……」
「もう! イリアさんを見過ぎだよ! エッチなんだから!」
怒ってはいるが満足はしてくれたようだ。でもエッチって……それはイリアさんが悪いと思う。それにおっさんはお年頃なのものでして。
「カズヤさんがルーミィって呼んでるぅ♪ もう、仲良くなっちゃって!」
「見せつけてくれるねえ~?」
うわ! 恥ずかしい! 女性にさんを付けせず名前で呼ぶなんてルーミィさん……いや、ルーミィが初めてだ。この程度の経験値しかないおっさんを寄ってたかっていじめないで欲しい……。
「そうそう、サマーフェスも大詰めで大体のブースは閉まってギルドブースも店閉まいの時間なんだ。私もお仕事終わったし、イリアさんと一緒に飲む事にしたの! 今は中央の広場でキャンプファイヤーも始まってるよ。あ、キャンプファイヤー周辺のブースは朝までやってるからね」
特設会場の方を見ると赤く舞い上がる炎が見え、その周辺にはお酒を片手に持ち談笑している姿が伺える。何人か寝てしまってる人も居るようだが……いや、酔い潰れているなあれは。
しかしいくら夏とは言え、外で寝ると風邪引くよ?
そんなフラムさんが言う通り、確かにここまで来る際に閉まっているブースや片付けをしているブースばかりだった。だがお祭りムードは依然と消えていない。クレイド曰く悪い大人の時間が始まっているようである。
そういえば、マスターとママの姿も見当たらないが……。
「あ、パパとママはこの時間は奥のカップルシートだよ。邪魔しちゃダメだよ? 大人の時間ってやつだからね」
周りを見渡している姿にフラムさんが感付き、疑問を解消してくれた。一応俺も立派な大人なのでそんな野暮な事はしませんよ。まあ、マスターの料理が食べれないのは残念だけど。
「さあ、私達も飲もうよ! こっちの樽テーブルは使いたい放題だからさ!」
フラムさんがグラスにお酒を注いでくれているのだが、キャンプファイヤーも見学したい気持ちもあったりする。だが迷惑をかけた手前もあるし、少しゆっくりしたいのでここはお言葉に甘えさせて貰おう。
お酒を飲みながら夜をまったり過ごす……それも中々いいもんだ。
「さてと! じゃあ二人のお話聞かせて! 何があったのかなぁ~?」
……まったり過ごす。そんな甘い考えをしていた時期もありました。やはりそれが狙いか。このムフフメイドめ! ほら、ルーミィも顔が真っ赤になってるじゃないか!
ん、ちょっと待て……。
注がれたお酒を一口飲み、アルコール度数を確認すると、いつもの芳醇な葡萄酒では無く、喉にガツンと来るウイスキーに近い味だった。
「かっ……!? こ、これって……」
これは……かなり度数が高い! これは……蒸留酒か! 普通ストレートで飲むものじゃないぞ!? おっさんでもせめてロックにしたいレベルだ。
ルーミィのグラスにはすでに注がれていたお酒は残っていない……謀ったな! ムフフめ!
目線をフラムさんに向けると。口角を上げ、ニヤリと小悪魔的な表情を浮かべているフラムさんを確認出来た。素面では口を割らないと見越し、更に情報の回収を早める為に強めのアルコールを摂取させたのか!?
とは言ってもグラスに一杯だ。かなりきついお酒だが、それだけで全てを語る程、ルーミィも理性が無くなる訳では無いだろう。とりあえず水を飲ませて酔いを覚ませ――
「イ、イ、イリアしゃん! 私、ゆじゅりましぇんよ! キ、キシュもしましたし、しゃんも外して呼んでくれりゅようになりましゅたし、頭もにゃでてくれましゅた!」
ちょっと待てルーミィ。一つ一つ解決していこう。まずそのろれつな。そして全部暴露しちゃってますね? 見事にフラムさんの術中にはまってるから。
「へえ、カズヤ? サービスし過ぎじゃないか? あたしにはそんな事してくれなかったのになぁ?」
完全に人を殺すような目で睨まれた……殺意だ、殺意を感じますよ!?
それに今の発言聞き取れたんですか? 俺は事の顛末を知っているのでなんとか理解出来たのですが……それにイリアさんってそんな怖い目をするお方でしたっけ?
……も、もしかして!?
再びフラムさんの方を向くと空になった瓶を二本持ち上げ、先程の笑みを遙かに超えるもはや純粋な悪魔の笑みを浮かべていた。
既にイリアさんにまで手を回していたとは……おのれ策士め!
「あたしは捕まえて来いとは言ったが、キスや頭を撫でて来いとまでは言った覚えは無い!」
えっ? 本気で怖いんですけど。しかも完璧に聞き取れてますね。そっちにも驚きです。
無表情の胸元全開のチャイナさん、いや違った。イリアさんが真横に来た。普段なら鼻の下が伸びて顔に出る展開だが今はそれ所では無い。今この瞬間、俺は命の危機を感じている。
やばい……殺られる!?
「このきゃみきゃざりもきゃずやがくれたし、そりぇとイリアしゃん! きゃずやに近づきしゅぎでしゅよ!」
よし、まずルーミィに水を飲ませよう、それはもう大量に。もう、きゃっきゃ言って何を喋っているのか全く分からない。
「ほう、その可愛い髪飾りまでプレゼントしていたのか。へえ~」
完璧なリスニングですね。どうして全て聞き取れてるんですか? 本当に酔ってます?
「……フラムさん。とりあえずお水をルーミィさんとイリアさんに」
流石にやり過ぎたと思ったのか、少々顔を引きつらせたフラムさんは急いで水を取りに行ってくれた。ほんとやり過ぎである。急性アルコール中毒にでもなったらどうするつもりなんだ?
「またしゃんがちゅいてる!」
そこ、気付くんですね……。俺も無意識でしたよ?
「で、どこにキスしたんだ?」
左右から矢継ぎ早に! 早く、早くお水を! さもないとちっぽけなおっさんの命が消えてしまいますよ!?
し、仕方無いとりあえず場を凌ぐ為にも会話しておかないと。だんまりを決め込むと顔を鷲掴みにされて足が地面から離れてしまう可能性がある。
冗談じゃ無くイリアさんには余裕でそれを成し遂げるだけのパワーがあるのだから……。
「い、いえ。そのルーミィから……頬に」
その瞬間、凍りつく感覚を感じた。この感じは知っている。アメリアの親御さんから頂いたものと同じだ。
今となっては良い経験、思い出である……ってなんでイリアさん殺気使えるの? おかしくね?
「はい! イリアさん、ルーミィちゃん、お水だよ! とりあえず飲んで!」
首の皮一枚だった……『ちっ』というイリアさんの声が聞こえたが水を飲んで少し落ち着いて頂きたい……。
さっきの舌打ち、マジで漏らしそうになりましたよ?
フラムさんが持って来てくれた水を二人は飲み干し、修羅場は少し小休止となった。かに思われたが、颯爽と口火を切ったのはまさかのルーミィであった。
「でもイリアしゃんが先にキ、キスしたって。だから私も負けられにゃいと思って!」
「なっ!? カ、カズヤ! ルーミィに言ったのか!? そ、そんな事を人に言うもんじゃないぞ!」
先ほどの殺気を放っていたイリアさんとは打って変わり、照れと同様で顔を赤らめている。ルーミィもまだ少しろれつが怪しいが十分聞き取れるようになった。
尚、この様子をフラムさんは大変幸せそうな顔で相槌を打ちながら眺めていらっしゃる。この悪魔メイドめ! 何を楽しんでいるんだ!
「ええい! そこまで知られては仕方無い! もう恥もへったくれも無いね! こうなったら私も手加減しないぞ! ルーミィ! カズヤはあたしがもらうからな!」
「受けて立つよ! イリアしゃん! 絶対渡しません!」
二人は顔を突き合わせて火花を散らしているのだが……どうしてこうなる? なぜ美少女女神様VS豊満腕っぷし商人さんの構図になるのだ? そして何? この俺の急なモテ気襲来は。想定外過ぎる。
「あの、盛り上がっている所、恐縮なのですがお手洗いに行かせて貰いますね……」
二人が何か言い争っているのを横目に、トイレに行くという名目でそっとブースから抜け出す事に成功した……。
付き合ってられません……おっさんはエスケープしますね……。




