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異世界75日目 6月14日(金) ②牧場の秘密、暴かれる!


 サマーフェスのイベントを想定したお店屋さんごっこをメインに遊んだ午後の保育も終わり、今はキッチンに移動してルーミィさんと一緒にスライムクッキーとスライム水まんじゅうを作っている。


 ここの所、アレクにはお世話になりっぱなしであり、サマーフェス前日の竹の移動も協力してくれる約束になっている。

 そこまで手を焼かせては流石にお礼の一つも必要だと考え、ルーミィさんの腕前を活かして牧場を題材にしたクッキーをプレゼントする事にしたのだ。


 力作を制作中なのだがしょせんはクッキー。割れたりいつかは腐ってしまうのが世の事情なのだが、どうやらこの世界には保存をする魔法なるものがあるらしい。

 なのでそれを施せば牧場の看板として使えると思うし、アレク本人が魔法を使えないにしてもアテは必ずある筈だ。なにせ勇者様だし。


 もちろん食べて貰えるように通常の物も作っている。水まんじゅうはご年配にも喜ばれるお菓子なのでおじいさんとおばあさんにも喜んでもらえる筈である。


「出来たよ~!」


 可愛らしい声がキッチンに鳴り響いたのでスライム水まんじゅうを作る手を止め、ルーミィさんの工房へとお邪魔させてもらう事にした。

 すぐ隣に居るんだけどね。


 焼成前のオーブンのプレートには、面積ををめいいっぱい使った巨大なクッキーが据えられていたのだが……牧場の建物に、躍動感溢れる動物達、牧場の方々の人柄が滲み出ている人物像。とても材料がクッキーとは思えない、出来栄えである。これは彫刻とも言えるだろう。


 この作品を見るだけで牧場に足を運びたくなる。そんな魅力を感じずにはいられない超大作……大変素晴らしゅうございます。額に入れて半径1メートルは近づかないようにバリケードしないようにしないといけないな。もはや歴史的財産としての価値を感じる程の美術品である。


 しかし、俺はこれを壊さずに牧場まで持って行けるだろうか……プレッシャーが凄いんですけど。当のルーミィさんは『壊れたらまた作るよ?』などと軽く言ってましたけどね……。

 女神様のポテンシャルがもう分からない。箸は使えないけど超絶造形美は作れるって……。芸術って理屈じゃ無いって良く言われるけど、こういう事なのも知れない。



≪≪≪



「……これ伝説級アイテム(アーティファクト)と呼んでも差し支えない出来栄えですね……一応確認なのですが、これって手作りクッキーですよね?」


 ナーシャさんが神妙な面持ちでクッキーを見ているが、安心して下さい。それ、本物のクッキーですから。ちゃんとハンドメイドですよ?


「こんな精巧なクッキー初めて見たわい……」


「私もですよ、おじいさん。牧場の風景が鮮明に表現されてますねえ」


 おじいさんとおばあさんも興味深くクッキーを覗き込んでいる中、アレクも羊を小屋に戻す作業を文字通り光の速さで終わらせ、こちらに瞬間移動して現れた。


 急に現れるとマジでびっくりするんですけど。クッキー割れたらどうするんですか?


「カズヤ、ルーミィちゃん、いらっしゃい。っとこれは何だい? アーティファクトかい?」


 伝説級の大安売りだ。だがそこまで絶賛される価値のあるものだと思う。でも牧場の方々にそこまで言われると、何かこのクッキーに特殊な能力があるように見えてきた……。

 主材料はただの小麦粉なんだけど。


「このクッキーは食べるにしては惜し過ぎますねえ。ルーミィちゃん、保存してもいいかしら?」


「はい! 構わないですよ。食べて頂く分は別に用意してますので!」


 笑顔ではきはき受け答えしていますが、生地を作ったのは俺なんですが。それよりもおばあさん、魔法使えるんですね。まあ、何かあるとは思っていましたが……。


 おばあさんが呪文を詠唱するとクッキーの下に魔方陣が現れるや光がほとばしり、その光がクッキーに吸い込まれていった。


 聞くところによると、永久に時間を止める魔法と不壊の魔法をかけたのだとか。そんな便利な魔法があるんですね……。


 そういえばカリムさんもこの前、アメリアちゃんの作ったパンを保存してたな……そんな簡単に誰でも出来ちゃう魔法では無いとは思うんだけど。


「流石は聖級賢者の魔法ですね、王級の私にはそこまでの魔法は使えませんよ。せいぜい数十年時を止めるのが精一杯ですもの。私もまだまだですね……」


 新発見、勇者様の他に大賢者様が二名いらっしゃいましたよ。しかも枕詞が世界の頂点に立つ位だ。それにナーシャさん、自分の実力を嘆いていますが数十年も時間を止めれるだけでもぶっ飛んだ事ですから。


 もう分かりました。この陣容から言うと、きっとおじいさんも元勇者に間違いない。ここは歴代勇者パーティが経営する牧場だったんだ。勇者の実家は牧場と言う事になるな……。


「いつ見てもばあさんの魔法は鮮やかじゃのう」


「何を言ってるんですか、暗黒世界の支配者なんて呼ばれてる魔王のくせに。おじいさんの魔法の方が鮮やかですよ」


 少し顔を赤くしながらおじいさんの腕を軽く叩いている。お年を召しても変わらずにじゃれ合っている姿から仲の良さが伝わってくる。まさに理想の老夫婦だな。

 そうそう、一つ訂正しておかないといけませんね……。


 ここに魔王が居るぞぉ!? 


 ま、まあ、冷静に考えたら勇者が居るなら魔王も居るか……って、アレク早く討伐を! いや、でも一緒に仲良く牧場を経営しながら暮らしている訳だし……が、害は無いと言う事なのだろうか?


 それにしてもなんなの? この牧場は勇者夫婦と魔王夫婦で仲良く牧場経営しているのか!? 斜め上にも程がある! そんなコラボ聞いた事が無いぞ! 世も末だよ!


 ここってどんな世界だよ……神超えのモンスターはごろごろ居るし、あげく暗黒世界の支配者がこんなのどかな村に居城構えてるなんて誰が想像しただろうか……。てか暗黒世界って何よ……。


「カズヤ、ルーミィちゃん、本当に良いものをありがとうございます。牧場の入口に飾らせてもらいますね!」


 状況の理解に苦しむ俺とルーミィさんにナーシャさんが笑顔でお礼を伝えてくれたのだが……心情としてそれどころでは無いんですけど?


「ま、魔王……? んあ……あ、い、いえ。いつもお世話になってますし、ほんの気持ちです。あとスライム水まんじゅうも持って来てますので召し上がって下さい。ね、ルーミィさん」


「あ、う、うん。どうぞ遠慮無く! ま、まあ、魔王の存在は剣と魔法の世界には必然だし……で、でも暗黒世界の支配者って……どこかで聞いた事あるような……」


 ルーミィさんも驚いて俺と同じく反応が鈍くなっているようだが何か引っかかっている様子だ。それにしてもこの村は一体どうなってるんだ? 全世界の戦闘力が村の片隅に集結してるじゃないか……。

 まあ、うちの保育園の内情も言えたものじゃ無いけどもさ……。


 まさか武器屋食堂のおばちゃんが『聖女やってました』とか、おっちゃんは武器収集が趣味だから『バトルマスターしてた』なんて事もあり得るな……今度聞いてみよう……。


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