異世界75日目 6月14日(金) ①ミニ流しそうめん
先日手に入れた竹は遊戯室の一角に置き、毎日コツコツと加工を続けたおかげで流しそうめんに必要なコースの竹はもちろん、器なども揃いつつある。
当初、園児達も急に部屋の隅に積まれた竹に驚いていたが、あまり近づかないように注意し、今では風景の一部と化している。
そんな日常を過ごしていると徐々に雨の頻度も落ちていき、雨季の明ける兆しが出てきた。クレイドからもサマーフェスは一週間後に正式決定したとの連絡も受けている。
「みてぇ~、おまめさん上手につかめるようになったよ~!」
「……ソフィも……角度と力加減……摩擦係数の把握が肝」
竹で作られた日本の棒を上手に扱い二人は小豆を上手に挟んで持ち上げている。そう、二人の園児が持っているのはチョップスティック、箸である。
やはり異世界とはいえ日本人として生まれ、慣れ親しんだ食事アイテムである箸が恋しくなり、目の前に大量の材料があるので自分用に作ってみたのが始まりだった。
それを見ていた園児達も興味を持っていた様子なので教育の一環としてマイ箸を作る企画を実施し、それぞれ自分の箸を作ってみた。
もちろん、刃物を使うので怪我をしないよう細心の注意を払いながらの作業をする必要があったので、園児を膝の上に乗せ、刃物を握らせた上から俺の手を被せて安全面も考慮した作業を行った。
これならば最悪俺の手を切るだけで済むと思い実施したのだが、まあ、想像通りルーミィさんは蔑んだ瞳で俺を見ていた。
ただ、アメリアちゃんが『はい、次はルーミィせんせ~の番だよ~』と俺の膝から降りて放った一言に動揺しながらも座ろうとしてきたのには驚いた。
実際にルーミィさんの包丁さばきは園児を下回るので、確かに同じ対応をしてなんらおかしくないのだが、いかんせん美少女を膝の上に置いて刃物を触るなど緊張して俺の手がボロ雑巾になる可能性がある。
まあ、ソフィちゃんがルーミィさんを不思議がって見つめていたのに気付き、我に返ったようで事無きを得たのではあるが。
それぞれ作った箸で使い方も教えてあげると、最初は戸惑いがあったものの、瞬く間に園児の二人は器用に箸を使いこなし、今ではスライム水まんじゅう用の小豆をいとも簡単に掴めるようにまでなった。
「うぐぐぅ……掴めないよぉ……お豆さん、逃げないの!」
小豆は生きてませんから逃げませんよ。そう……園児の二人は器用に使いこなせるようになったのだが……いいかんせん、ルーミィさんは未だに園児達からアドバイスを貰いながら修業中である。
まあ、そのあれですね……頑張って下さい。
やはりそうめんを食べるのにフォークではいささか風情に欠けると思い、竹も余っていたので椀と一緒に箸も大量生産した。竹の器に竹の箸、そしてほのかに香る青竹の匂い……う~ん、夏ですなあ。
そんな夏を感じるアイテムに加え、園内に吹き込む風も夏独特の爽快なものになっている。まだ六月も中旬だが夏はすぐそこまで来ているようだ。
「ルーミィせんせ~、もっと力をぬいたほうがいいよ~」
「……角度を後五度寝かせる……お箸の接地面積を限界まで使う」
遊戯室の入り口で爽やかな風に当たっていると、園児達の激励の声が耳に入った。その先にはルーミィさんが額に玉の汗を浮かべながらお豆さんと格闘していた。というか、まだやってたんですか……。
それとソフィちゃん、非常に的確なアドバイスではあると思うんだけど、精密過ぎやしませんかね? 俺でも分からないよ?
その後も園児達の応援やアドバイスは尽き無い。もはやどっちが先生なのか怪しい状況となっている。
「や、やったよぉっ!?」
箸で高々と掴んだお豆さんを天に掲げ、肩で息をしながらやりきった表情を作り出すルーミィさん……完全に悦に浸ってますね?
園児達からも歓声が上がり拍手喝采を頂いているようですが……。
ルーミィさん、立場逆です。先生が本気で褒められてどうするの?
ちなみこの大量生産した箸はイベントで使う予定であり、その際に園児達とルーミィさんに使い方をレクチャーして貰う予定にしている。
上手く箸を使わないと食べれないと言うゲーム性も追加してエンターテインメント性を高めてみた。ゲームは難しい方が面白いし、燃える筈だ。
さて、今日は当日イベンターになる三人の為に、先に流しそうめんを楽しんで貰おうと思っている。特権と言うやつだ。
「ああっ!? 落ちたぁ! 折角掴んでたのにぃ! もう、こんなの手で取った方が速いよ!」
手で掴むって……野性味溢れ過ぎやしませんか? 可憐な美少女なんでしょ? ルーミィさんはイベンターになれるかな……。
≪≪≪
運動場に出て本番と比べて少々小ぶりにはなるが、園児達用に低めに竹を組み合わせたコースを作ってみた。園の備え付けのホースから水を流し準備を進め、皆に特製のスライムつゆを竹の器に注いであげて食べる準備も完ぺきである。
既に俺の手元にはそうめんが持たれている。実はこのそうめんの製作技術、ある境を機に爆発的な進化を遂げた。
最初の頃はパスタマシンそのものの太さであったが、キッチンの上部に縄を張り、何度も伸ばすと言う工程にシフトし試行錯誤してみた。この作業を取り入れる事により、実際の麺とほとんど変わらないレベルの細さを手に入れる事が出来た。
実際のそうめんの作り方も確かこのような工程を入れていたような気もするのだが、記憶が曖昧だったりする。まあ、結果良ければそれで良しだ!
「じゃあ流すよ~。上手にそうめんを掴んでね~」
竹の内側を緩やかに流れていくそうめんがとても風流である。
「……水の流れる速さ……水圧……タイミング……そこ」
「わ~い! とれたあ~!」
「むうぅ……あぁ……。くぅう……あれ……ねえ、和也? これってこの前食べたのと同じなの? かなり細くなってて掴めないんだけど!?」
約一名全く掴めていない。そしてなんかキレられた……。
あ、アメリアちゃんが笑顔で自分で掴んだそうめんをルーミィさんの器に入れてくれてる。優しいねぇ~! ソフィちゃんからも……結局自分では一本も取れなかったみたいですね……。
おそらく本番はルーミィさんみたいな人も多いだろうから、そういった方用に一番後ろにはザルが設置してある。掴み損ねたそうめんは、そこに貯まる仕組みにしてある。
なので実は箸が使えなくても食べれない事は無い。ゲームとはいえ、やっぱり食べて貰わないとね。
「ちゅるちゅるしておいし~」
「……初めて食べる味……美味しい」
「う~ん! 暑い日に食べると最高! しかものど越しがこの前食べた物とは全然違うよ! これなら何杯でも食べれそう!」
皆ご満悦のようだ。よ~し、じゃんじゃん流すぞ! ってルーミィさんは下流のザルに移動してるし。
説明はしていなかったが本能で悟ったか、一番食べれる場所を……。
昼食を兼ねた試運転も無事成功したし、後は本番を待つのみだ。午後からは園児達とルーミィさんにイベントの案内の方法を教えようかな。
これはお店屋さんごっこの延長だし、遊びながら覚えてくれるだろう。
「和也先生~! もっとじゃんじゃん流してぇ~!」
下流に溜まったそうめんを鷲掴みして自分の器に入れてる姿が映った……あの、アメリアちゃんもソフィちゃんも引いてるよ?
食べる時は箸を使うんだろうけど、その捕獲方法はちょっとどうかと思いますよ?




