異世界55日目 5月25日(土) 勇者様の持ち物
さくら保育園が建っている丘の向こうには桜の大樹が根を張り構え、その更に奥には広大な森が広がっている。正直、スライム採取は大樹までで終わらせてしまうので分からなかったが、森の少し脇にはしっかりとした山道があった。
ほとんど園と村の行き来しかしていなかったもんな……今まで全く気付かなかったわ。異世界に来てふた月弱、唯一探検したのがアメリアちゃんを見つけた時だけとは。
出不精にも程があるな……。
そんな中、今日はクレイドとアレクがサマーフェスに使う材料を取りに行く為に協力してくれており、馬車を用意して園にまで迎えに来てくれている。
「うわぁ……馬車って乗るの初めてです」
「私も初めてだよ~!」
アレクさんが手綱を引く馬車の荷台に乗り込んだのだが、これが思っていたよりも乗り心地が良かった。
後、俺の勘違いでなければ……。
「あの、アレク? この馬車ってひょっとして……」
「うん、イリアさんの馬車だよ。ちょっと貸してもらったんだ」
やはり、あのお利口さんなお馬さんは見覚えがあったのだ。と言う事は……。
「むぅ……仕方無い。これは仕方無い……」
隣を見ると案の定なんかブツブツ言ってるルーミィさんが居た。どうやら耐えてはくれているようだ……良かった、ここでヘソを曲げて『降りる!』とか言い出さなくて。
「しかし馬車に乗った事が無いとは……カズヤの世界の乗り物ってどんなものがあるんだ?」
「えっとぉ……話すと長くなると言いますか、信じて貰えないかも知れませんが……」
元の世界の移動手段の例をいくつか挙げているとまあ、驚かれると言うか呆気にとられるというか。想像通りの微妙な反応が返って来た。
まあ、車や電車の事を話してもピンとこなかったというのが本音のところだろう。俺だってこの世界の魔法の仕組みを伝えられたも全く分からないのと一緒の理屈だ。
そんな異世界トークに華が咲いたかどうかは分からないが、雑談している内に材料の採取場所に着いた。少し開けた場所でお馬さんが止まめるとアレクは馬の手綱を手頃な木にくくりつけていた。
その先に広がる風景、竹林を見て一安心した……大量にありますな。これだけあれば十分にイベントに使えそうである。
「こんなものでいいかな?」
俺の足元には既にアレクに伐採して貰った竹が大量に置かれている。実はこの竹なのだが、スライムタピオカミルクティーの初期案の時に大樹付近の物を利用した事もあるのだが、大樹付近で自生している量では足りなくて困っていたのだ。
大量の竹を利用してするイベント、俺はこれで『流しそうめん』をする算段なのだ。
確かにそうめんだけでも出汁を使った料理なのでウケるとも思うのだが、エンターテイメント性も入れる事により注目度が増すと考えた。その為にも竹は必要不可欠であり、お二人に協力してもらったと言う訳だ。
超が付く程に順調に終わった伐採なのだが、ただ一つ、どうしても気になる事がある。竹の伐採自体はアレクのおかげで何の問題も無くあっと言う間に終わったのだが、その伐採に使っていた物が大問題である。
今もアレクの右手に握られてる剣。刀身からは青白い光が常に出ている状態で装飾も神秘的な物であった。そしてまるで豆腐を斬るかのように竹をスパスパ切っていた。
あれ、絶対に聖剣だと思う。
アレクは加減しないと山が丸裸になっちゃうとか言ってたが、そんな物騒な物を持って来ないで欲しい。アレクなら食事で使うナイフでも一振りで切り倒せると思うから。
勇者様の装備と実力を目の当たりにした後、伐採した竹を馬車に乗せて園に戻ろうとしたのだが、クレイドから『もう少し先に行くと見晴らしの良い場所があるんだ。折角だから見て行こうぜ?』とのお誘いがあり、予定を変更して山頂へと向かう事にした。
普段なかなかこの距離を歩いて向かうのは骨が折れる。折角の事だしぜひ寄らせて頂くとしよう。
≪≪≪
竹林からしばらく馬車を走らせ、山頂に着いたのだが、そこにはベンチやテーブルなども設置されており、休憩スペースとしても活用されている事が見て取れた。
馬車から降りて落下防止用の柵まで歩くと、思わず目に飛び込んでくる景色に感嘆の声を漏らした。
山頂から望む景色は眼下には青い海が広がり、白い砂浜が覗き、空には海鳥が舞い、周りを取り囲むようにヤシのような樹木が生えている様子が伺えた。
南国だ……あそこ一帯高級リゾート地のように感じるぞ?
「雨季が明けたらいよいよ夏到来だからな。その時期になると定期的に歓送迎の馬車も走るし、この海は村の観光スポットになってるんだぜ?」
俺は完全なインドア派ではあるが、この風景の魅力には勝てそうにも無い。是非とも夏が来たら行ってみたい。
「夏本番は海でのイベントもあるからな! その一つに水着コンテストなんてのもあるんだぜ?」
「なんですとぉ!?」
思わず声が出てしまった……そんな神イベントが開催されるんですね! 絶対に行く! 何が何でも行く! くぅ~、異世界も色もののイベントがあるんですなぁ~!
「か、ず、や!?」
しまった……目の間に広がる大海原とイベントの内容に浮かれてしまって真横にルーミィさんが居るのを忘れていた。
これは流石に自分でも分かる。完全ににやけた顔をしていた……不覚っ!
その後の園への帰り道、みっちりルーミィさんに説教されながら山を下る事になった……。
「あの関係でお付き合いもしていないとは」
「ああ、不思議なもんだ」
うう、聞こえてるぞ、二人とも……。余計ルーミィさんがヒートアップするからやめて貰えませんかね?
≪≪≪
園に到着し、荷台に積んだ青々とした竹を遊戯室へと運び込んだ。まあ、アレクが全部運んでくれたけどもね。
二人にお礼を述べ、見送った後にリビングで一息付いているのだが、ルーミィさんが非常に不機嫌なままであった。
まだ水着コンテストの件で怒ってるんですかね……。
「まったく和也は事ある事にだらしない顔して! どうせイリアさんの水着姿とかを想像してたんでしょ!?」
おいおい、女神様、待ってくれよ。俺がそんな……その通りでございます。一番最初に考えてしまいました。なんて言おうものなら血の雨が降り注ぐ。俺は、生きたい……話題だ、話題を変えなければ。
「そ、それよりも流しそうめんについてですが」
どうやら流しそうめんというワードに興味を示したようだ。表情が幾分穏やかになった。よし、俺は賭けに勝ったのだ!
流しそうめんはそうめんを美味しく食べる最高のシチュエーションだ。その効果はゲレンデ効果やBBQ効果と同等であると考えている。これを園児達と作り上げ、当日は一緒にイベントに参加して貰う予定だ。
園児達の可愛さは折り紙付きだし、美少女のルーミィさんも居る。華もあり、意外性もある。サマーフェスの目玉はさくら保育園が頂かせてもらうとしよう!
「それはそれ! 話をすり替えようとしたってダメだからね! だいたい和也はいつもいつも……」
うん、全然賭けに勝ててなんていなかった。しっかりと足を折りたたみ、説教を受ける羽目になった……クレイド、今後はそう言った話は耳打ちで対応してくれませんかね……。




