異世界52日目 5月22日(水) ②モテ期到来中?
夕方になったのでクレイドさんに誘われた飲み会に参加するべく再び村に来訪し、ギルドに足を向けている。尚、ルーミィさんとは先ほど別れ、武器屋食堂で夕食を食べてもらっている。
間違ってもルーミィさんに自炊させる訳にはいかない。飲み会から帰って来てポルターガイスト現象が起こった後の現場に出くわすのは御免だ。
ギルドに入って店内を見渡した所、以前の週末に比べて若干お客さんは少ないようであるが、それでもあちらこちらで賑やかな声が聞こえる。
そんな風景を見渡していると、すでに一杯やっているクレイドさんが声を上げたのでそちらに向かった。近づいて行くと誰か隣に居るようだ。でもこの後ろ姿、見た事が――
「やあ、カズヤさん」
なんと、勇者様が現れた! そうか、酒場といえば勇者様だもんな。尚、偏見である。
「さっき言ってた助っ人はアレクの事だ。今度の休みに手伝ってもらう約束も先に付けておいたからな!」
隣でアレクさんの肩をバンバン叩きながら伝えてくれたのだが、もちろんその方の素生を知っての狼藉ですよね? その方、勇者様なんですよ? 怒られたりしませんか?
それにしてもなんと根回しの早い、流石はその年で村長をしているだけある。ところでクレイドさんっていくつだっけ?
「ありがとうございます。クレイドさん、アレクさん」
「カズヤはいつも堅いなあ、俺の事は呼び捨てでいいぜ?」
「いえいえ、そういう訳には。ちなみにお年を伺っても宜しいでしょうか? 私は三十二歳になるのですが」
「おおっ! 同い年じゃねえか! 俺も三十二だ。よし、これからは呼び捨てで呼ぶんだぞ、これは村長命令だ!」
ここまで言って頂いて断るのも失礼だろう、村長命令だし。しかし同い年であったとは。それに何度もお宅にお伺いしているが女性の気配も一切感じなかった……今ここにおっさん同士の独身連盟が樹立したのである!
「僕も呼び捨てでお願いします。僕の方が年下ですからね。歳は二十四歳なんですよ」
いいのだろうか……勇者様を呼び捨てにするなど、パーティメンバーか魔王ぐらいのものじゃ無い? しかしここも断ると失礼だろう。二人は俺の為に言ってくれてるのだから。
「分かりました、クレイド、アレク、今後とも宜しくお願いします」
席上ではあるが会釈した。クレイドはまだ堅いと言っていたけど性分と言う事で納得して頂いた。でもその言葉、ルーミィさんにも良く言われるんですよね……そんなに堅いかなぁ?
「ところでルーミィちゃんの事なんだが」
その質問に心拍数が上がった。心がざわつくとでも言うのだろうか。クレイドからルーミィさんの名前が出た瞬間、嫉妬にも似た感情がよぎった。
まさか、クレイドはルーミィさんを狙ってるのか? 確かに見た目は完全に美少女だし声がかからない方がおかしい。でも女神様だし、いくら村長でも……。
「今すぐ嫁にしろとまでは言わないが、少なくとも彼女にはするべきじゃないか? あんな綺麗な子と一緒に働いてる上に、一つ屋根の下で暮らしてんだろう?」
……クレイド、俺をぶん殴って下さい、思いっ切りグーで。貴方は俺を心配してくれていると言うのに、俺って奴は、俺って奴わぁぁぁ!!
「僕もそう思いますよ。あれほど綺麗なお方、まるで女神様のようですよ?」
ここは異世界ですし、一般的に女神様のように美しいという比喩は使うかも知れませんが、勇者様が言うと比喩に聞こえません。
確実に女神様のお知り合い居ますよね? それに何気にドンピシャでルーミィさんの素性当ててますから。
「お前はすでに女神様と結婚してるじゃねえか。いいよな、あんな美人さんと。まあそれは置いといてだ。そんな近くに綺麗な子が居るにも関わらずにイリアさんにもちょっかいかけてるのか? 血気盛んだな?」
「かけてません! そんな甲斐性ありませんよ!」
やはりこの話題が来たか……むしろちょっかいかけてくるのはイリアさんの方である。何度冷や汗をかかされた事か。
「だが昼間のルーミィちゃんの態度は……明らかに意識してるとしか思えないんだが? そのくせ彼女でも無いと来たもんだ。モテ過ぎじゃないか? 二人の美女から猛烈プッシュを受けるなんて」
「そんな事言われましても……でも決してモテてはいないと思いますよ?」
「まあいいじゃないですか。ほら、クレイドの女神様が来ましたよ?」
アレクの目線の先にはメイド服が似合い過ぎる豊満な女性、フラムさんであった。ポニーテールとお胸さんを揺らしながら注文を取りに来てくれたようだ。
しかし先ほどのアレクの言い方からすると……ふむ、フラムさんがクレイドの女神様と言う事か。成程、合点した。今にして思えば露店ブースでのやり取りから、ルーミィさんは既に気付いていたんですね?
俺は今、やっと分かりましたよ……人の事を言ってる場合じゃ無いですよねぇ? ク・レ・イ・ド?
「いらっしゃい! カズヤさん。今日はルーミィちゃんは置いてけぼりなの? うさぎさんは寂しいと死んじゃうんですよ?」
その説は間違ってますよ? フラムさん。うさぎさんは寂しくて死ぬのではなくてですね――
「フラムさんも宜しければご一緒に如何ですか? お仕事に支障が無ければですが」
「そうだね、今日はお客さん少ないし、お邪魔しちゃおうっかな。ちょっと待っててね!」
流石っす! 勇者の兄貴! 俺が脳内でがちゃがちゃとうさぎさんの事を考えてる間に瞬時に店内の状況を把握し、クレイドへのアシストを的確に送るなんて。
そんな高等技術初めて見たっす! そしてその最中、歯も光ってたっす!!
……イケメンは違うなあ。
程なくしてフラムさんも席に加わり、一緒に飲む事になったのだが、さっきからクレイドが一切喋らない。相槌を打つのが関の山である。
折角のパスがもったいない。でもそのパスは俺も受け取れない自信がある。おっさん達にはイケメンのキラーパスなど捌ききれないのである。
「ところでカズヤさん、ルーミィちゃんとは進展したの? キスぐらいはした?」
可愛らしい笑顔を向け、口に手を当てて嬉しそうに聞いて来た。効果音を付けるとするなら間違い無く『ムフフ♪』だろう。
そうだった……このメイドさん、色恋沙汰が大好物だったな……。
「進展と言いましても、何よりそんな間柄ではありませんので。それに私もこの通りおっさんですし」
昨日抱き着かれて癒して貰いました、とは口が裂けても言えない。格好の的になるだけだ。あれは二人だけの秘密にしておきたい。
その後も恋愛話が主となり、年齢は関係無いだとか、愛があればどうだとか熱く語られた。クレイドはフラムさんの言葉に都度思いっきり頷いていた。そうだね、同い年ですものね。ワンチャン欲しいもんね、お互い……。
翌日も園保育園があるので遅くなり過ぎない所でお開きとなったのだが、十分に楽しむ事が出来た。少々フラムさんに絡まれはしたが、クレイドとアレクとも仲を深める事が出来たし、大変意義のある飲み会だったな。
しかし、気分良く園の玄関を開けた直後、仁王立ちのルーミィさんが待ち構えており、その場でギルドでの内容を根掘り葉掘り聞かれた。
「さあ、正直に吐きなさい。フラムに何を言われたでしょ!? イリアさん関連の話とかは!?」
まさかの事情聴取はそのまま日を跨いで深夜にまで及んだ。中々信用してくれないんだもん……。保育に影響でちゃいますよぉ……。




