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異世界52日目 5月22日(水) ①飲みニケーション!

 

 本日の保育も終わり、遊戯室のお掃除をしながらうっすらと浮かんだ額の汗を拭った。


 今日は先日から降り続いていた雨も上がり太陽が出ているが、しかしそのせいで気温が上昇し、残った湿気がまとわりついて昨日とは打って変わって蒸し暑さを感じる。


 それにしても眠い……昨晩は寝ようと決め込んで目を閉じたまではいいのだが、その後、延々と同じ事が頭の中を巡り、中々寝付けなかった。


 おっさんの恋愛経験の無さを舐めてはいけない。もはや中学生と大差無いのだ。具体的に言うと、自分に向けられた何気無い仕草や態度を勘違いして『俺の事好きなんじゃ……』と思ってしまうアレと同じぐらいだ。既に末期症状という事は自覚している。


 過去にもルーミィさんがおんぶしたり、腕を組んでもらったりしていた事はあるが、あれはお酒が入っていた時点で好意に対しての正直信ぴょう性は無い。

 だが、今回は素面も素面。その状態で後ろから抱きしめられたのだ……そりゃあ考え込んじゃいますよ。しかもあれだけの時間悩んだ挙句、答えに辿り着かなかったというオチだし……。


 そのおかげで寝不足になってしまったが、そんな自分の都合で園児達をないがしろにするなどもっての他であり、自分の体に鞭を打ちながらいつもより気合を入れて遊んであげた。


 そんな状態なので、せめて夕食の準備をするまでゆっくりしていたかったのだが、今日は大事な用事がある為、それも叶わない。


 今、あくびを織り交ぜながら足を向けているのはクレイドさんの家である。サマーフェスについて相談したい事があるのだ。


「うん? 何か眠そうだね? 疲れてるの?」


「あ、いえ。ま、まあ疲れてると言えば疲れてはいますが……」


 ルーミィさんのせいでね? とは言えない。なにより人のせいにしてはいけない。自分が悪いんだから。


「大丈夫? 栄養のある物をしっかり食べて休まなくちゃダメだよ?」


「それは私に今日の晩御飯を一品多く作れと言う意味ですかね?」


「栄養は大切だよ♪」


 九割方は自分の欲望で占められていそうだけど、その笑顔と昨日のお礼も兼ねてもう一品作るとしましょうかね。

 チョロいな~、俺……。


 そんな話をしている内にクレイドさんのお宅の前まで辿り着いた。何度もお邪魔しているのだが、別段豪勢な訳でも無く、他の村の方の家と大差無い造りである。

 いや、クレイドさんは独身だ。そう考えると大きい家に住んでいると判断すべきか……。


 ドアをノックするとしばらくしてクレイドさん本人が出迎えてくれた。相変わらずの男前である。


「よお、カズヤとルーミィちゃんじゃないか。どうしたんだ? まあ、上がってくれよ」


 相変わらず気さくに家に迎え入れてくれる。ほんと助かります。




「さて、今日はどんな御用だ?」


 客間に再び現れたクレイドさんはアイスティーを三つ用意してくれ、ソファーの前のテーブルに置いてくれた。しかしよくよく考えたらこの村で一番偉い人なのに雑務も全部ひとりでこなしているな。

 異世界の人って基本ブラックなお仕事ばっかしてますね……。


「実はサマーフェスで使用する材料の事なのですが……」


 俺の考えているイベントは少々規模が大きく、材料が大量に必要になる。それを手に入れる為にはどうすれば良いのかと相談しに来た訳なのだ。

 料理の方はどうとでもなるのだが、こればかりは非力なおっさんと同じく非力な美少女ではどうしようも無いのだ。



≪≪≪



「なるほど……そんな事を考えていたのか。面白そうだ! それじゃあ今度の保育園が休みの時に一緒に取りに行ってやるよ! なあに、材料のある場所は知ってるし、助っ人のアテもあるから安心しな」


「助かります。一番の目玉イベントにして見せますよ!」


 イベントの内容を説明し、無事ご協力頂ける運びとなった。材料の調達は俺とルーミィさんでは少々難しい作業なので解決出来て助かった。これでイベントに必要な物は大方目処が付いたな。

 さて、折角淹れて頂いた冷たいお茶がぬるくなる前にを飲むとしましょうかね。


「おう、期待してるぜ。ところで彼女のルーミィちゃんにお願いがあるんだが――」


 クレイドさんがそこまで言い放った所で二人揃ってお茶を噴き出してしまった。ぴったりと揃ったその動きは別に事前に打ち合わせていた物でも無く、奇跡的にユニゾンした結果だったりする。


 えっと……ごめんなさい、床を汚してしまって。でもクレイドさん、貴方が悪いんですよ?


 取り急ぎ布巾を貸してもらいスプラッシュした跡を掃除をしていると、必死でルーミィさんがクレイドさんに掛け合っている姿が見えた。


「ク、クレイドさん!? 私は和也の、か、彼女じゃありませんから! 私とカズヤはですね……あの、えっと、そ、その……パ、パートナなんです!」


「なんだ、結婚してたのか!?」


 あ、そっちになっちゃいましたか。確かにその言い回しは元の世界では多用されている用語ではありますが、この世界では『ビジネス』を付けた方が正確に伝わるかと思いますよ?


「け、け、けっ、けけけ……!?」


 そろそろ助け舟を出そう。ルーミィさんのお顔が真っ赤だ。テンパり過ぎてエンドレスリピート状態になってるし。


「クレイドさん、ルーミィさんと私は同じ保育園で働く先生同士であって付き合っているとかは無いんですよ。頼りになる同僚ってところです」


「ああ、そうなのか。申し訳無い、ルーミィちゃん。フラムさんから聞いた話だとてっきり彼女と思ってしまって」


 フラムさん……一体何をクレイドさんに伝えたのでしょうか。ルーミィさんは横で『フラム~、覚えてらっしゃい!』と顔を赤くしたまま小さくつぶやいている。


 どうどう。フラムさんにいちいち目くじら立ててるとキリが無いからさ?


「では改めてお願いなんだが、今晩カズヤと打ち合わせしたいから貸して貰って構わないかな? ちょっと酒でも飲みながらと思っているんだが」


「えっ? あ、はい。構わないですけど……あの、イ、イリアさんは来ます?」


「うん? イリアさんを呼ぶつもりはないが……呼んだ方がいいなら――」


「絶対やめて下さい! じゃないと和也は監禁します!」


 いや、あの……俺の人権はルーミィさんが握っているんですね……。それより俺、異世界で初めて飲み会に誘われちゃったよ。

 そういえばルーミィさん以外の人と何かするって何気に初めてだな。そして相変わらずマークの厳しい事……。


「ああ、わ、分かった。そうか、そうか……」


 クレイドさん、なにやら不穏な顔をしてますね。どうやら打ち合わせは程々にそちらの話の方が長くなりそうだ……。


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