異世界51日目 5月21日(火) ③日本食解禁!
園の用事を済ませ、夕刻迫る中、未だに降りやまない小雨の中を俺とルーミィさんは再び村へ向けて足を進めている。従来なら何度も村への往復などおっさんの俺にとってはけだるい用事なのだが、俺の足取りは非常に軽かったりする。
その理由は日中に園児達と散策している途中、イリアさんに出会い、発注していた商品が揃ったとの連絡を受けていたからだ。
しかし日暮れも迫っているのと雨のせいで少々肌寒く感じるな……日本風に言えば梅雨寒だな、これは。
「いらっしゃい、今日は少し寒いねえ」
雑貨店に着くとイリアさんは両腕をさすりながら俺達を迎えてくれた。今日の服装は半袖にホットパンツ。そりゃあそんな肌面積じゃあ寒かろう……。
「ほれ、頼まれていた品だ。前に依頼されてた調味料も一緒にあるから合わせて確認してみてくれるか?」
日中にクレイドさんからのサマーフェスのイベント参加を引き受けたのは、この連絡があった所が大きい。イベントの一つの可能性として料理は考えていたのだが、まあ、それが無くても園児達のあの期待は裏切れ無かったけどね。
イリアさんから受け取った調味料達を一つ一つ手に取る度、心が躍り出すのが分かる。ここまで気分が高揚するのは園のキッチンを発見した時以来だ。
「こ、これは素晴らしい! ありがとうございます!」
テーブルに並べられた調味料の数々……醤油に味噌にかつお節、昆布。もう顔は緩みっぱなしだ。これさえあれば、これさえあれば……味噌汁が作れるじゃないか! お浸しなんかも作れちゃうぞ! 待ってろよ日本食!!
「あ、ああ……よ、良かったな、手に入って……」
「う、嬉しそうだね、和也……」
なぜ二人とも俺の顔を見て半歩下がるのでしょうか? そんなマッドサイエンティストみたいな顔してました?
しかもお値段もそれほど高くはない事にダブルパンチで喜ばしい。イリアさん曰く、定期的な購入が予想される物に高値は付け無いんだとか。一時儲けてもそんなのは客離れに繋がるだけとの事らしい。
成程、この戦略が村全体がごひいきにしている理由か。納得である。
「そういえばイリアさんもサマーフェスに参加されるんですか?」
「ああ、あたしの店も参加するぜ。多分店をやってる所は大体参加するんじゃないか?」
確かに近隣の村からもお客さんが来ると言ってたし、書き入れ時と言うやつだろう。しかし今回は園児達の教育の一環として参加するのでお金は取らずにボランティアの予定だ。
そうこうしている内に店内に村の方が集まって来て混んできた。夕飯のお買い物タイムだな。
商売の邪魔をする訳にはいかないので、調味料のお金を払い、イリアさんに挨拶を残して帰宅する事にしたのだが、この間ずっとルーミィさんが俺を監視していた。ほんとに怖いんですけど……。
≪≪≪
園に戻ると足早にキッチンに向かい、ひよこ柄では無い調理用のエプロンを付け、買った調味料を並べ腕を組んだ。
サマーフェスのイベントを何にしようかと悩んでいたのだが、盆踊り案は却下し、この際だから前々からの案であるそうめんを投入する事にした。
日本文化の物なのでおそらくこの世界の方からすれば初見になるだろうし、夏の暑い時期には持って来いのチョイスでは無いかと思う。
なので今日は少々寒いが早速そうめんの試作といくつもりである。
もちろん、作るのはただのそうめんでは無く、スライムを使ったオリジナルそうめんだ。さて、神ブックにレシピを記載しながら調理するとしましょうかね。
――スライムそうめん――
材料
昆布、みりん、醤油、砂糖、塩、水、小麦
粉、鰹節、スライム
調理方法
①鍋に水とみりん、醤油、砂糖を溶き、スラ
イムを加えて火にかける。
②一煮立ちすれば昆布を入れ、弱火で更に煮
込む。
③鰹節を入れた後にすぐに火から下ろし、濾
して冷ましておく。
④小麦粉に水、塩を加え混ぜ合わせる。
⑤十分混ざったらパスタマシンで延ばして茹
であげる。
⑥茹であがった麺は冷水で冷やし、鍋の昆布
を取り出したらそうめんとつゆの完成。
なんとか完成したのだが、思っていたのとちょっと違う物が出来てしまった。
まず麺だが、パスタマシンを使ったので流石にうどんの太さとまではいかないものの、正直、蕎麦ぐらいの太さになっている。まあこれは想定内であり、限界はあるだろうが少しでも細くするよう努力したいと思う。
確か棒にぶら下げて自重で伸ばしてやるんだっけ? それに生麺だし乾燥させないといけない。
そして一番の問題点はつゆ。これがまたスライムと掛け合わせたので従来の麺つゆに比べ少々とろみが付いてしまっている。
実際の麺つゆとは少し違うが、ちょっとしたあんかけ感覚でよく麺に絡みそうではあるが、これがどう出るか……。
しかし今日の気温はそうめんを食べるのには適していないな……よし、もう一品仕込んでおくか。
日本料理に使う調味料がある今、俺のレパートリーは大幅に拡大されたのだ! ふふ、待ってろよ、腹ペコ女神様! 俺の作る日本食で唸らせてあげますよ!?
≪≪≪
試作そうめんが完成し、テーブルの上には氷を散りばめた白い麺が盛られた器とつゆの入った器を二組用意している。一気に夏模様の食卓となったな。
「なにこの茶色い汁? 飲んでいいの?」
「ちょっと待ってぇ!? それは飲む物ではありませんからっ!」
麺つゆの入った器が口に触れていたが、すんでの所でルーミィさんを止める事が出来た。質問と行動を一緒にしないで下さい……。
「これは『つゆ』と言って直接飲むのでは無く、この中に麺を入れてくぐらせるものなのですよ」
この世界には箸文化も無い為、とりあえず今日はフォークで代用だ。なんかいよいよパスタみたいだな……。
「う~ん! 冷たくてちゅるっちゅる! それにこのつゆって言うお汁、凄く風味が高くて味わい深いね! なんかお魚の風味もするね!」
流石である。ただの食いしん坊では無いな。しっかりとつゆのポイントを押さえていらっしゃる。さて、俺もいただくとしますかね。
――うん、いい味だ。そして懐かしい出汁の味だ……。そして思ってた以上に麺がつゆに良く絡む。これはこれで有りだな、あんかけのつけ麺つゆだ。
これ……日本でも売れるんじゃないかな?
ただ、やっぱり麺が少々太いな。もっとこう、のど越しの爽快さが欲しい。これは試行錯誤あるのみだな……工夫すればもう一段階ぐらいは細くは出来そうだ。
一方、ルーミィさんは初めての味に感動して立て続けに食べていたのだが、しばらくしてペースが落ちてきた。もちろん原因は分かってる。
「今日は少々寒いですからね。この料理は本来暑い時期用の料理なんですよ。今日は試作として作っただけなので、残りの麺は今からアレンジしてきますね。少々お待ち下さい」
テーブルに置かれた氷の入った冷えた麺の器を手に取る時、ルーミィさんの顔が覗いていたのだが、それはもう期待に満ち溢れた笑顔を送っていた。
俺の手の中にあるそうめんにね……。




