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異世界34日目 5月4日(土) ①元の世界にあって異世界に無いもの


 今更ではあるがこの世界にはGWは無い。ここは日本ではなく異世界であるから当然建国記念日とか子供の日は無いのである。その為、今日も朝からせっせと村でスライムタピオカミルクティーとスライムクッキーの販売に精を出している。


 このイベント広場で露店販売していて分かったのだが、実は多目的に使われているようだ。コンサートを開いている時もあったし、スポーツ競技やフリーマーケットみたいなのも開催されていた。これらは村長の意向で村の活性化を目指しているようであり、申請さえすれば無料で実施して良いらしい。

 だが実態は武器屋食堂のおばちゃん曰く、イベントが大好きなだけとの事だ。まあ、悪い事じゃないんだけどね。


 ちなみに本日の売れ行きも好調である。なにせルーミィさんの技術力と俺の調理技術が合わさった製品に死角など無いのだ。

 



 お昼を少し過ぎた頃には完売御礼となり、片付けを終わらせ遅めの昼食を取る為に武器屋食堂に向かう事にした。これはある事を確認する為である。


 しかし隣を歩くルーミィさんの足取りは非常に軽やかだ。この子は食堂に行ける事で胸がいっぱいのようだ……胸がいっぱい……彼女に対してこの表現はいかなものか、いや、心の中に留めておこう。ぶち殺される。

 

 ロングソードが二本重なる様が看板の店、武器屋ではなく食堂に到着だ。扉を開き、テーブルのある部屋へと足を進めると思わずカウンターで足を止めてしまった。この前に来た時と雰囲気が変わっていたからだ。


 店内に並べられた武器の展示が大幅に変わっており、以前来た時よりも随分とおどおどしいものとなっていた。少々ダークな武器が多めである。

 ……あんな髑髏の付いた鎖鎌なんかあったけ? あれって完全に呪われてるよね? あくまで見た目重視と信じたい。


「おや、カズヤさんにルーミィちゃん! いらっしゃい! 好きな席に座っておくれ!」


 そんな呪われた武器コレクションの部屋から一つ扉をくぐると大変威勢の良いお声が迎えてくれた。しかし同時に妙に安心する声でもある。まさにお袋って感じだ。少々お昼の時間から過ぎている為、お店には俺ら二人しか居ないようだ。


 ルーミィさんは席に着くなりメニューを食い入るように睨みつけ、アレもいい、コレも捨てがたいなどと小声でブツブツと独り言をいいだした。まるで呪文でも唱えているかのようである。

 持っている物がメニューでなければ、確実に魔法を発動させようとしている魔法使いに勘違いされますよ? ここ、剣と魔法の世界ですからね。


 そんなルーミィさんを尻目に当初の目的を果たすべくメニュー表を開き、端から全て目を通していった。食べたいメニューを探すのではなく、ある法則を探っているのだ。


「ハンバーグ、唐揚げ、ステーキ、焼き飯……シチューも捨てがたい……でもお腹いっぱいになるのは……むむむ、難題だね、これは……」


 女神様、少し静かにして欲しいです……。集中出来ません……。


 しかし、そんな雑音にも負けず全てのメニューを一覧し、口角を上げながら静かにメニューを閉じて元にあった位置に戻した。


 ――やはり、思っていた通りだ。やっぱりこの世界にはアレを使った料理が一切無い。


 ルーミィさんも究極の二択を決断したようでやり切った顔をしている。労をねぎらう為にも早く注文をしてあげるとしよう……。俺も同じものでいいや。ルーミィさんが悩み抜いたものなら間違いは無いと思う。


 おばちゃんと世間話を少々交えながら注文を伝えた後にルーミィさんに本題を切り出した。


「ルーミィさん、今度のスライム料理の新製品が決まりました。そして今後の基本ともなる料理方法も暫定ではありますが固まりました」


 それまでルーミィさんは注文した料理を妄想していて上の空だったが『スライム料理の新製品』と言うパワーワードでこちらの世界に戻ってきてくれた。

 お願いだから勝手に異世界に行くのは止めてもらえませんかね?


「なになに!? また和也の世界の美味しい料理を作るの!?」


 この世界の料理は元の世界と酷似している。ハンバーグもあればパスタだってある。牛や鶏、豚も居るのだ。そんな中で只一つ無いものがあった。


『出汁』の文化だ。


 正直、食堂の味やギルドの料理は俺が作るものより遥かにレベルが高い。しかしそれも当然の話だ。俺は料理が好きなだけであって本業はしがないサラリーマンだ。料理で生計を立てている彼らには遠く及ばない。


 故に今まではスライムを用いたアイデアを使い、元の世界の料理をアレンジして発売してきたのだ。和菓子の存在や出汁の文化が無いと言うのも日本食の文化が無いと言う派生であろう。

 だが、出汁を使った料理であればこちらに一日の長がある。このジャンルならば勝機を見出せる!


 日本人で良かった! 彼女が出来なくて将来を見据えて料理を覚えて良かった! 関西に生まれてツッコミを覚えてて良かったぁ!


 後半はおまけなので伝えないがこの内容をルーミィさんに話した。もちろん、ルーミィさんにも出汁の意味が分かっていないが、その二つの大きな瞳は新たな料理への期待に満ち溢れていた。


 ここまで話した所で残念ながら注文した料理が届いたので一旦話は終了とした。まあ、ルーミィさんが目先の料理を優先しただけなんだけどね。

 そうだよね~、未来のご飯より目の前のご飯の方が大事だよね……。俺もいただきますね。


 それにしてもやはり美味しい。注文したのはミートスパゲティーだ。麺はアルデンテでミートソースはジューシかつ、とてもフルーティ。このソースにも相当手を込めているな……。

 そして決め手はこのチーズ……もう堪りません!


 そしてこれだけ美味しいのにお値段もリーズナブルときてるので、いつも昼時に満員なのも頷ける。


「おいしい~!」


「ルーミィさん……アメリアちゃんみたいになってますから……」


 口の周りのミートソースの付着が酷い……まあそれだけ夢中にさせてしまう程の美味さがある事は認める。

 ちなみに最初は恥ずかしがって口周りを拭いていたのだが、まどろっこしくなったのと目の前の食欲を抑えきれなかったのだろう。もう見た目を気にするのは諦めたようでパスタをすすりだした。

 

 もうそっとしておいてあげようと思う……。

 

 幸い服は汚していないみたいだし……流石に服までベタベタにされたらおっさんも食事作法を教えなければならなくなるからね。


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