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異世界34日目 5月4日(土) ②神ブックホルスター


 出汁の文化が無いというこの異世界に来て最大の収穫を得て、食事も終わったので帰ろうとした際におばちゃんから『今度は園児ちゃん達を連れておいで!』と言われた。願っても無い申し入れであり、校外学習の一環とし利用させて欲しいと、こちらからもお願いさせて頂いた。

 もしかしたらお姉さんと呼ばれる事に味を占めたのかも知れない。


 再びイベント広場に戻り、日差しを避ける為に屋根のあるベンチに腰をかけた。改めてここで作戦会議を行う事にしている。


「さて、先程の話の続きですが、新製品の名前を発表します。それは『そうめん』です」


 夏の代名詞とも言えるメニューである。喉越し爽やかで暑い日なんかはキンと冷やした麺をつゆにくぐらせ一気にすするこの爽快感溢れるメニュー!

 でも毎日食べると飽きてしまうというあの禁断のメニュー、そうめんである。


 正直、あの細さの麺を再現する事は不可能かも知れないが出来る限り近づけたい。残念ではあるが流石の俺でも全ての料理に精通している訳では無いし、調理方法を極めている訳でも無い。だが、パスタマシンを使えばそれなりの太さにはなる筈だ。


「初めて聞く名前でどんな料理か分から無いけど、和也が作るならきっと美味しいよね!?」


「ええ、自信はあります。しかしながらこの料理には二つのハードルがありまして」


 ルーミィさんの前に指を二本立て、簡単には行かない事をアピールした。


 そうなのだ。まず第一に俺があの細麺を作り出せるかが課題である。そしてもう一つ、出汁の元になる食材だ。これには素材として昆布や魚が必要となる。しかしここは異世界であり、出汁の文化が無い世界でどこまで揃えれるかが問題だ。


「一つは私の技量、そしてもう一つの問題は食材です。前者はともかく、これを解決する為にはイリアさんに相談して、食材の入手が可能かを確認する必要があります」


 言葉を言い終えると先程まで期待と希望に満ちていたルーミィさんの顔色が一気に曇り、不機嫌そうな表情になってしまった。露骨に嫌がっているのが手に取るように分かる……。


 一週間程前からルーミィさんから『イリアさんを見てはいけない令』が施行されており、雑貨店への買い物は俺がメモを作りルーミィさんが食材を買いに行っている。

 しかし今回は特殊な食材を頼むので少々荷が重い。俺の知る限りでは通常ラインナップには置いていないものだからだ。


「むう……そんな事言ってイリアさんに会いたいだけなんでしょ!?」


 声を荒げながら訴えられたのだが、何故そこまでイリアさんから遠ざけようとするのだろうか……。確かにあの服装とそれを纏うボディはずっと拝んでいたい気持ちにはなりますが。


「ほら! やっぱり下心がある顔してる!! やっぱりダメっ!!」


 え? 今、俺そんな顔してましたか? まったくもって自覚が無いのですが……しかも下心って。そこは正解と言わざるを得ないな……。だっておっさんだって男の子だもん!


 しかしこのままでは死活問題になる事を伝え、雑貨店に行く時は必ずルーミィさんと一緒に行く事を条件に超渋々『イリアさんを見てはいけない令』は解除してもらえた。

 決め手のマジックワードは『食べた事の無いスライム料理を味わえる』だった。特に食べた事の無い、が効いたのであろう。

 まあ、異世界に居る今、マジックもへったくれもあった物では無いけどね。




 イベント広場から雑貨店は目と鼻の先にある。今俺はルーミィさんの絶対監視の下、イリアさんに調達して欲しい食材の相談をさせてもらっている。


「海の食材? それなら入手は難しくないぞ? あの山を越えればすぐ海だからな」


 そう言うとイリアさんはさくら保育園の大樹の奥の森を指したのだが……あの森越えたら海だったの? ぶっちゃけただの森としか見てなくて山とも思っていませんでした……。


「ただ、魚自体の入手は簡単なんだが、カズヤの言う『カツオブシ』という物は流石に卸しには無かったな。それに変わった調理法みたいだしな」


 まあ、ダメ元で聞いてみた結果だ。となると手間はかかるけどやはり魚から出汁を取る事を考えないといけないか。と言うか魚の種類も元の世界基準で居るんですね。いつかその漁港的な場所に行ってみたいです。


「少し時間はかかるが、港町にツテがあるからそこの漁師に頼む事は出来るぞ? 作り方さえ教えてくれれば試験的に作ってくれるだろうよ」


 そんな事も出来るんですね! 流石はセクシー商人さん! カツオ節が手に入るとなれば料理の幅は大きく広がる! 


「あ、そうそう。この前頼まれていた本をしまうホルスターが出来てるぞ、ほら」


 イリアさんから手渡されたのは以前オーダーメイドしたブックホルスターであった。これがまたラフ図の通りの出来栄えで中々かっこいい仕上がりとなっている。皮のべルトなので使い込んで行く内にいい質感になって来そうだ。

 神ブックにいつでも触れれるように十字型のホルスター設計、これで四隅に触れるので神力発動の条件は満たせる事になる。


 早速ベルトに付けて、神ブックを入れてと。うん! ばっちりだ。これでいつでも神力が使える。出来ればそんな事態にならないで欲しいが。


「おお、似合うじゃないか。ところでそんなに肌身離さず持っていないといけない本って一体なんなんだ? 大層な魔法もかかってるみたいだしさ」


 や、やっぱり気になりますよね? これ、俺の生命線なんです。とは言いにくいし、神力の事も漏らす訳にはいかない。


「こ、これはですね、レシピとかが書いてあるんですよ。こちらからしたら異世界のレシピですからね。紛失や盗難に合わないようにしておきたくて。ね、ルーミィさん?」


「あ、うん! そうだよ! 大事な本だからね!」


 嘘はギリギリついてない。実際レシピも乗せてるしこの本を無くした時点で俺は消滅が確定する訳でして。


 二人でイリアさんの顔色を伺うと眉を顰めて明らかに信用していない顔をしていた……ああ、バレバレですよね……。


「ま、人には知られたくない事の一つや二つはあるものさ。言いたく無い事を無理に聞くほど野暮じゃないよ」


「す、すみません……」


「気にするなって、それじゃあもろもろ入荷したらまた知らせるぜ! 待っててくれよ、カ・ズ・ヤ♪」


 またそんな口調で……秘密を誤魔化した事で気を悪くしちゃいました? ちょっと意地悪しに来てるでしょ? マジで勘弁して下さい。ほら、貴女の言葉でルーミィさんから冷気にも似た怒気が流れ込んで来てますから。


「か・ず・や!?」


 俺、何もしてませんよね……しかし同じ言葉でも口調でこうも受け取り方が変わるとは……悪いのはあそこの露出の高いお姉さんですからね?


 今日はぴっちりとしたタイトなインナーを着こんでシャツを羽織っているのだが……胸の部分だけ大きく切り取られたスタイリッシュな服装だ。

 それにしてもイリアさんの服装が五月に入ってまた一段と際どくなってきたな……。風邪を心配する季節では無いのかも知れないが、暑がり屋さんなのかな? もしくは露出狂の線もいよいよ疑っていかなければならないな……。


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