異世界27日目 4月27日(土) ①カズヤ、成金になる
アメリアちゃん人化事件から一晩明け、週末を迎えた。
昨日は本当に怖い思いをした。俺の人生の中で白銀狼夫妻の殺気、古龍夫妻の来園に次ぐ第三位の恐怖であった。まさか女神様による圧力が人生トップスリーの恐怖体験にランクインするとは思いもしなかった。
あの後、必死に子犬の習性を説き、尚かつ、夕食にハンバーグ二枚とフライドポテト大量、唐揚げゴロゴロ、サラダ大盛りにスープとデザートもお付けすることで場を収めた訳だが、中々機嫌を取り戻すのに苦労した……。後、ロリコン疑惑の解消にも……。
そんな涙ぐましい努力の結果、どうにか誤解は解け、今は二人でスライムクッキーの大量生産を行っている。
ルーミィさんは料理の腕はからっきしだが、芸術の才能には目を見張るものがある為、型作りは一任している。もちろん、生地作りには一切関与させていない。怖いから。
「出来たよ~!」
業務オーブンの焼成が完了したトレイをこちらに向けながら笑顔をくれた。そのままルーミィさんの笑顔を眺めていたかったが、変な事してオーブンから出て来たてのトレイがおっさんのやわ肌に触れようものなら大事故に繋がる。
ここはチラ見にして素直にクッキーの出来栄えを確認させて頂くとしよう。
トレイの上のクッキーを眺めると三点の作品が乗っていた。動物が二匹と人型のクッキーなのだが……率直な感想を述べよう、これはクッキーではない。歴史的芸術作品だ。
何、このペガサスの躍動感、隣は不死鳥フェニックスですね。なんか今にも召喚されそうな勢いですが? そして極めつけはマリア様。もうこれなんて神々しさが出過ぎて絶対食べる事なんて出来ない。
ば、化け物か!? なんてセンスなんだ……。
「あ、あの、ルーミィさん? 大変素晴らしい技術をお持ちなのは十分理解出来ましたが、これはクッキーの本質を見失ってます。もはや芸術品です、これではシンプルに食べて貰えません」
素晴らしい作品なのだが、クッキーとはお菓子なのだ。そしてクッキーを食べる事により喉が渇き、ミルクティーも飲んで貰う事でコンボが成立するのだ。
芸術作品は食べてもらえないので、この作戦が成り立たないじゃないですか。
そんな訳で造形は可愛い動物路線に変更して頂いた。それでも可愛過ぎて食べるのを躊躇してしまう出来映えであったが。
尚、折角作ってくれた芸術作品は露店ブースの店頭に展示品として飾る事にした。まあ、看板として使うとするか……。
≪≪≪
この日、異世界で露店ブースでの商売を始め、過去売り上げの過去最高を叩き出した。なんだろう、完全に成金の気分だ。
もうスライムミルクティーはおまけでルーミィさん作のクッキーが爆発的な人気だった。日持ちもそれなりするし大量に作ったのだが、あれよあれよと売れて即完売となった。スライム料理の種類も増えてきたけども、今まで完売にならなかった事が無いのがある意味凄い。
クッキー自体は二個100G設定で食べ応えがあるように大きめに作ってある。村の皆が気軽に買って食べて欲しいとの思惑があったからだ。
ただ、いくら大量に作ってそれらが完売した所で、単価も安いし、それほど原価率が低い訳でもないので大量に売れたとはいえ、成金などと大層な言葉を使うのは少々語弊が生まれてしまうだろう。
だが、成金の要因は例の芸術作品が売れたからだった。
たまたま来ていた行商の商人さんが、どうしてもマリア像クッキー達を譲って欲しいとの事で大金を置いていったのである。
食べ物なので腐るよ? と申告したのだがその辺りは魔法でどうにかなるらしい。便利なもんですね異世界って。
そんな経緯で手に入れた莫大なお金を使い、今はイリアさんの雑貨店で園の備品や食材の大人買いをしているところだったりする。
「景気のいい買い方するねえ。保育園ってのそんなに儲かるのかい?」
至極当然の質問だ。まあ、そっちでも実際100億Gも手に入る状態だったのですがね。それはさておき事情を説明しておかねばなるまい。
「実はですね、今日は行商さんが来られまして――」
結局マリア像は100万G、ペガサスとフェニックスはそれぞれ50万Gで買い取られた。たかがクッキーにふざけた金額であるが、実は最初に提示された金額は実はもっと高かった。
あまりの申し訳なさからこちらから値下げ交渉させてもらったぐらいである。
だけど向こうも商人、安く仕入れる事に対して悪い気はしないらしいが、俺が伝えた捨て値での購入なんてプライドが許さない。とむしろ逆に火を付けてしまった……。
一個1000Gで良いですよ。と言ったのが災いしたようだ。
結局は先程の金額に落ち付いたのだが、それでも大きめのクッキー三枚で200万Gだよ? 初めて紙幣見たよ……。
「なるほど、そんな物を作れるとは。ルーミィやるじゃないか!」
「いやあ、そんな大した事じゃないですよぉ~」
謙遜しながらもくねくねしてる……いや、あれは誰にでも作れるものじゃないと思いますよ?
そんな訳で定期的に使う食材や調味料を中心に買い漁っているのだが、そんな大量に買っても持って帰れない。ただ、大量に購入するのであれば、イリアさんが後程馬車で運搬してくれるらしく、小麦粉などは大袋単位、つまりセメント袋サイズの物をオーダーさせて頂いた。これでいろんな料理が作れるな。
「後ですね、この本を持ち運べる入れ物って何か無いでしょうか? 携帯出来てすぐに取り出せるような物があればいいんですが」
手に持つのは言わずもがな、神ブックである。普段から携帯していないが故に使い方たい時にいつも手元に無いのである。
そしてこの本、それなりに分厚く質感はあるのだが、一切重さが無い謎仕様。なのでいっその事、腰にでもぶら下げてやろうと思っていたのだ。
「そうだな、寸法さえ分かれば後は革か何かで作れると思うぜ。そうだな、出し入れがしやすくか――こんな感じか?」
イリアさんがメモ用紙にペンを走らせてラフ画を描いてくれたのだが……絵がお上手ですね。走り書きなのに随分立派なサンプル図となっている。
そうか、この人、自分で服をデザインしてるな? いつも着ている服はオーダーメイドか。あんな服、普通置いてないもんな。というか着られる人が少な過ぎて需要無いもんな。
「いいですね、あ、この本、特殊なんでもっと軽量化してもらって……はい、そんな感じですね」
神力を使う際には神ブックに触れれば発動出来る。なので最悪、収納時でも神ブックに触れる事が出来るようシンプルな設計にしてもらった。
本体を支えるのは十字型の皮にして貰い、四隅を開けてある。イメージとしては廃品回収に出す為に、本をビニール紐で縛る感じを意識してみた。
「大事な本らしいのに随分と簡素なものにするんだな?」
「え? あ、えっと、そ、そうですかね? ほら、シンプルイズベストとも言いますし!」
咄嗟に出た言い訳であり、完全にイリアさんから疑いの目を向けられている。しかし追及はしてこなかった。この辺りはルーミィさんと違い大人の対応をしてくれてるから助かる。
「まあいいさ、それよりまだこれはいらないのかい? 夜のお供にはあるとないとじゃ――」
「要りませんっ! というかいつまで置いてるんですか!?」
なにやらルーミィさんとイリアさんが再び謎の袋と対峙しながら攻防を繰り広げているが……ねえ、その中身なんなんですか? おっさん、気になって仕方がないんですけど……。




