異世界23日目 4月23日(火) ③火に油を注ぐと燃え上がります
個性のお強いレッドドラゴン夫婦のバストラさんとロールさんも帰宅し、正直、今日はもう休みたい気分であるがそうも言ってられない。園児達と女神様の昼食の準備をしなければならない。
ルーミィさんにもう少し遊んだら遊戯室に来ても貰うようお願いし、キッチンへと向かい昼食の準備に取り掛かった。
今日はハムと野菜のサンドイッチにしてみた。牧場で作られたハムと新鮮な村の野菜のコラボレーションだ。それにカズヤ特製のコショウを少し足したスパイシーマヨを挟み込んでっと。
食べるのが小さい子供なので控えめにはしてみたが、一口食べれば食欲の増すサンドイッチになっている。
十分大人二人と子供二人分の量は作ったのだが……もう少し作っておこうか。以前にサンドイッチを作った時女神様が俺の分を狙ってたもんな。
昼食は二人仲良く食べてくれてソフィちゃんも美味しいと喜んでくれた。アメリアちゃんが口の周りにマヨネーズを付けて豪快に食べるのに対し、ソフィちゃんは少しづつ食べ進めており、これがまたリスさんのような愛らしいものだった。
尚、女神様は二刀流で食べ進めていた……マジで多めに作っておいて良かった。
午後からはアメリアちゃんがお店屋さんごっこをソフィちゃんに教えながら遊んでいた。やはりソフィちゃんにもお店の概念や金銭感覚は無かったが、アメリアちゃんもそうであったが、この子も相当賢いみたいで遊びながら粗方仕組みを覚えたようである。
今度本物のお店に連れて行ってあげると伝えるとにっこり笑ってくれたのが印象的だった。
アメリアちゃんの元気いっぱいの笑顔も癒されるが、ソフィちゃんの笑顔も負けていない。この子達にもっと笑って貰えるように頑張らないとな。
うん。熱視線を感じる。言わずと知れたルーミィさんからですね。
「まさか……やっぱり……もう言い逃れは出来ないよ!?」
「だから違いますって! 言い逃れも何も無いですから!」
懸命の弁解を行ってる際、脇で園児達は楽しく遊んでいた……。
≪≪≪
時間が経つのは早いものであっという間に帰宅時間となった。親元を離れ初保育であったが別段ぐずる事も無く、平和に時は流れた。
「ソフィちゃんどうだった? 楽しかったかい?」
「……うん、楽しかった」
「ソフィ、明日もいっぱ~いあそぼ~ね!」
「……うん、遊ぼ」
いやあ、友情だよ。友情が生まれてるよ! なんだろうおっさん涙が出そうだよ。
「カズヤせんせ~、ルーミィせんせ~、またね~!」
「……カズヤ先生、ルーミィ先生、さようなら」
二人は挨拶をしてゲートに入り銀色と赤色の光を残し姿を消した。ソフィちゃんは少々人見知りがちではあるが、しっかり挨拶も出来るしとってもいい子だ。アメリアちゃんにも友達が出来て良かった。
「ねえ、和也、園の掃除任せてもいいかな? 私、ちょっと、その、用事があって……」
園児達を見送た後、ルーミィさんが声をかけて来た。
ああ、すっかり忘れてたけど例のやつの処理ですね。ここで余計な事を言うと築き上げた関係が一瞬で崩れ去る事になる。触らぬ神に祟り無しだ。実際神だし。
「はい、構いませんよ。お任せ下さい」
詮索しない無難な返事。うんうん、これって100点の回答じゃね? ちゃんと危険予知が出来た。俺も成長したなぁ……。
そうそう、園のお掃除が終わったら食材の買い出しいかないとな。園児が明日から増える事になったので不足分の買い足さないと。
≪≪≪
もはや毎日に近い程通っている雑貨店。特に保育園を開業してからは確実に毎日通っている。コンビニやスーパーが近くにあった元の世界の立地条件とは異なり、地味に遠いのが難点だが、運動の一環と思ってこなすとしよう。おっさんにはちょうどいい有酸素運動にもなるしね。
早速店内に入り食材を探している際、ルーミィさんが死角に入った所でイリアさんに小声で話しかけてきた。
「昨日はクッキーありがとうよ。美味しかったぜ?」
あら、バレてました? 内緒にしてたんですけどね。
顔に出てたのか、イリアさんは少し口角を上げると分かった理由を述べてくれた。
「いつも食材の選定や材料はカズヤが行ってるし、あのクッキーは今まで食べた事が無い初めての食感だったからな。あれはスライム料理だろ? あんなクッキーはカズヤしか作れないだろうしな。ルーミィが作ったものではないぐらい簡単に見抜けるさ」
素晴らしい観察眼です。流石は世界を股にかけている商人さんだ。でもそれがバレるとまた女神様が拗ねてしまう可能性がある。ですが一応、四歳の子も作ったんですよ?
「あ、あの。出来ればルーミィさんには黙ってあげて欲しいんですが」
「分ってるよ。乙女の恋心を踏みにじるような真似なんてしないさ」
良かった知らぬ顔しててくれるようだ。うん? 恋心? 何故にクッキーをイリアさんに渡して恋心なんだろうか。あの日は帰って来るの遅かったし……まさか二人は百合の関係に!?
「またイリアさんを見てデレデレしてるの? お買い物ってイリアさんを見る事も入ってるんだ?」
皮肉たっぷりの問い合わせが届いた。だんだん言葉がストレートになってきましたね。今はデレデレしてませんよ! でも今回はイリアさんから話しかけて来たんだし。当然フォローも……。
「まあ、あたしのナイスバディに見とれてしまうのは仕方無いけどもさ、可愛い彼女の前ではダメだぞ、カ・ズ・ヤ♪」
まさかの裏切りぃ!?
その語尾は何ですかっ! ほらぁ! ルーミィさんが拳を握り締めてるじゃないですか! なんか小刻みにも震えてますし! ってイリアさん、なんで腰に手を当ててセクシーポーズなんか取っちゃってるんですか!?
何か俺、恨まれるような事しましたっけ?
「はは、冗談だよ、冗談!」
その言葉、刹那遅かったら俺は冤罪で女神様による鉄拳制裁の刑でしたよ……。
≪≪≪
まさかの冤罪を被りそうになったが、無事夕食を済ませた後、ひと段落したのでソファーにもたれながら神ブックを開けて今日の神ポイント確認をする事にした。
それにしても買い物の時は肝が冷えた……火に油を注ぐってまさにあれだな。おかげでクッキーの件はバレずに済んだが。さあ、気を取り直して今日の確認をしよう。なんか疲れたなぁ……。
―神ポイント―
・現在のポイント 986ポイント
・日常保育2人 4ポイント
・初めての体験保育 100ポイント
・園児の入園 500ポイント
・神力使用 -100ポイント
・現在の神ポイント 1490ポイント
なんか今日はいろいろあるな、しかしソフィちゃんの入園が大きい。あと日常保育も倍になってるし。体験保育も初回ボーナスになってる。
よし、1000ポイントを超えたら実施しようと思っていた遊具の新設を明日やってみるか。やはり遊び道具の種類は大いに越した事は無いもんね。
「結構ポイント貯まってきたね!」
優しい香りと共に俺の顔の横からルーミィさんが顔を覗かせてきた。
だからびっくりするから急に近づかないで下さい……神ブックを見る為なんでしょうが、こっちはその度に心拍数が上がるんですよ?
まあ、ゆっくり来られても同じですが。
「はい、本当にルーミィさんのおかげです。感謝しています」
この言葉に嘘偽りは無い。一人では限界がある。この世界で俺一人で生きていき、神ポイントを貯めるなど不可能だ。
現に今日だってドラゴン夫妻との説明の間はルーミィさんが園児達を見てくれていた訳だし。
「そ、そんな事ないよ。そ、それにしてもあのレッドドラゴン、ううん、古龍相手に平然としていられる和也の方が凄いよ」
そういえばその古龍ってパワーワード、ちょいちょい出てきますね。でも白銀狼さんと同じような感じでしょ? まあ、それ自体が危険盛り沢山なんでしょうけど。
どうやらルーミィさんは古龍という存在を知っているようだし、一応確認させて貰いましょうかね。
絶対やばいのは百も承知の上だが。
「あの、ルーミィさん。その古龍という存在について少し詳しく聞かせて頂いて宜しいですか?」
情報は大切だ。情報を制するものは世界を制す。元の世界ではその情報がお金になるくらいだし。知らない方が良い場合もあるにはあるが……。
「うん、レッドドラゴンってそもそも存在自体が希少な存在で全てのドラゴン属においてのナンバー1が古龍と呼ばれるの。それがバストラさん。特徴は真紅の瞳を持っていて他のレッドドラゴンは赤い瞳なんだ。その真紅の瞳に映った者でかつて命があった者は居ないって神界新聞の歴史コーナーで読んだ事があるんだ。それにしても白銀狼夫婦に加えて古龍夫妻までこの世界に同時に存在しているなんて……なんて世界なのよ、ここは……」
随分と長々語られたが……結論を述べよう。情報は大切だ。だが今回も知らない方が幸せだった。後、神界って新聞あるんですね。何気に充実したコーナーもあるようで。
しかし煽り文句が物騒過ぎる。白銀狼さんより酷いじゃないか……目に入った生き物全員死ぬじゃん……。
「な、成程。そ、それを知っていたのならやらかしても仕方の無い話ですね」
あ……しまった。口が……。
ルーミィさんと目が合い、みるみる顔が赤く染まっていくのが分かる。もうサーモグラフィがあれば顔面が真っ赤なのは間違い無い。
ああ、しまった……こっちの油に点火しちゃったよ……。




