異世界276日目 1月8日(水) メル、遠方より来たる
あっという間にお正月も終わり、案の状、正月太りした。この重い体をスリム化する為にも保育を頑張らないとな。まあ、園児達と遊んでいればすぐに体重は戻ると思うけど。
早速冬休み開けの園児達と元気一杯の笑顔と挨拶を交わし、恒例のお花、イチゴさんの様子を見て回る事になった。
「緑のイチゴさんが出来てる~!」
サラちゃんの声がハウス内に響いた。そう、冬休みの間に遂に小さなイチゴの実がなったのだ。
緑色の小さな実があちらこちらに生えており、イチゴの花も数えきれないほど咲いている。これが全て実になるとは考えると相当な量になりそうだ……。
やり過ぎたかも知れない……この畑が赤一色になる可能性があるな。しかし、流石は神力といったところだな。通常、めしべへの受粉は自然に任せる物や人工的にするものと別れるのだが、そのどちらの行為も一切していないのに実がなっている。
もはや植物学の域を超えたイチゴである事は間違いない……まあ、あれだ。そうなるようにイメージはしたし、ここ、異世界だからさ。
「ふんふん、そうなんだぁ~! へえ~」
サラちゃんはイチゴさんと交信してくれているようだ。なにか情報があれば教えて欲しいところである。それとも世間話かな?
「……チューリップさん……変わって無い」
ハウスの外に出て花壇の方に足を向けるとソフィちゃんが悲しそうな顔をしていた。変化の無さを嘆いているようだが、確かにこの時期のチューリップって成長してないよう記憶があるな。
「……サラに聞いてもらう」
イチゴとお話し中のサラちゃんを呼ぶ為にソフィちゃんはハウスの方に駆けて行った。そうそう、駆けて行ったと言えば……。
「わあ~い! ゆき~!」
アメリアちゃんは先程からずっと運動場を駆けている。お家の方には雪無いもんね。久しぶりの雪に喜んでいるようだ。それにしても元気はつらつ、いや、爆発だな、あれは。
おっさん、正直、雪にうんざりしてたりするんですけど……。ああ、『雪だぁ~!!』と浮かれていた自分が懐かしい……。
「……カズヤ先生、チューリップさん元気だった」
にっこりと笑いながらソフィちゃんがチューリップさんの状態を教えてくれた。どうやら見た目は変わっていないらしいが、根はしっかりと張れていて春に咲く為の養分を貯めているのだとか。
尚、イチゴさんは後一ヵ月もすれば赤い実になれるそうだ。
「ふっふっふ……そうなんだ、もう少しなんだ……」
ルーミィが苗を見て笑ってる……怖いよ? その両の瞳は収穫を間近に控えたイチゴさんを捉えているようだ。
「ほんとルーミィちゃんは食欲旺盛っすよね! これはなんかの植物育ててるんすか? あの感じから察するとこの実は食べれるんっすね」
「そうなんですよ、仰る通りで――ってメル?」
褐色のお肌に滑らかな黒髪、曇りひとつ無い黒い瞳、全身白色のトータルコーディネーションのブラックドラゴンさんが隣に居た。
可愛いらしいロングコートを羽織ってますね、冬verですね。とてもお似合いですよ。
「わあ~! メルお姉ちゃんだ~!」
「……いっぱい遊ぶ」
「あ、やっぱりメルおねえ~ちゃんだぁ!」
大人気、メルお姉ちゃん! 園児達が一気に集まって来た。集客効果は100%である。
「相変わらず急に現れますね……何か進展があったのですね?」
「はいっす! 第二プラン完了したっす!」
え、もう完成しちゃったの? 今度のプランは健康ランドクラスはあったと思うんだけど。
「カズヤさんのプランを忠実に再現したっす! 完成した時には改めて鱗が立ったっすよ! もうこっちで一緒に温泉経営しないっすか? そ、その番として……」
いや、温泉経営してたら俺、消滅しちゃうから。保育園のお仕事しなきゃいけないのでどうあがいても無理なお話です。
「……カズヤの番はソフィ。他にアメリアとサラも居る」
ソフィちゃん、誤解を生むような発言はやめようか。それだけ聞けば俺がただの幼児犯罪者のおっさんになってしまいますから。後、先生ね。冬休みの間に忘れちゃったのかな?
「そうっすか……カズヤさんはそっちだったんすね……でもそれならワンチャンあるっすよね!?」
またいつもやつですか? 俺はロリコンでも無いし、なにより子供には手を出しませんからね! 十六歳以上ですからね……いや、この線も俺の歳を考えると結構ギリの気もするが。
後、一つ付け足しますけど胸の大きさは関係ありませんからね? そっちってどっちなんでしょうか。俺は超お胸ちゃんから小胸ちゃんまで大好きなんですからね!
……我ながら心の中が残念極まりない……絶対口外出来無いな。まあ、胸が基本好きなんっすよ……。
≪≪≪
「しっかり掴まってるっすよ!」
メルが雪の上をソリに乗った園児達を引っ張って遊んでくれている。尚、メルは黒い立派な翼を広げ空を飛んでいる……そう言えば邪竜やってましたもんね、ドラゴンですもんね。
ソリを三つ引きながら運動場を飛び回っているのだが、あれは中々楽しそうである。ちょっと俺もして欲しい。メルが居るからこそ出来る遊びだな。
「メル様、あまりスピードは出さないようにして下さいね~」
レインもメルとはすっかり馴染んでいる。それとなんかルーミィがさっきからずっと園児達を目で追っている。俺と同じくあのソリ遊びやりたいのかな?
頼んでみましょうか? 俺もやってもらいたいですし。
メルと一緒にひとしきり遊んだ後は昼食タイムとなった。尚、お恥ずかしながらソリには乗せてもらった。もちろんルーミィも。おっさんと女神様は園児と変わらないテンションで遊ぶ中、レインは苦笑いしながら見守ってくれていた。
今にして思えば、俺は何をやっているんだか……。でも楽しかったから良しとしておこう!
ちなみに急な来訪のメルの分の給食は無いので俺の分を食べてもらった。まあ、自分の分は適当に作るので問題は無い。
そんな昼食タイムの後、ブラックドラゴン温泉の話になった。
「このご飯美味しいっすね! あ、そうそう、グランドオープンに先駆けてみなさんをブラックドラゴン温泉ランドに招待するっすよ! 園児ちゃん達も一緒に来るといいっす! 宿泊も出来るようになってるっすから」
メルからの言葉に園児達は大はしゃぎである。確かにこの前約束してたもんね。あ、そうだ!
「メル、何人か知り合いを呼んでも構いませんか?」
「いいっすよ! まだオープン前なので他のお客さんもいないっすから!」
イリアさんを呼ぶのは当然として、他にもお礼をしたい人がたくさんいるので誘ってみるとしよう。
園児のお便り帳にブラック温泉ランドへの一泊二日の案内を書き記し、カバンに入れてあげた。お泊りとなるので親御さん達への連絡は必須だ。それに今回は初めてのお泊りとなるので注意も必要だ。ホームシックとかにならないか心配である。
「ところでメル、第二プランの全てが完成したんですよね?」
「そうっすよ! いやあ楽しかったっす! グランドオープンしたら大勢のお客さんが来る事間違い無しっすよ!」
そうか……ならば俺も腹をくくらねばならないな。あの施設が完成したならば……。
今回ばかりは正座では済まない気がする……。顔面を引っ掻かれる事ぐらいは覚悟しておかねば。




