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異世界269日目 12月25日(水) ⑤ウィンターフェス ~新ブックホルスター~


 イベント広場の伝説の樹付近の群衆からクレイドを見据え、『サキニカエル、アトヨロシク』と念じ、村を後にして園に戻って来た。


 早速クリスマスディナーの調理に取り掛かった。腕を振るいに振るい、レインご所望のブリュレはもちろんの事、おっちゃんを真似て一晩特製ダレに漬けこんだチキンにクリームシチューにピザにサラダ、ケーキやお酒のアテなども多数用意し準備万端である。

 

 さあ、楽しいパーティの始まりだ! ウキウキしちゃうな! 思い起こせば三十二年……一度もこんな経験無かったもんな……。しかも男女比率が1:3というまさかのハーレム編成!

 まあ、若過ぎるのが難点ではあるのだが……イリアさんって何歳なんだろうか……。




「はひゅうぅぅ~」


 ため息のなのか、酔っているのか分からない謎の声を出しているルーミィは、たらふく食べた後、お酒を飲み、既に出来上がっている。しかし成長はしているようだ。先に満腹になってからお酒に手を付けていた。食べる事に主軸を置いた完璧な作戦である。


「相変わらずルーミィは酒に弱いな。この程度で伸びてどうするんだ」


 そう言いながら中々のハイペースでお酒を飲み続けているのはイリアさんである。しかし良く飲むお方だ。用意した葡萄酒を水のように飲んでるもんな……。


「はあぁ~幸せですぅ~」


 レインはブリュレを味わう為にお酒を飲んでいない。本人曰く『お酒を飲んだ後にブリュレを食すなど失礼にあたります! じっくりまったり味わって食べなければなりません!』などと言っていた。どうやらブリュレの存在はお姫様の位よりも上のようだ。

 まあ、食べ物を大事にするのは悪い事ではありませんけどね。


 ブリュレを三個平らげた所で口元を拭き、俺を見て声を掛けてきた。尚、明らかに食べ過ぎであるが、今日は特別に許してあげている。

 しかし胸焼けしないのだろうか……結構な糖分ですよ?


「それではカズヤ様、今宵は私とお付き合い下さいませ」


 先程のブリュレに恋していた表情から清楚な表情に戻った。はい、分かってます、順番ですもんね。


「……レイン、カズヤ、分ってるな?」


 イリアさん、少し酔ってます? 普通に怖いので真顔で睨まないで下さい。楽しいクリスマスなんですから……。


「はい、心得ております!」


 まあ、レインは約束を破ったりしないだろう。お酒も飲んでないし。


「伝説の樹は今でも大勢の方で賑わっているでしょうし、大樹の方までお散歩などは如何でしょうか?」


 確かにまだ人は残っていると思う。次の日全員風邪で寝込んでいたらどうしよう……そうなるとウィンターフェスも考えものだな……。来年は暖を取る為にキャンプファイヤーでもするかな。



≪≪≪



 ランタンを持ち、大樹の方へとレインと二人で向かっている。流石にサンタクロースの衣装からは着替えて今はイリアさんから頂いたコートを羽織っている。レインもサンタコスは脱いでおり、いつもの冬着に愛用のコートを着用している。

 クリスマスももう終わりだな。ちょっとさみしい物もあるが、この残された僅かな時間というのも悪くは無いな……っておっさん、ちょっとロマンチックになっちゃったよ。

 

 完全に柄じゃ無いので黙っておくとしよう。こんな歯の浮いた言葉、レインは喜びそうだが、当の自分がこそばゆくて仕方無いもんな。


 尚、ルーミィから貰ったお守りはしっかりとコートのポケットに移し替えた。忘れたら一年間放置になってしまうもんな。

 尚、一年振りに着たコートの中から残念な状態になったお菓子が出て来た事は経験済みである。


「うう、寒い……夜はまた一段と冷えますね」


 頬に当たる北風に思わず背中を丸めた。出来れば園の中で過ごしたかったが、レインだけそんな雑な扱いをする訳にはいかない。順番的には最後になってしまったし、楽しみにもしてくれているみたいだもんな。


「そうでございますね、ですが空気が澄んでいてとても気持ちいいです!」


 こ、子供は風の子理論は正しいのか? おっさんはお世辞にも今は気持ちいいとは言えないんですけど……。


 大樹の元に辿り着き、一息ついた。吐き出す息は白く、時折吹く風は突き刺さるような冷たさだ。足元の雪のせいで底冷えもしてくる。


「レイン、寒く無いですか?」


 寒さに震えるおっさんに対し、レインは姿勢良く立っている。ほんと立派ですねえ……どんな時も立ち振る舞いを崩さないのは王族としての教育の賜物なんでしょうか。


「はい、大丈夫です。王都でも冬場はこれぐらい寒くなりますので慣れてはおります」


 そんな問題なのだろうか……ステータスに寒さ耐性とか付いているんじゃないでしょうか?


 そんなおっさんとのスペックの違いを見せつけてきたレインは、頬笑みながらコートの中から何かを差し出してくれたのだが……それ、どこから出したんですか? 


 そういえば姿勢は良かったけど手はお腹辺りにずっとあったような……普通なら気付くんでしょうが、超お胸ちゃんの膨らみのせいで胸元とお腹に高低差が出来てますからね。全く分かりませんでしたよ。


「カズヤ様、遅くなりましたが、私からのクリスマスプレゼントです。どうぞお受け取り下さいませ」


 ランタンの明かりを手元に照らし確認してみると、レインの手には白い革で縫い込まれたブックホルスターが乗っていた。


「おお! これは嬉しいです!」


 遭難した時にホルスターが壊れてからというもの、神ブックはカバンに入れたり、手に持っていたりと、なにかと不便していたのだ。現に今も片手は神ブックでふさがれている状態だ。


「裁縫は得意ですので。私のお手製になります。お気に召して頂けましたでしょうか?」


「もちろんですよ! 早速付けさせて頂きますね!」


 受け取ったホルスターを腰に装着して神ブックを収納した。寸法もバッチリだし、とてもしっくりくる。うん、やっぱ神ブックはこの位置だな。


「あの、カズヤ様……ルーミィ様やイリア様は暖かかったでしょうか?」


 急に何を言い出すのでしょうか? お姫様、人の体温には個人差はありますが大体は三十六℃台で――


「カズヤ様は私の何処に魅力を感じて下さっていますでしょうか?」


 真っすぐな瞳を向けて問われた。えっと、体温の話はもういいんでしょうか? 話題がすっ飛んでいるような気がするんですけど。

 しかもそのセリフ、俺もイリアさんに聞いたような気が……逆に聞かれるパターンは想定して無かったな。魅力ですか……綺麗な瞳とか、長い黒い髪とか、む、胸とか?


 いや、それは身体的特徴が好きなだけで、『エルフが好き』『ブラックドラゴンが好き』『おっぱいが好き』と言っているのと同じだ。一番最後のは問題発言になるしな……なによりそれではレインの中身は一切見ていない事になる。


 言葉を待つレインはじっと俺の目を見続けている。そうだな……難しく考える必要もないか。


「……私が感じるレインの魅力は真っすぐさ、ですね」


 その言葉を聞いても目線を変えず、次の言葉を待っているようだ。


「初めて王都に行った時、私はレインを自分の思いを曲げて置き去りにしました。その後、今までの人生で一番の後悔をしました。ですがレインは自らの意思をしっかりと持ち、さくら保育園に帰って来てくれました。レインは迷う事無く自分の意思を貫きました。私にはそれが出来ませんでした。その真っすぐさこそ、レインの魅力だと私は思っています」


 言葉を言い終わると同時に俺の顔を見上げるレインの瞳から涙がこぼれたのが見えた。


「ちゃんと……見ていてくれたのですね……」


 当たり前である。たまに背伸びし過ぎてしまう所もあるが、それも真っすぐさ故。行き過ぎてしまった場合は大人としておっさんが修正してあげればいい。そして俺もそれを見習いたい。

 大人になるほど自分を制約しがちになってしまうもんな……まあ、イリアさんから言わせると強引な一面もあるらしいが。


 レインに関してはとてつもなく純情過ぎるが為に、ちょっと度が過ぎる所があったり、天然を発揮する所があるので困る時も結構合ったりするけどね。

 ルーミィやイリアさんの前なら正座で済むが、王様の前だけは『体を捧げる』関連の話はしないで欲しいと切に願っていますので。


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