異世界269日目 12月25日(水) ⑥ウィンターフェス ~レインがカズヤを好きな理由~
葉が落ち切った桜の大樹の枝には雪が積もっており、細い枝は随分と重そうに俯いている。そんな状態と同じくレインも俯いている。
まだ涙を流しているであろうレインは、ゆっくりとこちらに近づき、俺の胸に額を当ててきた。
頭突きでは無いよね? まあ、分かり切ってる事だが。
というかふざけでもしないと恥ずかしい……なんかまるで恋人同士のシュチエーションだし、今日はクリスマスというのも具合が悪い。こんな事されたらおっさん、抱きしめてしまいそうだよ……。
「少し心配だったのです。私の事をどう思っていらっしゃるのか……」
茶化してしまうのでわざわざ言わないが、天然に加え、意外と積極的な一面を持ってるとも思ってます。十六歳の誕生日に迫って来たのはまだ記憶に新しいもんな。
「それではレインは私の何処が気に入ったのですか? こんなおっさんの」
レインの言葉に合わせるように静かに言葉を出した。途端胸から額を離し、顔を上げてこちらを見て来た。涙の跡が見えるが、相変わらず綺麗な目をしている。
同じ質問になるのだが、俺も気になるのだ、どうしてこうもみんなが好意を寄せてくれるのかを。
園児達の為に一生懸命になっている姿が好印象とアレクにも言われた事があるし、イリアさんにも同じような事を先日打ち明けられた。だが、レインはどうなんだろう……また違った答えが聞けるかも知れない。
「な、何をおっしゃるのですか! カズヤ様は私の命を救って――」
「もしそれが無かったとしたらどうですか?」
即座に言葉を遮った。命を助けたから好きになった……分からなくも無い理由だが、妙に引っかかった。実際レインは騎士の仕事もしていたようなので命を預け、助ける事は比較的日常の事だっただろう。
現にレインは当時メルとの決戦で仲間を救う為にその身を投げ出しているぐらいだ。命を救ってくれたからと言う理由は間違いではないのかも知れないが、少々つじつまが合わないような気がする。
「それでも……私の思いは変わりません! カズヤ様は自分を犠牲にしてでも人の為を思って動ける……お方……あっ……」
「そうですか、それがレインから見た私の気に入っている所でしたか」
やはりアレクやイリアさんと似た意見か……。遭難した時も確かにルーミィを救う為、そしてイリアさんを救う為に無意識に奮闘してたもんな。
結果は園児達に助けられる羽目になったけど。
ルーミィにはこの質問が出来なかったけど、この感じだとおそらく同じ事を言われる気がするな。
はは……がむしゃらさがみなさんのお気に入りですか。いい歳したおっさんのアドバンテージでは無い気もするな。出来れば『クール』とか『クレバー』とか言われた方が格好いいんだけどな……。
ま、俺らしくていっか!
改めてレインを見るとその瞳に困惑や悲しみの感情は感じは無くなっており、生き生きとしたものを感じた。
なにか、吹っ切れたような爽快さを感じるのですが……。
少し、嫌な予感がしなくも無い……ひょっとして、後押ししちゃった? 墓穴掘っちゃった?
「私、すっきりしました! おかげで私の本当の気持ちが分かりました! また一つ大人の階段を登れたような気がします! いつもご助言ありがとうございます! そんなカズヤ様がやっぱり大好きですぅ!」
ぐはあっ! な、なんたる直球を!? お、お姫様、真っすぐなのは決してダメではありませんが、おっさんにはそんな剛速球、触れる事すら出来ませんから!
「カズヤ様! クリスマスプレゼントを頂きたいです! 御手を……御手を繋いで下さい!」
しまった……年頃の娘さんが覚醒してしまった。ダメじゃん、やっぱり自分で自分の首絞めてるし! ただでさえ天然で積極的なモーションかけてくる子が、自分の意識でプッシュするようになってしまった! バカ、俺のバカ!
はぁぁ……とはいえ自分で蒔いた種だ、ちゃんと対応せねば。まあ、キスとか迫られている訳じゃないし。よし、園児達との手のつなぎ方を想像しよう。イメトレだ、イメトレ……。
「カズヤ様、園児達をお考えにならず、今は私を見て下さい。私も今はカズヤ様しか見ませんから……」
……バレてるんですね。そして妙に色っぽくないですか? ダメですよ、エルフのそういう所を出してきたら……。
レインは俺の手を取り、指を絡めて来た……ま、まさかの恋人、繋ぎだと!? くっ! だ、大丈夫だ、落ち着け俺、素数を数えれば大丈夫だ! 割り切れない数を羅列させて頭の中を数字で埋め尽くせば――
「カズヤ様の御手……温かいです……」
そのまま繋いだ手を頬に当てて来た……えっと、完全に柔らかい物が当たってます。契約違反になります。
「あ、あの、レイン、胸が当たってます!」
「こ、これは、し、仕方ありません! 私はただ手を繋いだだけです……そ、そのど、どうしても、あ、当たってしまいますので……」
頬を赤らめ答えてくれた。そうか、仕方無いのか……いやあるでしょ? 手を繋いだままほっぺたすりすりなんてするからでしょ!?
……すべすべの肌ですね……。
≪≪≪
園の前までレインと恋人繋ぎのまま戻って来た。玄関の前に辿り着く事にはレインの手はすっかり暖まっていた。そりゃあそうだろう、おっさんの手汗でじっくり解凍した訳だから。
「うふっ……幸せでございます……」
そのまま顔まで腕に寄り添わしてきた。完全に歩きにくいと思うのだが、レインの足腰なら問題無いのだろう。
『おかえり』
玄関の扉が勝手に開き、そこにはルーミィとイリアさんが揃って立っていた。手を繋いだままおっさんの腕に頬を寄せて恥じらうお姫様の姿をガン見されている。
オワタ……。
えっと……園の玄関を自動ドアにした覚えは無いのですか? そしてルーミィの復活が早くなってきている気がする。さっまで酔っ払って寝転がっていた筈ですが……お酒耐性が付いて来たのだろうか。
「レ、レイン! 和也とくっついて――手、手も握ってるじゃない!?」
「その密着具合、まさかと思うがあんたら……」
ひいぃ、二人ともアルコールのせい? いつもより迫力あるんですけど!?
「カズヤ様はしっかりと私の心を見てくれ、そして暖めて下さいました!」
ルーミィとイリアさんの目線はレインの胸を経由し、俺を睨んで来た。違うの、心って言うのは胸じゃなくてですね、気持ちの事なの! そしてレイン、天然ぶりに拍車がかかってますよ? 少し押さえてもらわないとおっさん、雪だるまの中に埋められちゃうよ?
クリスマスの夜に雪だるまの中で凍死か……笑えないぞ……。
「ったく! とりあえず何があったかは中で聞くよ! さあ、寒いからさっさと入りな!」
「ちょっとイリアさん! イリアさんの家みたいな感じになってるよ!? もう、早く和也もレインも入って! 風邪引いちゃうよ!?」
「はい、ありがとうございます! カズヤ様、まいりましょう」
レインは繋いでいた手と腕を名残惜しそうに離し、雪を払い、園の中に入って行った。
異世界か……苦労は絶えないけど、いろいろ学ばせてくれる素敵な世界だな……。今回は自分の魅力に気付かせてくれたもんな。
「和也~! 何してるの~!?」
「はいはい、今行きます」
ルーミィから催促だ。きっとまた正座させられるんだろうな……。今年のクリスマスは三人ともプレゼントをくれたのに行動でお返しする事になってしまったな……来年はしっかりと用意しておかなきゃな……。
雪の舞う運動場を少し眺め、園の玄関のドアを閉め、一呼吸置いてこれからの事について思いを馳せた……さあ、正座する場所は何処ですか? ちょっと冷えてますので、出来ればこたつを希望したいのですが。




