異世界269日目 12月25日(水) ④ウィンターフェス ~和也、普通に喋らされる~
「はぁぁ……いっぱい喰わされましたね……」
額に手を置きながら雪の上ではしゃぐルーミィを見ているのだが……そんな騙し技まで使ってくるとは……。女神様、再研修中です、そう言った事は減点対象になりかねませんよ?
まあルーミィは敬語を嫌がる節があるからなあ……何度もお願いされてる事だし、プレゼントとしてそれがご所望ならば止むを得ないか。
でも急に普通に喋れてと言われても妙に意識しちゃうもんなぁ……。
「早く~、早くプレゼントちょう~だい!」
るんるん気分ですね……でもこれを無視すると今度は本気で泣きそうだから素直に従っておこう。幸い周りには誰もいないし。
「……ルーミィ、聞いておきたいんだけど再研修の合格ってどういう風に決まるんだ?」
「ひゃ、ひゃい!? あ、あの、さ、最終日に上司が確認してくれるかと思います……」
なんか焦りながら姿勢を正して固くなった……なんでそっちが敬語になっちゃってるの? これじゃあ逆になっただけじゃないか……。
「そうなんだ、となればやはり最後の日になるまでは再研修の結果は分からないと言う事か……」
「は、はい、そうなりましゅ!」
噛んでる……どうしてそんなにそっちが緊張しているのだろうか。俺の方が緊張する場面であると思うのだが。
「もし、再研修の結果が思わしく無かった場合はどうなるんだ? このままこの世界に残るのか、それとも強制的に神界に戻されて再び再研修をするのか?」
「そ、それは……た、多分神界に戻されて、もう一度再研修やらされると、お、思いましゅ!」
おっさんは頑張って顔を見て話しているのだが、当の女神様がしどろもどろしている。それに今の所全ての返事で噛み倒している。なんでそんなプレゼントを要求したのだろうか。
しかしルーミィは合格点が出るまで神力の返却はお預けか。もし今回の再研修の結果が思わしくなかったらきっと別の転移した人に今度は付くんだろうな。
なんかそれはちょっと嫌かも。おっと、またエゴが出てしまった。ルーミィは物では無いし、何より女神様だ。独り占めしていいような存在では無いし、出来る存在でも無い。
「ありがとう、分かったよ。となると、最悪の場合はレイン一人が保育園残る事になるのか……」
ルーミィは結果に関係無く神界戻る。俺は結果によってはこの世界から消滅する。万が一の事を考えておかなければならない。さくら保育園をずっと残していく為にも。
「そんな話、したくないよ……」
ルーミィが俺の顔を見上げながら袖を掴んできた。その目には涙が溜まっている。これは嘘泣きではないな……。
「カズヤは試練を達成してこの世界に残るんでしょ!? 私だって頑張ってお手伝いするんだから弱気になんてなったらダメだよ! 言っておくけど消滅したら天罰落とすからね!」
消滅しているのに天罰って……それはもう地獄と変わりないんじゃないかな? でも確かにその通りだ。正直、今の進捗状態だとギリギリだ。気を抜けば本当に消滅してしまいかねない。気持ちを入れ直さねば!
「ありがとう、ルーミィ! そうだよな、俺が弱気になってちゃダメだよな、うしっ! 来年もさくら保育園で元気な園児達と遊んで学んで行こう! それが俺がこの世界に残れる唯一の道だもんな!」
ポンとルーミィの両肩に手を置いた。細くて小さな肩だ。遭難した時にはお世話になり――
いや、置いちゃダメじゃん!? 勢いで何しちゃってるの、俺!?
「あ……う、うん……そ、そうだね……」
ちょっと! 目を閉じないの! 約束! 約束は一体どうなったの!? 守らないと怒られるよ!? それに女神様なんだから嘘も付いたらダメなんじゃない!? 再々研修されちゃうよ!?
「ルーミィ! ダメですってば! イリアさんやレインに怒られますから! そ、それにこの前だって、その……」
内緒でキスしちゃったし……。
焦るおっさんの言葉に、片目を開けて可愛いらしい舌をペロっと覗かせた。
「ふふ、言葉、元に戻ってるよ? 和也だって約束守ってないよ? 後、この前の事って何だっけぇ?」
こ、この女神様は! おっさんのガラスのハートを弄んでからに! 確信犯だな! きいぃぃ!!
「はぁぁぁ……そろそろ帰りますよ。パーティの準備をしないといけませんからね」
「ええっ! もうおしまい? 折角二人きりなのに……も、もうちょっとぐらい……た、例えばくっつぐらいはいいかなって……」
とっても残念そうだ。だけどおっさんの限界値は超えました。これ以上はムリです。それにくっつくのもダメに決まってるでしょ……仕方無い、餌で釣るとするか。
「ですがパーティの料理は特別な料理を用意したく思っているのですが、それには下ごしらえが時間がかかりまして……まあ、普段と変わらないものでしたら大丈夫なのですが、折角用意しようとしてたんですがねぇ……特別な物を……」
「和也、早く帰ろう! お腹空いたよぉ! 特別……特別……」
チョロい……俺も伊達におっさんしている訳ではない。この女神様の攻略法は基本美味しいご飯でなんとかなるのが救いだ。
来た道をスキップしながら戻る女神様の無邪気で可愛らしい後ろ姿を眺め、一つため息を落としてからを追いかけた。
≪≪≪
「お、帰ってきたか。変な事していないだろうな?」
「カズヤ様、お約束はお守りになられてますよね!?」
イベント広場に戻ってきたのだが、何故戻るなり早々に二人して俺に詰め寄るんでしょうか。そこはルーミィに行く場面だと思われるのですが。
「何もありませんよ。しかし、随分と甘い空間になっていますねぇ……」
ウィンターフェスの最中ではあるが、伝説の樹の周辺にはカップルやご夫婦でごった返している。広い場所はいくらでもあるのに、伝説の樹の周辺の人口密度が半端じゃない。
伝説の樹さん、ちょっとやり過ぎじゃないですかね?
「完全にカップルの憩いの場になってしまってますね。しかもテーブルもしっかりと片付けられてますし。邪魔、だったんでしょうね……」
今宵は新しい命があちらこちらで芽吹くのではなかろうか。その際にはさくら保育園へのご入園を是非ご検討下さい。
「そうなんだ、独り身の人間が居ていい場所じゃ無い。ほれ、あれを見てみろ」
イリアさんの目線の先には隅の方でやけ酒を飲んでいる村の男性陣が居た。確かに飲まずにはやってられないだろう。でも飲み過ぎないように気を付けてね?
「それでは私達もお邪魔しては悪いので園に戻ってパーティといきましょうか。後はクレイドに任せておきましょう」
伝説の樹の真下の特等席でイチャラブしてるから声はかけない。あんな空間とてもじゃないが入れたものではない。いや、入れ無い。俺には見える……ピンク色の六角形のバリア的な物が。近づいたら弾かれてしまいそうだ。
「カズヤ様、あ、あの……」
レインがもじもじと頬を染め、身を捩じらせながら声をかけてきた。ま、まさかこのカップル達の幸せオーラに当てられておかしな事になったんじゃないでしょうね!? ダメですよ!? 貴女はお姫様なんですから一時の感情に身を任せては――
「パ、パーティのお食事に、その、ブリュレはございますでしょうか……?」
あ、そっちね……。良かった……でもどれだけブリュレが好きなんだこのお姫様は。
「は、はい、ご安心下さい、クリスマスですからね。特別に沢山作りますよ」
その返答にレインは心の底から微笑んでくれた。それは伝説の樹周辺に集まる人達の中でも群を抜いた幸せが滲み出て……いや、そんなぬるい物ではないな。放出されてると言った方が的確だ。
ある意味女神様越えのオーラだな……。




