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異世界3日目 4月3日(水) ③ルーミィの調理技術

 

「お腹空いたぁ~!」


「ルーミィさん、お腹空いてばっかりですねえ……」


 蛇口を開けば水が出てくるように、ルーミィさんの口を開けば『お腹空いた』が出てくる。この異世界に来てから一番使われてる言葉ですね。


「あれだけのスライム集めたんだよ!? どれほど動き回ったと思ってるの!」


 少し怒りながら反論された……お腹が減ってきて、機嫌が悪くなっているのかも知れないな。


 まあ確かにお買い物から帰って来て、そこから休み無く、園と大樹を三往復してスライム採取をしに行きましたからね。

 うん、原因はやっぱそこでしたね。純粋に疲れたという訳ですな。


 キッチンの端を見ると努力の成果である大量のスライムが積んである。我ながら貧欲に集めたものだ。


「それに私は育ち盛りなの! 今日のご飯は大盛りにしてもらうからね!」


「育ち盛りって……その割に――っう!?」


 言葉の途中で顔の傷が不意に痛み出した……こ、これが傷が疼くという現象!? 体が拒絶反応を起こして俺に知らせてくれたとでもいうのか!?


 いや、ふざけてる場合じゃない。危うく昨日の二の舞いになる所であった。ルーミィさんに胸関連の発言は禁句だった……早く、言い直さねば、今日注意されたばかりだもんな――


「そ、その、割、増しておきますねからね、ご飯の量!」


「うん? お願いね!」


 よぉお~し! なんとか誤魔化せた! 危なかった……おっさんとはいえ顔の傷は出来れば避けたい。


 しかしこの流れは利用しよう。このタイミングで我が家の食に関する基本方針を発表させて頂くとしよう。


「おほん、それでは今後の食事の件についてですが、外食も全くしない訳では無いのですが、やはり基本は自炊を心がけたく思ってます」


 武器屋食堂のご飯は安くて美味しいのだが、それでも二人分だと自炊の方が安くつく。

 それに最上級の調理設備と環境が整っているのだ、使わないなどと言う選択肢は俺には無い!


「うん! 分かった! じゃあお料理するの手伝うね!」


 ルーミィさんが俺の横に並び腕まくりをして準備をしてくれている。

 真横で見下ろす形になっているのだが、女性とこんな至近距離での共同作業などした事が無い。そもそも女性と一緒に料理する事自体が初めててだな。


 お袋は……まあ、除外だ。


「そ、それではお米を洗ってくれますか?」


「は~い。洗えばいいんだね!」


 ルーミィさんがお米を入れた炊飯器のジャーを持ち、洗い場に行ったのだが、なんだこの胸騒ぎ。


 お米を洗う……厳密に言えばお米を研ぐが正しいのだが、一般的に良く使われる言葉を選択させてもらったんだけど……女神様ってお米の洗い方って知っているのだろうか。 


 ……まずいっ!?


「ルーミィさんっ! ちょっと待って下さい!!」


「えっ?」


 俺の咄嗟に出した声で粉洗剤を持ち、付属のスプーンに並々洗剤が盛られた状態でなんとかフリーズしてくれた。


 危なかった……洗剤をぶち込まれる直前であった。この行為は全国の米農家さんを侮辱しかねないものだぞ?


 ま、まあ、あれだ。米の調理方法を知らない人に洗ってくれと言ったら大半はこうなってしまうだろう。しかも相手は神様だし……俺の配慮が足らなかったのだ。


「すみません。概要をお伝えするのを怠っておりました。お米は洗剤で洗うのでは無く、水ですすぐものなのですよ」 


「なあんだ! そうなんだ!」


 どうやら理解してくれたようだ、女神様がお米を洗ってる姿なんて想像出来無いもんな。


「お米は私が洗いますので、えっと……そこの野菜を切って頂けますか?」


「は~い!」


 ふう、野菜を切る事なら任せられるだろう。さ、俺は米を洗うとするか。


 それにしても安直なフラグを踏まずに済んで良かった。まあ、俺もこう見えてギャルゲーはやりこんでましたからね。

 外国人の子がやっちゃうミス系だね。


 そんな声に出してはいけない、黒歴史を考えながら手に取った米粒を眺めた。


 意外と綺麗に精米されており、粒もふっくらとしており味にも期待が出来そうである。

 これならばあまり強く洗わず、米に付いた埃や、僅かなぬかを取る感じで優しく洗うだけでいいな。お米の旨味を出来る限り逃さないようにしないと。


「あ、そうそう、今日は野菜炒めにするので野菜達は薄く――」


「せえ~の、えい!」


 甲高い木と刃物の衝撃音が聞こえたの同時に、人参の下半分が炊飯ジャーにダイブしてきた……お見事、ホールインワンです……。


 ぷかぷかとジャーの中で浮かぶ人参さんを少し眺め、無の状態になっていたが、恐る恐るルーミィさんの方に視線を向けた。

 得意気な表情でちょうど二撃目を人参さんに叩き込んでいる最中であった。


 更に分断された憐れな人参さんは、まな板の上でブレイクダンス宜しく回転していた。


 ……なんで包丁を両手持ちしてる上に、上段まで振りかぶってフルスイングでたたき落としてるんですか!?

 人参さんに何か恨みがあるんですか!? 業物の包丁も傷みますし、何より危ないから!


「ルーミィさん、ストップ! すとぉ~っぷぅ!!」


「うん? どうしたの?」


 ギラリと光る包丁の刃先をこちらに向けながらこちらに歩んできたぁ!? この女神様、包丁をまともに握った事無いな!?


「止まってぇ! 包丁を持ちながらウロウロしたらダメですっ! まずは包丁を置いて下さい!」


 よ~し、そうだ、ゆっくりとその包丁を置くんだ。そうだ、いい子だ……こんなに疲れて神経が磨り減る調理は初めてだ……。


 炊飯ジャーに浮かんだ人参を取り除き、炊飯スイッチを押し、改めて女神様に問い正してみた。


「……ひとつご質問なのですが、料理のご経験はありますか?」


「無いよ?」


「リビングでお待ち下さい。料理は私が作りますので」


 即答されたので即答仕返した。はい、知ってましたから。後、口には出しませんが、心の叫びを発表したいと思います。


 なんで手伝うって言ったんだ!?



≪≪≪



「美味しい~! 食堂と変わらないぐらいの美味しさだよ!」


 無事に料理が完成し、一口食べるや大絶賛のご感想を頂けた。食堂のおっちゃんと比較されて大差無いと言って貰えるのは最高の誉め言葉ですよ、包丁フルスイング女神様。

 しかし、今後ルーミィさんには料理は任せられないな。あの包丁さばきでは確実に周りも自分もいつか怪我をされてしまう。


「うぅ~! おいひい~!」


 俺の作った野菜炒めを幸せそうに食べている、女神様の屈託の無い笑顔が眩しい。いいおっさんが思わず、見とれてしまう程に可愛らしい。


 まあ、いっか。あの笑顔が見れるなら……。包丁の管理さえしっかりしていれば良いだけだもんな。


 尚、夕食はご所望の通り、超大盛りにしてあげた。絶対に残すだろうとタカをくくっていたのだが、ペロリと平らげた女神様は、とても満足気にソファーでくつろいでいる。


 正直、食えるものなら食ってみろぐらいの勢いで今日の夕食は準備したのだが……まさか完食されるとは。なんて食欲なんだ……これが育ち盛りか。




 洗い物も終わらし、食後の珈琲を飲みつつ神ブックのページを開いた。毎日の終わりには進捗確認しておかないとね。

 ちなみにルーミィさんにはホット牛乳をチョイスさせてもらっている。ちびちび飲むその愛らしい仕草は本当に十七歳みたいだ。


 いや俺は何を言ってるんだ、十七歳以外何者でもないじゃないかっ!

 ははっ、危ない、危ない……。


「さて、今日も神ポイントの確認をしておきますね」



 ――神ポイント――


 ・前日までの神ポイント -800ポイント

 ・現在の神ポイント -800ポイント



「増えてないね?」


 ルーミィさんの言う通り確かに1ポイントも増えてない。今日は別段、保育園の仕事して無かったもんな。村の人とは更に交流を深めたり、スライム料理を販売したりしたけどそれは対象外のようだ。

 しかし保育園の備品や設備を揃えて行く為にもお金は必要不可欠。


「ええ、でもスライム製品は私達が生きていく為の唯一の手段です。神ポイントは増えませんが、これを辞める訳にはいきません。それに今日はフラムさんからスライムの情報を聞けたので、新製品を思い付きま――」


「そうなの!? 味見は任せてよね!」


 食い気味を通り越して完全にのっけてきましたね? しかも味見かい……いや、手伝われると大惨事になりかねない。これでいいのだ……。


「ええ、お願いします。今の季節は桜スライムが多く居るようです。それを使って季節限定商品を作る予定なんですよ。後、販売促進用のポスターを作って販売時間や販売個数などもお客さんに分かリ易くする配慮もしたく思ってます」


「うん! それでいっぱい美味しいご飯を食べよう! 和也って料理作るの上手だから楽しみ~♪」


 わ~い、随分と軽いですね~。


 そんな中ですか、実はですね……こっちは消滅するかどうかの瀬戸際でやってるんですけど!? デッド・オア・アライブなんですけど!?


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