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異世界2日目 4月2日(火) ④口は災いの元

 

 雑貨店から園に戻って来るや否や、冷蔵庫に購入した食材を並べ、ドアを開けたまま、悦に入って腕を組んで眺めている。

 元の世界のマダム達に『開けっぱなしにしてないでさっさと閉めなさい!』と怒られてしまいそうだが、今ばかりは許して欲しい。

 この異世界にあってはならない、世界観の全く違う文明の利器の姿を見て感無量となっているのだ。


 大型の冷蔵庫なので完全に空きスペースの方が多いけどね。それでも食材がある事の安心感は大きい。冷蔵庫に物が入っているだけでこんなに感動を覚えるとは……おっさん、涙が出そうだよ……。


 そんな異世界に来てからの初料理となる夕食は、オムライスにする事にした。


 シンプルな料理と侮る事無かれ、こういった料理こそ腕前が試されるのだ! あの女神様を唸らせてやろうではないか!

 決して武器屋食堂のおっちゃんに対抗心を燃やした訳ではな……いや、ちょっとある。嘘はいけないな、嘘は。うんうん。


 さてと、まずは米を炊かねばならないとな。最悪は鍋でも炊けるけど、目の前にちゃんとした自動炊飯器があるのでボタン一つで完了だ。ほんとこの保育園のキッチン最高だわ……。



≪≪≪



 米が炊けたので高火力のコンロを使いフライパンでケチャップライスを仕立て、とろける半熟加減のふんわり卵、黄色い誘惑をこしらえた。この絶妙なる焼き加減こそが真骨頂である。


 一般的に卵をふわとろに仕上げるのはマヨネーズをいれるのがセオリーではあるが、おっさんはヨーグルトを使っている。

 これがまた卵に酸味がプラスされ、味に深みが出るのだ。

 しかもマヨネーズ同様の効果もある。卵は酸性にすればたんぱく質が結合しにくくなり、ふわふわ卵ちゃんになるのだ!


 うむ! 我ながら素晴らしい出来映えだ! 後、おまけしておくか。ケチャップで『ルーミィ』っって書いてあげよう。


 なんかメイドカフェに出てくる食事っぽくなっちゃったな……。

 伝説の魔法『美味しくなあれ♪』の使用はやめておくとするか。




「ふわああああっ!?」


 既にリビングでスプーンを持ち、臨戦態勢でお待ちになって居る女神様の前にオムライスを並べた所、奇声が上がった。


 それは雄たけびなのでしょうか? それとも感動の現れなのですか? 一体何の部類に位置する声なのだろうか。


「私の名前付きぃ!? そしておいひぃい! ふっわふわ~!」


 褒めるのか食べるのか、どちらか一つにして頂きたいものです、女神様。


 しかし、ついいつもの癖で男サイズの量をこしらえてしまったのだが、何の事は無く完食し、ケチャップを口の周りに付けご満悦な様子であった。


 しかし、よく食べますねぇ……。


 さて、十分にオムライスを堪能してもらった後は労働して頂きましょうか。働かざるもの食うべからず、ですからね。俺と一緒にお付き合いしてもらいますよ、スライム採取に。



≪≪≪



「ルーミィさん、そっちの草陰に居ますよ。あ、その奥にも」


「ま、まだ採るのぉ……」


 完全に嫌気が差した声が届いたが、残念ですがまだ採ります。明日はスライム料理を大量生産する予定なのでもっと頑張って頂きたい。もちろん俺も頑張りますので。


「ちょっと、休憩~、うう、ずっと中腰だったから腰が痛いよぉ~」


 桜の大樹の根元に腰を下ろし、伸びをして体を休めるその姿は月明かりに照らされ、それだけで絵画の一コマになってしまっている。

 おそるべし女神様、どんなシチュでも絵になりますね。


「そうですね、少し休みますか」


 ランタンを桜の大樹に掲げながら見上げると、昨日に比べ随分と蕾が開花していた。ほぼ満開と言っていいレベルである。

 大樹に向かって吹き付けられた春の夜風は、複数枚の花びらをひらりひらりと、宙に舞わせていた。


 ……異世界か。勢いで飛び出してしまったが、冷静に考えればとんでもない事をしてしまったな。

 今頃、元の世界はどうなっているんだろうか。確実なのは今後、有給が消化され無断欠勤になる事は間違い無い。いや、行方不明扱いかな。帰るまでに三年程かかる訳だし。


「……和也?」


 声がかかったので、ルーミィさんの方を向くと少し悲しげな表情を向けられていた。


 どうやら心配をかけてしまったらしい。俺、そんな不安な顔をしていたのだろうか。

 いかん、いかん、こんな若い子を心配させてはおっさんとして失格である。しっかりせねば!


「何でもありませんよ、さあ、そろそろ園に戻りましょうか。もちろん、スライムを探しながらですよ」


「やっぱりまだ探すんだぁ……」


 なんとか誤魔化せたかな。しかしこの先不安しか無いな。辛うじて料理の知識があるのが救いだ、若い時に仮に転移してたら即詰みだったな……。

 まあ、想いの大きさは蓄積されるので、若い時に来る事は無かったのだろうけど。




 園に戻り、大量捕獲したスライムをキッチンに置くと、ルーミィさんには先にお風呂に入ってもらっている。


 この保育園、居住空間としては素晴らしい出来であり、キッチンの他にもお風呂なども現代風の物で24h風呂も可能となっている。

 電気代もかからないからのも大助かりだ。明かりもリモコンで付いちゃうし、元の世界に居た時となんら変わりは無い。

 物によってはむしろこっちの方が良かったりもする。


「しかし女の子との共同生活は気を使うなぁ……そもそもお風呂は先に入るのが正解なのか? それとも後なのか? ああ、スマホがあればなあ……まあ無い物ねだりしても仕方無い。とりあえずコーヒーでも飲むとするか」


 異世界生活二日目も女性との生活について悩みながら終わろうとしているが、一応、神ポイントの確認をしておこうと思う。

 進捗確認は怠ってはいけない。たとえ何も無くても確認出来る時はしておくに越した事は無い。


 ただ、悲しいかな、異世界に来たと言うのにやってる内容は、あんなに毎日嫌だった元の世界で行っていた事を踏襲してしまっている。

 社畜の心得が全面に出てしまっている……まあ、この件に関しては感謝だ。ズボラやってると後で取り返し付かなくなる。


 身に染みた習性を嘆きながら神ブックを開き、現在の神ポイントの状態を確認出来るようイメージした。



 ――現在の神ポイント――


 -800ポイント



 うん? 昨日は-1000ポイントだった筈。一体何があったんだ? 数値だけでは何が起こったのか分からない……。


 そうだ、神ブックへのイメージを変えよう。収支と一緒に詳細も加えればいいんだ。やっぱ社畜は一度くらい経験しておくものだな。異世界で活きる!


 ……ふざけてないで早く確認しよう。社畜なんて経験しないに越した事は無い。



 ――神ポイント――


 ・前日までの神ポイント -1000ポイント

 ・保育園の認可取得 200ポイント

 ・現在の神ポイント累計 -800ポイント



 前日までの残高と、今現在の残高、その間の収支の項目……このイメージなら何が起こったのか分かるな。

 よし、これからはこのイメージをベースにしていこう。


 改めて神ブックに記載された文字を眺めると、いろいろと読み取れるものがあった。

 今日は保育園の認可を貰った事がポイントに加算されている。いわば初回ボーナス的なものだろう。このポイントが付いたと言う事は俺の考えは間違っていなかった事になるな。


 神ブックの仕組みを理解し、コーヒーを口に付けた瞬間だった。


「ふう! とっても気持ち良かったよぉ! なんか凄く大きな浴槽だったよ! やっぱり足を伸ばせるお風呂っていいよね!」


 バスタオルでその長い髪を拭きながらこちらにパジャマ姿で歩んで来るのだが……い、色っぽいじゃないか。

 それに雑貨店で買った衣類に入っていたのだろう、動きやすそうなパジャマに着替えている。


 お風呂上りの女神様か……危なかった、あまりの衝撃で神ブックにコーヒー吹き散らかすところだった。危うく神ブックがマーブル模様になってしまうところでしたよ?


 長い髪の毛はしっとりと濡れており、温まった証拠として紅潮している頬、そして可愛らしいパジャマ姿の女神様ときたもんだ。

 女神様はもちろんだけど、こんな女性のプライベートな姿、今まで経験した事無いぞ!


「あ、神ブック見てたの? どう? ポイント増えてた?」


 そう言ってあろうことか俺の手元の神ブックを覗き込で来た……お風呂上りの女の子が急接近だと? そんなもの俺の人生の辞書に載っていない。


「あ、いえ、その。え、ええ。保育園の認可で増えてましゅたぁっ!?」


 やべっ! 思いっきり噛んだ! 動揺してるのバレバレじゃん!?


「ど、どうしたの? 凄い挙動不審な態度取るね。あ、分かった。さてはお風呂上りの私を見て取り乱しちゃったのかな?」


 悪戯な笑顔を向けてきた……ええ、その通りでございますよ。しかし十七歳の子にからかわれるとは。おっさんとしての威厳が台無しである。少しぐらいは面目を保っておかなければ!


「な、何を言ってるんですか。そんな無い胸で近づかれても取り乱したりなんてしませんよ」


 あ、遂に言っちゃた。初めて神界に行った時、思い留めた余計な言葉を。

 あれ、なんか静かになったけど? もしも~し、女神様?


「……何が無いの?」


 えっ? 何って……さっきのにやけ顔が消えましたけど? その、お、怒ってます? しかも目が座ってますよ?


「な・に・が! 無いの!?」


「い、いえ。あの……」


 ま、待って! 怖い! 怖いから! そして近いから!


「あるもん! ちゃんと胸、ここにあるもんっ!!」


「おごぉっ!?」


 いきなり首を掴まれた!? ちょっ、苦しい! 苦しいから! く、首締めないで……ちょっと落ち着こう、ね!


 今のはおっさんが悪い、全面的に悪かったと思う! ルーミィさんはスレンダーで綺麗で可愛いと思っていますぅ!


 お願い、許して、い、息が……。


 そろそろ生命の限界を感じ、ギブアップ宣言しようと思った直後、首から手が離れた。

 た、助かった……と思っていた時期が俺にもありました。


「これから大っきく……なるんだからっ!」


 振り上げられた腕、折り曲げられた指が顔に迫って来るっ!? そ、それはシャレにならないやつで――


 ぎゃあああああああああっ!!!!? 


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