異世界2日目 4月2日(火) ③危険な食堂
露店ブースを片付けた後、おばちゃんに連れられて来たのは物々しい風貌を醸し出す店であった。
店の外壁に飾られているのは長い刀身の剣、俗にロングソードと呼ばれる物であろう。それが二本、交わった状態で添えられている。どうやらそれが店の看板のようだ。
建物の中に入ると小さなカウンターが設置されていた。しかし、店主さんは居ないようであり、カウンターは空席であった。
その横には通路があり、扉が見えている。どうやらまだ奥になにかあるようだ。
きっと修練所的なものがあるに違いない。
しかしそんな事よりも目を奪われたのはカウンターの奥の壁だった。
高価な物と一目で分かるような研ぎ澄まされた剣や、大ぶりな斧、装飾にこだわった弓などが展示されていたのだ。
かと思えばカウンターの手前の樽の中には無造作に剣が突き立てられている。これは恐らくB級品であろう。
今、目の前に広がる光景を見てひとつ思う事がある。
どうしてこうなった?
確かおばちゃんに食堂に連れてきてもらった筈なんだが? 明らかにこの風景って武器屋ですよね? 俺は冒険の旅に出るつもりは無いんですが……。
「どうしたんだい、突っ立って。ああ、そうね、初めては戸惑うわよね」
どういう反応したらいいのだろうか。とりあえず初心者御用達のショートソード辺りを買えばいいのかな?
「昼のピークも過ぎてるし、空いてるからさ。さあ、こっちへおいで!」
前を行くおばちゃんはカウンターを通り過ぎ、扉を開け奥に進んで行った。そうか、武器屋のピークは昼なんだ。初めて知りましたよ。
もしくは修練所の混雑具合の事かな? 俺、ここで剣の稽古しなきゃいけないんですか?
「好きな席にかけてちょうだい! 旦那を呼んで来るからさ!」
錯乱状態でおばちゃんに続き扉をくぐったのだが、その先の空間にはずらりとテーブルとイスが並んでいた。
その様子から確かに食事処であった事を確認し、なんとか我に返る事が出来た。
良かった……どうやら剣の修行はしなくてすみそうだ。
しかし、壁などにはカウンター同様、様々な武器が所狭しと飾られている。割とおっかないんですけど?
とりあえず窓際の席に腰を下ろすがルーミィさんも同じような心境なのだろう、落ち着かずにそわそわしている。
いや、違うか。あれはご飯を楽しみしているだけだな。
「よお、あんたらが異世界から来たっていう二人組かい!? 俺は武器屋食堂の店主、皆、おっちゃんって呼ぶぜ、宜しくな!」
前掛けをした中年の男性が現れて声をかけてきたのだが……なんですか? そのコラボ。必要性あります? 食堂と武器屋って。
後、異世界からの来客に対してこの村の皆さん、耐性異様に高くありませんか?
それにしても夫婦は似ると言うがおばちゃんと似た体形の方だな。そして呼び名がおっちゃんって。まんまですね。
「は、はい。私は和也、隣の女性はルーミィさんと申します。今後とも宜しくお願い致します。と、ところでこのお店の内装は……」
「おう、イカしてるだろ? 俺の趣味だ」
趣味かい!? 本格的過ぎる、てか、こり過ぎでしょ!? あそこの剣に触れようものなら即、流血しますよ! ご飯食べる所ですよ? 危ないですから!
ああ、もうツッコみ所が多過ぎて訳が分からないが、とりあえずお礼だけは述べておかないと……。
「おばちゃんにはいろいろとお世話になった上に、お誘いまで受けまして。恐縮です」
「話は聞いてるぜ、待ってな! とびきり上手い飯作ってやるからよ!」
「とびきりっ!? ねえ、カズヤ! とびきりだって! うぅ~、楽しみぃ~」
既にナイフとフォークを持ち、両手を振ってる姿が映った……マジで恥ずかしいのでやめてもらえませんか?
しばらくして運ばれてきた料理だが、これが宣言通りとびきり美味かった。
出てきたのは一枚肉の鶏肉を焼いたチキンソテーであり、仕込みにかなり手が込んでるのが俺には分かった。あのジューシーさ、柔らかさ、そして、皮のパリパリ感はただ焼くだけで出せるものではない。
添えられたパンも非常に香ばしく焼けており、外はカリカリ、中はふわふわの最高食感。これほどの味を出す食堂は元の世界でも少ないと思う。
「どうだ? うちの飯は?」
最高の料理を堪能させてもらった後、おっちゃんが再び顔を出してくれた。
「私、こんな美味しいご飯食べたの初めてですぅ!」
ルーミィさんは先程まで無心で料理を頬張っていたが、お腹が一杯になったのか、感激しながら目を輝かせて感想を述べていた。
同じ調理を嗜む者として少し悔しいが、俺も全くの同意見だ。この人、只者ではない。
まあ、こんな内装のお店をしてる時点でそうだろうけど。
「本当に美味しかったです。今度は私の作るスライム料理をお持ち致しますので」
「ああ、楽しみにしてるぜ、異世界の飯ってのに興味があるからよ!」
まあ、スライム料理は元の世界の料理ではなかったりするんですけどね……うん? ルーミィさんがお皿を眺めて何かキョドってるな……舌先が出て……ま、まさか!?
「ダメですよっ!? 今お皿舐めようとしてたでしょ!? お行儀悪いですよ!」
「うぇ!? そ、そんな事しないもん……そ、そんな事……」
「がははっ! お嬢ちゃん、そんなに気に入ってくれたのか!? いつでも来な! 最高のメシを喰わしてやるからよ!」
再び目を輝かせて高速で首を縦に振ってる……どこまで食いしん坊なんだ?
≪≪≪
「はあ、美味しかったあ~」
食後の余韻に浸っているのだろう、未だに呆けながら上の空で歩いている女神様……ちゃんと前を見て歩こうね?
「それにしてもスライム水まんじゅうは大好評でしたね。思った以上にお金も稼げましたし。これで食材を購入して更に大量に作りましょう。それに他にも買いたい物もありますし、雑貨店に寄って行くとしますか」
その言葉を聞いた直後、歩みを止め、怪訝な表情を浮かべ出した……なんですか、さっきの幸せ絶頂の笑顔から一転してその不機嫌そうな目は。
「雑貨店のイリアさん、スタイルいいもんね」
まさかのお言葉を頂いた。いや、違うから、そういう目的で行くんじゃないから! まあ、あのスタイルについては否定しませんが。
「雑貨店は品揃えが豊富でしたし、元の世界と価格も大差ありません。信頼出来るお店ですよ」
「ふ~ん。そう」
なんか疑われてないか? イリアさんのお店はともかく俺の方は完全に信用してませんよね?
≪≪≪
「お、いらっしゃい! カズヤにルーミィじゃないか」
今日もイリアさんに威勢の良い声に乗せて名前を呼ばれた。気持ちがいいものだ。
しかし昨日が特別露出の高い服なのかと思っていたが、今日もなかなか際どい服だ。どうやらセクシーのコンセプトは外してこないらしい。
雑貨店には不必要なコンセプトではあるが。
あまり眺めてるとまたルーミィさんに怒られるので、挨拶もそこそこに食品コーナーに足を向けた。
今日は昨日よりも多めにスライム水まんじゅう用の材料を購入しておこう。それに今晩はちゃんと夕食を作ろうと思うので一般食材も購入させて頂こう。
昨日は混乱とバタバタで余裕が無かったが今日はまだ時間もある。ひもじい思いはもう勘弁だ。
「今日はこれだけお願いします。イリアさん」
「あいよ。ところであんた達、聞いたよ? スライムの料理だって? 村中で噂になってるぞ?」
おそらく口コミ効果であろう。発信源は間違い無くおばちゃんだ。これは非常にありがたい、今日以上に売れ行きが伸びる可能性が高くなったぞ。
「そうそう、昨日頼まれてたやつ、見繕っておいたからな。ほれ、一応中身は確認してくれよ?」
かなり大きめの布袋を二つ渡された。そう、異世界初日に雑貨店で買い物をした時に、ルーミィさんには内緒で頼んであったものだ。
本当は昨日でも用意して貰う事は出来たのだが、手が足りなかったのだ。誰かさんが両手に食料持ってましたからね。
まあ、ケープだけは先に購入して、今も羽織ってもらっているが、あれはおまけである。あの時、頼んでおいたのは……。
「ありがとうございます、それではルーミィさんもご確認願えますか?」
「なあに? この袋?」
ルーミィさん用の布袋を一つ渡して確認を促した。正直、中身を言うのはちょっと気が引けるが仕方無い。
「着替えなどの衣服です。イリアさんにお願いして見繕って頂きました。私が選んだ訳ではないですよ。念を押しておきますが」
着替えと大枠で伝えたが、実は下着なども一緒にお願いしている。それをおっさんが堂々と発言しようものなら非難の声が集まる事間違い無いので、オブラートに包ませてもらいます。
「あ、うん。ありがとう……」
少し頬を染めながらお礼を言われた。
やっぱり少し恥ずかしいですよね。でも俺もルーミィさんも着のみ着のままこの世界に来ている。今日はお風呂に入ってさっぱりしたいし、同じ服でいつまでもいる訳にはいかない。
おっさんは放置すればするほど特に臭くなる生き物なのだ。常に清潔を試みないといけない。
早速俺も袋の中を確認すると、普段着に下着とそれなりに揃えられていた。これで当面は大丈夫であろう。サイズもおそらく問題無いと思う。
ルーミィさんの方は……うん? 先程袋を渡した時よりも顔が赤くなってる。何故?
「イ、イリアさん! こ、こ、これって!?」
俺に袋の中が見えないようにしてイリアさんに迫っていた。やたらと焦っている様子だが……。
「ああ、それはサービスだ。今夜はお楽しみだろ?」
「ち、違います! 私と和也は、そ、そんな関係じゃありませんっ!」
一体あの袋には何が入っていたんだ? 気になる。が、それには触れない。触れれば大火傷してしまいそうなので。
尚、そのサービス品は結局返却していた。少し悲しくなったのは、決して気のせいではない。
一体どんな物が入っていたんたろうか……。




