異世界2日目 4月2日(火) ②スライム水まんじゅう販売
日差しはぽかぽかと暖かく、日中は朝と違って過ごしやすい。追加で調理をしているとすっかり昼前になってしまった。
結局ルーミィさんに試作品を全部食べられてしまった為、またもや喰いそびれてしまった。
……後で雑貨店で食材購入して何か作ろう。もう、丸一日食べてないんだぞ? おっさん痩せちゃうじゃないか。
腹の虫が鳴る中、購入した小豆を全部使用して朝に採取してきたスライムを使い、スライム水まんじゅうを作れるだけ作ってみた。
ちなみに桃色と緑色は残してある。これはまた別に時間を作っていろいろと研究したい。
尚、ルーミィさんには食べるのを我慢して頂いた。多分お腹空いてると思うが俺はそれよりも空いているし、新しく作った分は大事な使用予定があるのでここは譲れない。
めっちゃ物欲しそうに見て来てたから仕方無く、一個だけあげちゃったけど……。
≪≪≪
園で作ったスライム水まんじゅうをバッグに入れ、今、足を向けているは村長さん宅だ。このスライム水まんじゅうの販売許可を貰う為に。
しかし氷入りのバッグが重い。体力が……とは言っても可憐な悪魔、じゃなかった、鬼、でもなくて、女神様に荷物を持たせて自分だけ手ぶらになる訳にはいかないもんなぁ。
程なくして村に到着し、村長さん宅を訪れると今日も笑顔で迎え入れてくれた。異世界人に優しい人で良かった……。
「カズヤとルーミィちゃん、実はお前達を心配してたんだぞ?」
昨日も来た来客室的な場所に通され、村長さん直々に紅茶を運んで来てくれた。
早速一口頂いたのだが……ああ、胃に染み渡りますぅ……。
「お前ら異世界から来たんだろ? 金とか持ってないんじゃねえか?」
その辺りの心配してくれるのは流石です、村長さん。でも初対面でいきなりお金貸して下さいは印象が悪過ぎるでしょう?
だが、この話題は振ってきてくれた事は好都合だ。このまま流れに乗せて貰おう。
「何とか当面は大丈夫なんですが、その事で相談がありまして。まずはこれをご賞味下さい。私が作った料理なのですが」
バッグから紙を取り出してトングでスライム水まんじゅうを掴み、クレイドさんに差し出した。
ほんとは紙皿とかが良かったんだけど、流石にその類いの物は雑貨店に置いてなかった。
でも紙があったのが幸いである。今後もテイクアウト用アイテムとして重宝させてもらう予定だ。
「これは……スライムだよな? 中に何か入ってるようだが?」
「はい、これはスライム水まんじゅうと名付けた私の創作料理になります」
「とっても甘くて美味しいですよ。食べる時はあんこをこぼさないように食べて下さいね!」
美少女の一添えもあり、クレイドさんは言われた通り口に運んで咀嚼してくれている。
よし、ルーミィさん、良くやった。上から目線で失礼だけど、初めて役に立ったんじゃないかな? 昨日に比べてお腹の空き具合はマシなのかな?
「これは……旨いな。スライムをこんな風に使うとは」
驚きの表情を見せながら感想を述べてくれた。やはり旨いと言って貰えると嬉しい。苦労して料理した甲斐があるというものだ。
「ありがとうございます。当然こちらの世界で住む、また保育園を運営、維持するにはお金を稼がなくてはいけません。私は料理が得意なのでこういったものを作ってこの村で販売したいのですが……」
「ああ、いいぜ! これだけ旨けりゃ皆、寄ってたかるんじゃねえか? そうだな……イベント広場に露店のセットがあるからそれを使えばいいぜ」
もう、この人、物分りが良くて助かります! よっ村長っ!
「ありがとうございます。これで安定して生活する事が出来そうです」
「堅苦しい事は無しにしようぜ。今日からでも販売したいんだろ? すぐに手配しといてやるから頑張れよ。後、困った事があったら今日みたいにいつでも頼って来てくれ! 力になるからよ!」
これが村長になる人の器か、カリスマ性が滲み出ている。俺と比べ、一回りも二回りも上の人格者のようだ。
その上男前だし……上司さん、天は二物を与える時もあるんですね。
≪≪≪
クレイドさんの迅速な手配のおかげで、イベント広場での露店販売が出来るようになった。
イベント広場というのは村の中心にあり、大きな公園のようだった。メインストリートと直結している場所でもある為、人通りも多いようだ。
簡易的な販売スペースを組み立てて商品を並べ、ルーミィさんと二人で並んで早速販売を行う事にした。
雰囲気的には夜店の屋台みたいなものである。この備品は広場の隅にある倉庫にしまってあり、何組もある事が確認出来た。どうやらライバル店も存在するようだ。幸い、今日は俺達だけのようだけど。
準備も整い、胸を躍らせて行き交う人を眺めていたが、これがまたそう簡単に売れてくれない。
物珍しそうに遠目では見てくれるものの、こちらに寄って来て購入にはまでは至っていない。
まあ、実際見ているというのも商品ではなく、ルーミィさんだと思う。看板娘が目立ち過ぎて商売にならないとは、話にならないぞ……。
しかも美少女過ぎるせいか、敬遠して誰も声かけてくれないし。
「あら! 綺麗なお嬢ちゃんだこと! 貴方達ね? 丘の上に引っ越して来た人ってのは」
そんな中、不意に声をかけてきてくれたのは、ふっくらとした体型にエプロン姿のいかにもお袋さんって感じのおば様だった。そしておば様達の情報伝達速度は光並と聞く。既に俺達の事はご存知のようだ。
「き、綺麗だなんて。そ、そんな……」
おば様の声に反応して両手を頬に当てて照れている女神様が横に居た……貴女は誰がどう見ても綺麗な美少女ですからね。くねくねしないで下さい。ますます可愛いじゃないですか。
「こんにちわ、私はカズヤと申します。そこで照れているの方は仕事仲間のルーミィさんです」
「仕事仲間って……もっと他の言い方無いの?」
「あっはっは。あんたら仲がいいねえ。このお店は食べ物屋かい?」
ルーミィさんに対しての言い回しがどうも気に食わなかったようであり、なんか怒ってるようたが今はそれどころではない。
女神様なのは重々承知しておりますので、今ばかりは初めてのお客さんを何としてもゲットさせて下さい!
「ええ、私が作った料理なんですが、斬新過ぎるせいか皆さん足が遠いようで。おば様が初めて喋りかけてくれたんですよ。宜しければおひとつ如何でしょうか? あ、お代は結構ですので」
「おば様だなんて、そんな柄じゃないしおばちゃんでいいわよ。じゃあ、遠慮無く貰うわね!」
さっそくスライム水まんじゅうをトングで紙の乗せ、おばちゃんに手渡した、俗に言う試食である。これでいいのだ。おば様改め、おばちゃんに宣伝塔になってもらおう。口コミに関しては一番有効な手段で――
「まあ!? 美味しい! 初めて食べた味だわ! 甘味とスライムの水分が合うわね~!」
おばちゃんの大きな声に行き交う人がざわつき出してる。
いや、あのおばちゃん? サクラになって欲しいとは言っていませんが?
「食堂のおばちゃんが美味いって……」
「えっ? ほんと?」
「なにあれ? 中が透けてるわよ? 可愛いくない!?」
それをきっかけに一気に人が集まり、瞬く間に行列が出来てしまった。完全に売れ残ると思っていただけに嬉しい誤算である。
お値段1つ50Gのお手軽価格が功を奏したのだろうか、いや、完全におばちゃんの影響のおかげだな……。
「ええ~、売り切れちゃったの?」
「私もっと食べたかった~」
「今度はもっと多く作って来てくれ!」
品切れの為、並んでいる人にお詫びをしているのだが購入してくれた方からも大人気であった。
実際、味には自信があったし、きっかけはおばちゃんであるが、リピートの声が多いのは美味しかったからであろう。
――純粋に嬉しいぞ、これは。
「おばちゃんのおかげであっという間に完売しました。ありがとうございます」
「何言ってんの。カズヤさんの腕と発想が良かったのよ。本当に美味しかったんだから」
そう言ってもらえると嬉しい。そういえば村の人が食堂のおばちゃんって言ってたな……。
「おばちゃんって食堂を経営されていらっしゃるんですか?」
「ええ、そうよ。そうだ! 二人共、店においで! 引っ越し祝いにご馳走してあげるわ!」
「やったぁ! ご飯が食べれるよ! 嬉しい!」
ルーミィさんが目を輝かせて俺に訴えてきた。でもね、そういうのは心の中で叫んで下さい。声に出しちゃダメだから……。
まるでおっさんが食べさせてないみたいじゃないですか? 俺より遙かに食べてるでしょ? 変な目で見られるからほんとやめて……。




