第21話 エルミンの真実
ドーラクアの隠れ家を制圧した翌朝、俺たちトリオは廃屋の奥深くを丁寧に調べ始めた。
埃っぽい棚や隠し引き出しから出てきたのは、黒鱗団が集めていた古い資料の山。
アレナが羊皮紙を広げ、エルちゃんが俺の肩で一緒に覗き込む。
「これは……!」
アレナの声がわずかに震えた。
一番古い羊皮紙には、はっきりとした文字でこう書かれていた。
『クエルシーナ王家末裔エルミン。王国の血を継ぐ最後の姫の、遥か末の子孫なり。盟約の鍵と深く結ばれし者……』
エルちゃん――本名エルミン――が、数百年前に滅びた古王国クエルシーナの王族の末裔だという。
確たる証拠はなかったが、黒鱗団が執拗に追いかけていた理由が、これで繋がった。
「ピニャ……!?(え、王族!? 8歳のキノコ採り少女が王家の末裔って、マジかよ!)」
俺は思わず翼をバタバタさせた。
エルちゃんは目を丸くして、資料を何度も読み返していた。
「……へえー、すごいね。わたし、そんな家柄だったんだ……」
他人事みたいな口調だけど、彼女の瞳には少し寂しげな光が浮かんでいた。
アレナが優しく頭を撫でる。
「無理に思い出す必要はない。エルミンは今、エルミンだ」
◇
隠れ家の資料を町の衛兵に引き渡した後、俺たちは市場近くの古い茶屋へ。
そこで、町で一番物知りのおばばに話を聞いた。
「おお、あの資料か……クエルシーナ王家は、古代ドラゴンと『永遠の盟約』を結んだ一族じゃよ。王家の血を持つ者が盟約の鍵に触れる時、真の力が目覚める……お前さんのミニドラゴンと、エルミンちゃんは、運命で結ばれていたんじゃろうな」
おばばの言葉に、俺はハート型の尻尾をピクッと動かした。
「ピニャ!(俺とエルちゃんが……運命!? てことは、最初に拾われたのも偶然じゃなかったってことか……)」
エルちゃんが俺をぎゅっと抱きしめて、照れくさそうに笑った。
「カウル、最初からずっと一緒にいられてよかった……これからも、ずっとね!」
アレナが珍しく優しい目で俺たちを見守る。
「……私もだ。お前たちと旅を続けて、本当によかった」
サラリーマンだった俺が、王族の末裔の女の子と、元騎士の剣士と一緒に、古代の盟約を継ぐドラゴンになるなんて……人生(転生後)、予想不能すぎるだろ!
◇
一件落着――ということにして、俺たちは町の名物料理屋で盛大な食事会を開いた。
今日のメインは、例のワイバーンステーキ。
厚切りの飛竜肉を香草と岩塩で豪快に焼き上げ、溶岩のような熱々ソースをかけた一品だ。
「ピニャ!(うわっ、ジューシー! 肉汁が……!)」
一口かじると、力強い旨味が口いっぱいに広がる。
でも、ふと我に返った。
「ピニャ……(待てよ、この前も思ったが、ワイバーンってドラゴンの近縁種じゃねえか……俺、同族食いしてるんじゃ……? むむむ、難しい問題だな……)」
葛藤する俺を見て、エルちゃんがケラケラ笑う。
「カウル、美味しいものは美味しいよ! ワイバーンもきっと『食べて強くなってね』って思ってるよ!」
アレナがフォークを止めずにニヤリ。
「哲学は後だ。まずは味わえ、ピニャ」
結局、美味しさに負けて完食。
グルメドラゴンとして、罪の意識は明日考えることにした。
◇
夕暮れのドーラクアの空を、俺は少し大きくなった翼で軽く飛んだ。
エルちゃんを前足で優しく掴み、アレナが地上から見上げている。
「ピニャ!(みんな、これからも一緒に旅しようぜ! 黒鱗団の残党が残ってても、王族の秘密があっても、俺はもう本物のドラゴンだ!)」
エルちゃんが風に声を乗せて笑う。
「うん! カウルとアレナお姉さんと、ずっと冒険だよ!」
アレナが剣を軽く掲げ、微笑んだ。
「そうだな……守るべきものが、ようやく見つかった」
キラキラ光る俺の鱗が、沈む夕陽に映えて虹色に輝いた。
新宿のサラリーマンだった俺は、もういない。
今ここにいるのは、ミニドラゴン・カウル、通称ピニャ。
小さな女の子に拾われて、最高の仲間と一緒に世界を旅する、運命のドラゴンだ。
ピニャ魂、永遠に燃え続けるぜ!
――俺ミニドラゴンに転生す! ~小さな女の子に拾われて旅をします~ 完――




