第2話 カウルと名付けられた日
目を開けた瞬間、俺は自分の人生が盛大にバグってることに気づいた。
ふわふわした感覚、ちっちゃな体、キラキラ光る鱗。
目の前に、金髪のツインテールがピョンピョン揺れる女の子――エルちゃんが、キラキラした瞳で俺をガン見してる。
「生まれた! やったー! ピッ、ピニャって鳴いた!」
その声は、まるで花火が弾けるみたいに明るい。
彼女の笑顔に、俺のちっちゃな心臓がドキッとした。
いや、待て、ちっちゃな心臓って何だよ?
「えーと、そうだ、名前! 君はカウルね! ピニャのカウル!」
「ピニャ!」
反射的に鳴いてしまった。
……は? ピニャ? なんで俺、こんなアニメ声で鳴いてんだ?
自分の体を見下ろす。
手のひらサイズのミニドラゴン。
エメラルド色の鱗がキラキラ光り、ちっちゃな翼がぴこぴこ動いて、尻尾の先にはハート型の突起。
……マジか。俺、こんなファンシーな生き物に転生したのかよ。
ちょっと待て、冷静になろう。俺は元サラリーマン。
トラックにひかれて異世界に転生し、気づいたらミニドラゴンになって、
この8歳くらいの女の子に「ピニャ」って呼ばれてる。
展開が急すぎるだろ! せめてチュートリアルくらい欲しかった!
エルちゃんは俺を両手で持ち上げ、くるっと回った。
「カウル、かわいい! キラキラしてる! ねえ、友達になろうね!」
「ピニャ!」
また鳴いてしまった。
くそっ、この体、勝手にピニャ鳴きするな!
内心でツッコミつつ、エルちゃんの星空みたいな瞳に圧倒された。
悪い気はしない……いや、ダメだ! 俺は地味なサラリーマン魂だ!
こんなファンシーな生活、受け入れるわけには!
こうして、俺、カウル、いわゆる「ピニャ」は、エルちゃんと村での生活を始めた。
◇
村は、深い森に抱かれた小さな集落だ。
木造の家々が立ち並び、朝はパンの香りが漂い、夕方は子供たちの笑い声が響く。
中心の広場には井戸と木のベンチがあり、週末には市場が開かれる。
エルちゃんの家は村外れの小屋。
屋根に絡まるツタと、窓際のハーブ鉢がいい味出してる。
彼女の両親は「遠くで働いてる」らしいけど、8歳の女の子が一人暮らしって、ちょっと心配だよな。
エルちゃんは村のアイドルだ。
見た目は8歳くらいなのに、妙にしっかりしてる。
いつも花や果物、キノコを詰めた籠を持ち、村人から「エルちゃん、元気だね!」と差し入れを貰う。
パン屋のおばちゃんはロールパン、農夫のおじさんはリンゴやベリー、猟師のおっちゃんは干し肉をくれる。
そして彼女は森のめぐみ、キノコを採ってきて配る。
彼女の笑顔は、まるで魔法だ。
「カウル、みんな優しいね! ほら、リンゴ食べる?」
「ピニャ!」
俺はエルちゃんの手からリンゴをパクッと齧った。
……う、うまい!
ジューシーすぎるだろ、これ!
前世のコンビニリンゴなんて目じゃねえ!
でも、ちょっと待て、ドラゴンなのにリンゴ食ってていいのか?
もっと肉とか炎とか、ドラゴンらしいもんはないのかよ?
ある日、エルちゃんが広場でニコニコしながら提案してきた。
「ねえ、カウル! キラキラの鱗、すっごくきれいだから、みんなに見せてあげようよ!」
「ピニャ?」
見せるって、何を?
俺が首を傾げると、エルちゃんは俺を高く持ち上げ、広場で叫んだ。
「みんなー! カウルのキラキラショー、始まるよー!」
「ピニャ!?」
ちょっと待て、ショー!? いつの間に!?
でも、エルちゃんの勢いに押され、子供たちに囲まれた。
キラキラした目で拍手喝采。
仕方ない、サービスしてやるか。
「ピニャ!」
翼をバタバタさせて宙に浮き、クルッと宙返り。
キラキラ鱗が陽光を反射して、小さな虹みたいに輝いた。
子供たちは「わあ!」「すごい!」と大はしゃぎ。
大人も集まり、笑顔で銅貨を投げてくれる。
「エルちゃん、いい相棒だな!」
「そのドラゴン、めっちゃかわいいぞ!」
銅貨がチャリンと落ちる音に、俺のサラリーマン魂が疼いた。
お、金! これ、換金したらビール何杯分だ?
いや、ドラゴンだからビール飲めねえよ!
エルちゃんは銅貨を拾い集め、俺を抱きしめた。
「カウル、すっごい人気者じゃん!」
「ピニャ……」
内心は「……前世じゃ表計算とにらめっこだったのに、なんでパフォーマンスドラゴンやってんだよ」と複雑だった。
キラキラ鱗で宙返り、悪くないけどさ。
地味な俺が、こんなアイドルキャラになるとは、誰が予想した?
◇
村の生活は、意外と楽しかった。
朝はエルちゃんと森でキノコ採り、昼はキラキラショー、夜は小屋の暖炉前でご飯。
エルちゃんの手料理は絶品だ。
ハーブのスープ、焼きたてパン、ベリーのジャム。
前世のカップラーメン生活が嘘みたい。
でも、エルちゃんには謎めいた雰囲気がある。
8歳なのに落ち着いてるし、時々、遠くを見る目が寂しげだ。
両親の話は「遠くで忙しい」と笑うけど、なんか裏がありそう。
まあ、ドラゴンの俺が詮索してもな。
平和な日々は数週間続き、俺もピニャ鳴きに慣れてきた。
キラキラショーで新技を開発。
ハート型の尻尾でハートマークを描く「ピニャハート」は、子供たちに大ウケ。
俺、こんなキャラじゃなかったのに……とツッコミつつ、スター気分を味わってた。




