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優しい呪い

 母の葬儀があってから数日、龍二の胸にはぽっかりと穴が空いてしまったかのようだった。

 実感はわかないが、いつも通り振舞おうという気にもなれない。

 葬儀には陰陽庁の人間こそ多かったものの、親戚は少なかった。

 だが桃華や銀次もいて、茫然自失としてただ立ち尽くすだけの龍二の代わりに、桃華が泣いてくれたことは救いだった。


 それから数日の間、龍二は学校を休みベッドに潜ってなにも考えず惰性で生きていた。

 まるで生きた屍のようだ。

 さすがに桃華も遠慮して、朝起こしに来ることもない。

 その代わり心配するメールが頻繁に届く。

 不良仲間たちからはなんの連絡もなく、やはり友と呼べるような関係ではなかったと改めて認識し、少し寂しくも思う。


「――妖、か……」


 あるとき、桃華から来たメールにふと気になる件名があり、龍二はベッドに横になったまま読んでいた。

 それは、惨殺された人の死骸が朝方見つかるという事件がこの数週間で多発し、その犯人が妖の仕業であるという内容だった。

 陰陽塾で周知された内容では、残忍で狡猾な妖がこの町に潜み、夜な夜な人を襲って喰らっているのだという。

 陰陽塾は陰陽庁で働く人材を育てるための教育機関であり、桃華も高校の放課後に通っている。そこが言っているのなら、信憑性は高い。

 

(そういえば、あいつらも似たようなこと言ってたな……)


 先日、不良仲間の言っていたことを思い出す。

 一般人にも知れ渡っているとなると、事態は想像以上に深刻なのかもしれない。

 だが龍二にはどうすることもできず、陰陽庁の戦闘員である陰陽技官が滅してくれるのを待つだけだ。

 そういう、悪と戦う力が欲しいなどという正義感はとうに捨てていた。

 

「勝手にしてくれ……」


 過去、陰陽塾に通っていたときのことを思い出し、龍二は悲痛に顔を歪める。

 なにげなく桃華からのメールを下へスクロールしていくと、夜は危険だから外に出るな、なにか入用のものがあれば、自分が買いに行くと書かれていた。

 かいがいしいことだ。

 彼女は律儀にも、「龍二の面倒を見る」という母との約束を守ろうとしているのだろう。

 それはまるで――

 

「――呪いだ」


 龍二は忌々しげに呟く。

 まるで、無力な自分が責められているようにも感じた。

 プロの陰陽師を目指して努力している桃華は、なぜか龍二が陰陽師になることを望んでいる。

 龍二がいくら才能がなくとも、彼女だけは笑顔を絶やさず応援してくれた。

 しかし、それでも無理だったのだ。

 母はそんな情けない息子を責めたりせず、陰陽道を諦めることを受け入れてくれたために、それに甘えてしまった。

 しかし今となっては、母の本当の望みはいったいなんだったのか、心の底では龍二に自分のような立派な陰陽師になって欲しかったのではないのか、自分の選択は本当に正しかったのか、などと悶々と考え続けている。

 もしかすると、自分は母を一生裏切ったまま生き続けていくのかもしれないと、底知れぬ恐怖と罪悪感に押しつぶされそうだった。


「まるで呪いだよ……」


 最後に震える声で呟くと、携帯を机の上へ放り投げ、布団を頭からかぶって目を閉じる。

 

 しばらくして……


 ブ―――――ッ、ブ―――――ッ


「……?」


 机の上で鳴っている振動音で龍二は目を覚ます。

 布団をどけて窓の外を見ると、もうすっかり暗くなっており、自分が眠りに落ちていたのだと悟る。

 なんだか頭も痛い。

 龍二が顔をしかめながら机の上へ手を伸ばし、未だ鳴りやまない携帯を手に取って液晶画面を確認すると、桃華からの着信だった。

 途端に現実へ引きずり戻されたようで、肩を落としため息を吐く。

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