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帰る場所

「龍二さん!?」


「来るなぁっ!」


 慌てて駆け出す桃華だったが、龍二が必死に叫ぶと足を止める。

 次の瞬間、龍二の全身から溢れ出る黒のオーラが燃え盛る業火へと変わり、その身を包んだ。


「ぐっ、ぐあぁぁぁぁぁっ!」


 御しきれない力が身に跳ね返っているのだ。

 炎の勢いは増すばかりで、体の内外共に文字通り焼かれているような痛みが襲う。

 ただただ体が熱い。

 意識も焼き切れそうだ。

 

「龍二さん! ど、どうすれば……」


 目の前で幼馴染が焼かれているというのに、なにもできない桃華は悲痛の声を上げる。

 そのとき、ようやく陰陽技官たちが到着した。

 公園に足を踏み入れるなりすぐに、威風堂々とした低い声が響く。


日下(くさか)花部(はなべ)は技官二人の救護を。残る二人は俺に続け」


「「「はい」」」


 白い装束を着た女性の陰陽師二人は、それぞれ倒れている技官へ駆け寄り木術での治癒を開始する。

 

「なにがどうなっている!?」


 桃華の元へと歩み寄ったのは、四十歳ほどの男だ。

 装束の帯の色が薄紅(うすくれない)であるところを見るに、指揮者のようだ。

 彼も龍二の姿を見て困惑に眉をしかめている。


「は、半妖の彼が牛鬼を倒してくれたんです! でも、その反動で……早く助けないと!」


「そうだったのか。事情はよく分からないが、妖気を抑えるぞ!」


 指揮者の技官は頷き、背後の二人に指示した。

 自身も呪符を取り出し、漆黒の炎の中で苦しむ龍二へと呪符を放つ。

 三方から彼を囲い、手印を結んで封印の呪文を唱え始める。

 相手が純粋な妖であれば、その身ごと封じる術だが、半妖であれば妖の部分を抑制できるのだ。


「「「奈落より溢れ出る荒魂、鎮め退け、悠久の水底へ封じたまえ、急急如律令」」」


 龍二の周囲で浮いた呪符が輝きその身を照らす。


「うわあぁぁぁぁぁっ!」


 しかし炎の勢いは収まらず、効果があるのかすら定かでない。

 呪力を注いでいる技官たちも、顔を苦痛にしかめ額に冷汗を浮かべている。

 このままではジリ貧だ。

 桃華は自分にもできることはないかと、周囲を見回す。


「……あれはっ!?」


 目に入ったのは、龍二の横に投げ出されていた漆黒の鞘だった。

 桃華の頭に一つの案が浮かび、たまらず駆け出した。

 

「な、なにをしている!? 子供がどうにかできる状況じゃないんだぞ!?」


 指揮官が怒鳴るが、それでも桃華は足を止めない。

 そして龍二の元へ駆け寄ると、鞘を拾う。

 彼の周囲は想像を絶する熱気だった。チリチリと頬に伝わる熱は、鋭い痛みを訴える。

 それでも桃華は意を決し、呪符を握ると水術を発散させ、自身の体を水気で覆う。

 そして、ドス黒く燃え盛る炎の中へ身を委ねた。


「龍二さん! 今、助けてあげますからね!」


「んなっ!?」


「君、やめなさい!」


 桃華は炎の中へ腕を伸ばすと、自身も凄まじい熱気に焼かれながら、龍二が両手で握る柄を掴む。


「ぅっ!」


 皮膚が焼かれる鋭い痛みに顔を歪めるが、それも一瞬。

 力を振り絞り、地面から刀を抜く。


「負けないっ! 龍二さんは渡さないっ!」


 そして、その刃の切っ先に鞘を当て納刀した。

 

「なんだ!? 急に炎が……」


 直後、龍二の体を覆っていた黒炎は跡形もなく霧散し、妖気も消失した。

 桃華の見立て通り、この鞘が妖としての龍二の力を封じていたのだ。

 そして彼自身も、髪の色が黒から銀に戻って頬の黒い筋も消え、羽織っていた黒炎の羽織も消えていた。

 龍二はなにが起こったのか分からないというように、茫然と目の前にいる桃華を見つめる。


「……桃、華?」


 彼女はふわりと柔らかく微笑んだ。


「おかえりなさい、龍にぃ」


 その言葉がじんわりと龍二の心に温もりを与える。

 母を失ってもまだ、帰る場所はあった。

 それは今の龍二にとってかけがえのないものだ。

 龍二は照れくさそうに苦笑する。


「その呼び方はやめろよ……ただいま、桃華」


 そして満足そうに頬を緩めると、一筋の涙が頬を伝い、意識を手放したのだった。

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