動き出す者たち
龍二たちの激闘のすぐ後、嵐堂銀次はいつかの夜のように星を見上げていた。
「やはり、こうなったか」
銀次は悲しげに視線を落とし、ぽつりと呟いた。
その背中には悲壮感が漂っている。
それは、龍二が半妖として力を開放してしまったこと。
そして、星を読んで見えてしまった絶望の未来。
「もう、見て見ぬふりはできないな」
そう言うと、静かに目を閉じ拳を握る。
桃華という、たった一人の愛娘の未来を守るため、決意を固めるのだった。
――――――――――
「――とうとう、お目覚めになられたか」
とある山脈の狭間にある隠世。
彼以外なんぴとたりとも侵入を許されない、永遠の闇に包まれた異空間。
凄まじい突風が吹き荒れる中、動じず堂々とたたずみ、虚無の空を見上げる者がいた。
白銀の髪は風で暴れ、その隙間から覗く深紅の瞳は妖しく輝く。
「今、御許へ」
低く淡々とした声で呟くと、腰の刀を抜き目にも止まらぬ速さで抜刀一閃。
すると、闇の空間が裂け徐々に広がり、蒼黒の夜空の下に広がる山道が現れた。
「主様の最後の命、身命を賭して果たしてみせましょう」
男は無表情で呟くと、現世へと十数年ぶりに足を踏み入れた。
主との盟約に従い、目的を果たすため――
――――――――――
「封印されていた血が目覚めた」
「ほぅ? それは本当か?」
そこは、カタギではない者たちの組が構える事務所。
電気も点けず暗闇の中、会話する二体の妖の姿があった。
片方は、琥珀色の髪に色白で痩せ細った青年の姿で、上質なグレーのスーツを着崩し、鋭い眼差しを向けている。
もう片方は、口元まで隠れた黒装束を身に纏った女。肌の露出が少なく謎めいていて、整った鼻筋に切れ長の目は美しく、触れたら切れてしまいそうな鋭利な印象を受ける。
「妖を変異させる希少な血だ。それを求めて争いが起こるだろう」
「なら、誰よりも先に手に入れるだけだ」
「至極その通り」
「……いいのか? それって、あんたの主の――」
「――不要な気遣いだ」
女がぴしゃりと言い放つと、青年は愉快そうに頬を緩ませた。
「般若、首なし」
「はっ! こちらに」
青年の呼びかけに応え、暗闇の中に二つの影が浮かび上がる。
返事をしたのは、しわがれた老人の声だった。
「すぐに越前へ向かえ」
「承知」
――――――――――
「――長官、長官っ!!」
「なんや、騒がしい」
東京にある陰陽庁の高層ビル。
そこの最上階では、もう夜も遅いというのに、まだ仕事をしている男の姿があった。
黒い烏帽子をかぶり、白の狩衣を纏った平安貴族のような男。
あまりにも時代錯誤だが、シャープな輪郭に細い眉と長いまつ毛、そして狐のように細く鋭い眼差しもあってか、違和感がまるでない。
陰陽庁の長官で、安倍清明、土御門摩荼羅といった歴代最強の陰陽師たちに匹敵すると称される、土御門清麿だ。
彼の鋭い眼差しに射抜かれ、一瞬たじろいだ女性の天文官だったが、すぐに我を取り戻し机の前まで歩いていくと報告を始めた。
「取り乱してしまい、申し訳ございません。たった今、北の方角から強大な妖気の発露を察知しました」
「ほぅ? して、それはどのような?」
清麿は興味深そうに目を細める。
「それが、とても恐ろしく禍々しい星なのです。ただただ真っ黒に燃えていて……ですが、すぐにまた消えてしまいました」
「……なるほどねぇ、そうか……まさか僕の代で、とはね」
清麿は困ったように眉を寄せ呟くと、立ち上がり窓際まで歩いていく。
「さて、ご先祖様でも破られた力、僕に御しきれるやろか――」
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