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嫌な予感

「………………はい?」


 出るか迷った龍二だったが、途切れてもまたかけ直してくる彼女の根気強さに負け、とうとう通話ボタンを押した。

 不機嫌さを隠さない低い声を発したが、陰気さを払うような高く大きな声が返ってきた。


「龍二さん! 今どこにいますか!?」


「なんだよ急に……家だけど」


 龍二は顔をしかめ携帯を耳から離した。

 寝起きに彼女の声は耳が痛い。

 だが桃華は、どこか焦燥感を感じさせる雰囲気でまくしたてる。


「良かった、間に合った! それなら、今晩は絶対外へ出ないでください!」


 いつもはただ真っすぐで熱いだけの桃華だが、切羽詰まったような言葉に違和感を感じる。

 まるで、外ではなにかよくないことが起こっているかのようだ。

 龍二は背筋を虫が這うような、気味の悪い感覚を覚え、その真意を問わずにはいられない。


「元からそのつもりだけど、どうして?」


「妖が出たんです」


「……なんだって?」


「だから、妖ですよ! それも、人に(あだ)なす凶悪なタイプです。最近、猛威を振るっている例の妖ですよ!」


「っ!」


 なんことかは龍二にもすぐに分かった。

 ここ数週間、夜な夜な人を喰らっているという妖だ。

 しかしまだ、事態が上手く飲み込めない。

 今までは上手く隠れて見つかりもしなかったのに、それが突然姿を現すなんて。


「それは確かなのか?」


「はい。ちょうど今、帰る途中で陰陽技官の方に注意されて知ったんです」


「そういうことか」


 陰陽技官とは、陰陽庁に所属する国家直属の陰陽師だ。

 主に陰陽庁の職員は、陰陽技官と天文官の二種類に分かれ、陰陽技官は戦闘のプロとして前線で戦い、天文官は星読みによるサポートや事務仕事などをメインで行っている。

 おそらく彼らが本格的に調査を開始し、妖が姿を現すのを待ち伏せていたということなのだろう。

 それならば心配はいらない。

 どちらかというと、まだ外にいるであろう桃華自身のほうが危険だ。

 あくまで自分のことよりも龍二の身を案じる桃華に、照れくささを感じつつ呆れたように言った。


「お前なぁ、俺より自分の心配をしろよ」


「とっ、とにかく! 私もすぐに帰るので、龍二さんも絶対に外へ出ないでくださいね? 約束ですよ?」


「はいはい、分かった分かった」


「んもぅ……」


 桃華は呆れたようなため息を吐くと「それじゃまた」と別れを告げた。

 最後はいつもの彼女の雰囲気だったので、龍二も安心して通話を切ろうとする。

 しかしそのとき、携帯の向こうから小さな悲鳴が聞こえた。

 桃華のものではないが、そのすぐ近くからだ。

 龍二は慌てて再度桃華へ呼びかける。


「なんだ今のは!? 桃華!?」


 しかし、既に通信は途切れており返事はない。

 居ても立ってもいられず、電話をかけ直す。


「……ちぃっ、いったいなんなんだ……」


 何度かけ直しても桃華は出ない。

 龍二の背筋に冷たいなにかが這い上がるようだった。

 脳裏で桃華と母が重なり、無意識に拳を強く握る。


「約束したばっかり、だろ……」


 うわごとのように呟いた声は酷く乾いていた。

 『約束』とは、言葉によって人を縛る、一種の呪いだ。

 もし妖が出たのなら、プロの陰陽師たちに任せておけばいい。

 龍二は必死に言い訳を探し思考を巡らせた。


「くっ……」


 やがてベッドから降りて立ち尽くす。  

 ふと、写真立てが目に入った。

 そこには龍二と母と嵐堂夫婦、そして幼い龍二と手を繋いで嬉しそうに笑う桃華の姿。

 龍二の心に迷いが生まれる。

 もし彼女が妖に襲われたとして、無能な自分が行ったところでなにもできやしない。

 それにもしかしたら、桃華が既に滅しているかもしれない。

 彼女もまだ塾生とはいえ、陰陽術については才ありと講師たちからも評判が良かった。

 

「……くそったれが!」


 龍二は次々浮かぶ言い訳を振り払うように(かぶり)を振ると、Tシャツの上に黒い革のジャケットを羽織り、家を飛び出した。

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