歴代の話~十代目が来た時のこと②~
全3話中、第2話です。
案の定寝るときに一揉めありつつ、翌日仔猫を病院に連れて行った。目脂がひどく、目は少し病気に弱そうなのでよく拭いて清潔にしてあげてくださいね、とだけ注意されて目薬を渡され無事検査は終了した。パトラとの兼ね合いで注意する点についても色々アドバイスをもらって帰る。
「気が合わなくて喧嘩して大変なんですけど、仔猫を余所にやった方が良いでしょうか?」という根本的な問いに対しては
「パトラちゃんが気合い入って対抗しようと元気が出るみたいだから、一緒で構わないと思います」
と太鼓判を押された。それには私達も同意見だった。
老いてすっかり弱々しくトロトロと動いていたパトラが「あんな仔猫に負けてられない」とばかりにメラメラと対抗心を燃やしているのだ。瞳の力が昨日までとまるで違う。劇薬かも知れないが、効果はありそうだった。
◇
さて、そんな訳で我が家で本格的に飼う事が決定した仔猫に、名前をつけることになった。色々案は出たけれど、我が家の女王様に対抗できるライバルに成長して欲しいとの願いを込め、大英帝国のエリザベス女王にあやかってリズと名付けられた。数ある愛称のうちベスとかベティではなかったのは、そんな優雅な性格の猫じゃない、というある種の決め付けによるものだった。負けん気が強いと言うか、元気が良いと言うか、とにかく優雅とは程遠い印象だったのである。
我が家では遅くとも1週間の内には名前をつける。……ランの時と同じ轍は踏みたくない、というのがその理由だ。
◇
懸念のパトラとリズの仲はやはり険悪の一言に尽きた。ふいに顔を合わせればシャーッ、フーッと威嚇し合い、同じ部屋に居ればプイッと顔を反らしつつ耳だけは互いに向けて動向を監視する。取っ組みあいにこそならないけどたまに猫パンチくらいは出るという、とにかく何かと緊張感みなぎるやり取りをしていた。
――衰えて往年の迫力にこそ及ばないとは言え、女王様と真っ向からやり合うなんて
と私達はリズに感心しきりだった。
そうこうする内に、ある程度リズもパトラといる事に慣れたのか、今度はパトラに関心を持って追い掛け始めた。まだ仔猫なだけあって遊んで欲しくなったようだった。しかし事ある毎に啀み合っていた相手である。パトラの方が嫌がって逃げ出すようになった。こうしてパトラとリズの追い掛けっこが始まった。
そして約一年後、リズの追跡を振り切ろうとしたパトラが我が家のベランダから隣家の屋根に飛び移るという大ジャンプを披露した。高低差も利用しているとは言え、少なくとも1メートルは離れている距離を跳んだのだ。元気だった頃にも使った事のないルートだった。
相性最悪の仔猫と暮らすという劇薬によって、女王様は30㎝も登れない老化から劇的な回復を果たして見せたのである。
私は賭けに勝ったのだ。
正直なところ、リズが来なかったらパトラは一年も経たずに死んでいたのではないかと今でも思います。




