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 新空亀号(ニュースカイタートル)、空の旅へ

 ◇


 晴天のメタノシュタット王都の空へ、『隔絶結界(アパルトヴァリア)』で覆われた半球形の土塊に乗った賢者の館が、ゆっくりと浮かび上がった。


 空飛ぶ館、『(ニュー)空亀号(スカイタートル)』は上空30メルテまで上昇し続いて、ゆっくりと水平飛行へと移行する。


『ご覧ください! 今、大空へと舞い上がりました! 信じられません……! 巨大な館が一軒まるごと、地面ごと浮いて空を飛んでいます!』


『メタノシュタット王国の誇る賢者ググレカス……! 偉大なる魔法使いのお屋敷が、青い空へと吸い込まれてゆきます!』


 その光景は、報道業者(マスコミー)により、中継されていた。街角の『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』などでは、朝の番組レポーターの顔となったペシナールとノックスが、王城前広場からの生中継として、全世界に中継している。

 

 今回の行き先である「世界樹」については完全に報道規制が行われているようで、映像では北に飛んでいくかのように、映像撮影の向きを操作しているようだ。

 飛行魔法を使う術者を有している事を世界に示し、大国としての圧倒的な「力」を見せつけるのが狙いなのだろう。


「とはいえ、俺一人じゃ館は飛ばせられないんだけどな」

報道業者(マスコミー)が大騒ぎだねぇ」

 レントミアが呆れたように眼下を見下ろしている。ハーフエルフの魔法使いは、この館を飛ばす上で必要な、『隔絶結界(アパルトヴァリア)』を超駆動状態にする『円環魔法(サイクロア)』を詠唱してくれていた。


「まぁ、これは予告されていたがね。俺をエサに敵対勢力(・・・・)の動きを観察するには絶好の機会なんだとさ」

「見るだけならいいけど、ゾルダクスなんちゃらとか襲ってきたら嫌じゃない?」


 レントミアが魔法の杖『円環(サイクロア)錫杖(カカラ)』を地面に突き刺して、うんっ……と伸びをする。


「世界樹の駐屯地の軍はかなり増強されているそうだ。おまけに、昨日から南方遠征の訓練目的(・・・・)で魔法兵団が一個中隊向かっている。なんでも、魔法兵団長バリケリウス卿の直轄戦闘部隊らしいぞ」


「うわー? それ王都の西で、砂漠を越えてきた魔王軍の主力と、正面で殴り合った人たちだよ……」

「秘密結社が来ても飛んで火にいる夏の虫……か」


 ――世界樹の周辺は厳戒態勢というわけだ。


 俺が派手に動くということで、狙われる可能性を充分考慮しているのだろう。


「賢者ググレカス、隔絶結界(アパルトヴァリア)隔絶安定臨界(ポールクリア)状態維持を確認。空間異相フライホイール稼働安定、重心制御術式(オートバランサ)安定していますわ」


 メティウスが矢継ぎ早に状況を告げてくれる。


「ありがとうメティ。もう大丈夫だろう、少し休んでくれ」

「はいっ!」


 俺は、館の庭先に立ちながら、戦術情報表示(タクティクス)を操作してゆく。夏を予感させる風が賢者(オレ)のマントをはためかせた。


 ◇


 早朝にメタノシュタットを旅立ってから、およそ3時間。比較的ゆっくりとした速度で、王国南方の領域、ヒカリカミナを目指している。

 途中で休息をはさみながらも、既に180キロメルテ程を飛行している。


 高度は約30メルテを維持し、時速は60キロメルテ程度。レントミアとメティは館の中で休憩中だが、俺は艦長(・・)なので、庭先のベンチに座りながら、館を安全に飛行させることに集中している。

 魔法力は常に放出し続けているが、消耗率は20%程度だろうか。


「飛行は順調だが、なんだか暑くなってきたな」


 俺はシャツの胸元をあけてパフパフする。太陽は頭上で輝く強さを増し、南へと向かっている実感が湧く。


 鬱蒼と茂る南方の密林が広がり、時折、カラフルな南方の翼竜(ワイバーン)が飛んでいるのが見える。


「ルゥパパ! ニャッピがスライムしゃぶってる!」

「ダメでござろ! ほら、ドライフルーツでござるよ!」

 館の中では、スピアルノとルゥが、走り回るようになった四人の子供たち相手に悪戦苦闘しているが、今日は人手があるので大分楽だろう。

 プラムにヘムペローザ、それにラーナにチュウタ。

 宿題だお菓子だのと、窓越しに賑やかな声が聞こえてくる。休日を挟んで夏休みなので、ちょうどいい世界樹でのバカンス気分といったところだろう。

 

 俺は、この平和な感じを守らにゃならんからな。


 改めて気を引き締めて、三次元探査が可能な、改良型の索敵結界(サーティクル)に気合を込める。


「飲茶。お茶どうぞ」

「ぐぅ兄ぃさん、疲れてませんか?」

 庭先にマニュフェルノとリオラがやって来た。手には冷たいお茶と、焼き菓子の載ったお盆を持っている。


「あぁ、ありがとうマニュ、リオラ。ちょうど一服しようかとおもっていたんだ」


 夏の陽気に誘われて、早速夏服の二人に目を見張る。

 マニュフェルノは白い薄手の絹のような素材の、水色のノースリーブのワンピース。リオラはオレンジ色のTシャツの上に真っ白なリネンのシャツ。そしてスラリとした生脚も眩しいショートパンツという格好だ。

 マニュフェルノは光で透けた身体のラインが時折見えて、なんともまぁ夏らしい。


「着替。ググレくんも夏の服にしたら?」

「タンクトップとハーフパンツの上に、賢者のマントだと格好が悪いんだよなぁ」

「選択。もうすこし他にもあるでしょう……」

「服装とか、あんまりわからないから、マニュフェルノ選んでくれよ」

「全裸。その上にマント」

 丸メガネを光らせてニヘラっと笑うマニュ。


「俺を変態にして全世界に中継させるつもりか!?」

「あはは……! そういえば、ぐぅ兄ぃさんって真夏でも、その肩パット入りのローブ着てますよね。内側が暑くないような魔法になっているんでしたっけ?」


 俺とマニュのやりとりを聞いていたリオラが笑いながら、疑問を口にする。


「マントの内側は魔法で温度管理されているので、見た目ほど暑くないんだ。ほら……手を入れてご覧」


 俺はマントの隙間に、リオラの手を導いた。


「わ……。すごい、涼しい」

「な?」


「避暑。暑い時は、ググレくんのマントの内側に逃げ込みましょう」

「や、それだと密着しちゃう」


「おぃおぃ……」


 ちょっとそれは嬉しいな。


 見渡す限りの草原を貫く街道は、マリノセレーゼへと続く『南の街道』だ。ヒカリカミナ地区は、草原と名は付いていても湿原が多いことで知られている。


 ここから眺めるだけでも、小さな沼や湿原がいくつか見えて、青い空を鏡のように映している。沼を囲むようにこんもりとした森があり、近くには小さな集落と、そこで暮らす住人達の姿もちらほら見える。

 空飛ぶ館を見て大いに驚きながらも、俺達の姿を見つけ手を振ってくれている。


 やがて、前方に『世界樹』が見えてきた。

 10キロメルテの距離からも、こうしてその巨大さを窺い知る事ができる。


 王都メタノシュタットからおよそ200キロメルテ南方の地点、巨大な『世界樹』により、聖地とされつつある場所だ。


 ――新たなる聖地……か。


 世界を一つにするシンボル、人類の繁栄と未来の象徴。

 やがて開発が進めば、世界中の人々がこの地を訪れ、巡礼と称するようになるのも遠い未来の話ではないだろう。

 幹の太さは直径300メルテ。高さは幹の部分が600メルテに達する。傘のように被さった緑色の山のような枝葉は、全幅1キロメルテ近くもある。兎に角、バカでかいのだ。


「ググレ! 駐屯地が見えてきたね」

「世界樹の村、ヨラバータイジュだ」


<つづく>

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