表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かしかり  作者: 湯城木肌
9/38

少年-5.またあとで

 二時間のカラオケが終わる。半分以上は悪友がマイクを占有していた。

 帰ろうとすると、悪友が「まだ歌う」などとのたまったので、「黙れ阿呆」とだけ言い残して部屋を出る。

 それでも追いかけて来たが、財布の中を見せて金が無いことを見せ付けると「マジかよー」とだけ言って部屋に戻った。


「アイツ、あれだけ歌っといてまだ歌う気なのか」

「殆どマイク独り占めしてたよね」

 横で苅谷が苦笑する。

 悪友には彼女が付き添い、俺と苅谷だけで店を出た。苅谷も同じ駐輪場に停めているというので、一緒に歩いていく。

 駐輪場に着いて、奥に停めた自転車のところまで行く。自転車に鍵を差し込み、捻る。

 ガシャンと鍵が外れる音がして、思った。これはいい機会じゃないか。


「あのさ、苅谷さん」

 彼女は手前に自転車を置いていた。離れていたので、少し声を張る。

「は、はい! 何でしょう?」

 大きな声に驚いたのか、慌てた様子で声が返ってきた。

「この後、ちょっと時間ある?」

 自転車を押しながら彼女に問いかける。

「へふっ」

 彼女は変な声を出して、黙った。心なしか体が小刻みに震えているように見える。

 彼女の隣まで来て、もう一度訊ねた。少し聞こえにくかったかも知れないと思ったからだ。

「う、うん。あるけど」

 か細い声で彼女がようやく答えた。


 何故こんな気が小さくなっているのだろう、とそこまで考えて、一つの結論に至る。

「それもそうだね」

 一人で納得して呟くと、彼女が俺の顔を見上げた。身長差から自然とそうなる。

「歩きながら話そう。他の人に聞かれると困るし」

「う、うん」

 自転車を押して歩道まで出る。

「あ、帰り道違ったら話せないから駄目か。帰る方向どっち?」

 彼女が指差した方角は俺の帰路と全く別の方角だった。これでは帰りながら話すというわけにはいかない。

「帰る方向違うんだ。それじゃあ」そう口にしたが、特に話せる場所の候補があるわけではなかった。どうしようか。


「えと、人に聞かれると困る話なの?」

「そうだね。ああ、もう面倒くさい」

「え?」

「今日電話かけるから、そのとき話すよ」

 自己紹介の後にアドレスと電話番号を交換していた。電話帳に載っている名前は少なく、悪友のように会う人会う人次々に交換しない。それでも苅谷美奈の名前が入っているのは、悪友の彼女が俺の携帯電話を奪って登録したからだ。電話帳くらい女っ気があるようにしろとのことだ。余計なお世話以外の何ものでもない。


「それじゃあ」

「うん。バイバイ」

 互いに手を振って、そこで分かれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ