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かしかり  作者: 湯城木肌
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少女-18.同じ言葉

 財布の中身を覗き込み、五百円玉三枚の存在を確認してほっとした。よし、ちゃんとある。

「もういいよ」

「へ?」

 彼の発言に反応して顔を上げる。何のことだろう。

「もういいよ、残りのお金は返さなくて。苅谷さんが借りたことを踏み倒すような人じゃないって分かったし」

「いや、でも」

 それの意味することはつまり、秘密の関係の終わりだ。


「文化祭の時、利子って理由つけて無理矢理手伝ってもらっただろ?」

 そうだけど。

「貸すときに言ってないのに後からそんな条件つけるなんて卑怯だ」

 そんなことはない。卑怯だなんて思ってなかった。

「だからその駄賃ってことで二千円分。それぐらいの働きはしてくれたはずだし」

 逆だ。あの時間は逆にお金を取られてもいいくらいだ。


 否定しようにもうまく言葉が口から出てこない。あれ、どうやって声って発するんだっけ。

「これで貸し借りの関係は終わりだ」


 心の準備なんてしていなかった。いや、していたつもりだったけれど、それは来月必要な装備だと思っていた。今のわたしは無一文無装備でアイテムもない。セーブポイントの前にラスボスが現れたようなものだ。

「改めてこれからもよろしく」

 彼が手をわたしのほうに差し出した。握手しようとしているのだろう。分かっているからこそ手を握ることが出来ない。

 改めて、「友達として」これからもよろしく。この握手はそんな意味だ。


「苅谷さん?」

 声で心配しているのが分かる。

 その声で我に返る。別にそこまで深刻に考える必要もないはずだ。貸し借りの関係が終わっても友達として、ちょっとずつ距離を縮めていけばいい。焦ることはないんだ。卒業まではあと一年以上もある。もうすぐ修学旅行もあるからそこで近づくという方法もある。

「うん。よろしくね」

 手を出して、握り返す。

 そこでまた頭に考えがよぎった。


 ほんの少し前に彼のことが好きだと確信は持てた。けど、それは単なるスタートラインにしか過ぎないのだ。恋をしている者なら最初に通過する場所にわたしは迷い迷って戻ってきている。この三ヵ月間何をやっていたんだろう。

 ずっと握っておきたかった手を離す。


「あのね」

 また何かを貸し借りする関係になって関係を深めよう、そう咄嗟に考えた。何か借りられる物を、お金以外で借りられるものが何かなかったか。

 彼の興味のある映画がいいと思ったけど、駄目だ。それではただの店と客の関係だ。他の同級生とは違う関係かもしれないけれど、友達よりも恋人から遠ざかる。


「何、どうしたの?」

 ああもう。何かなかったっけ。

 そうだ。恋愛映画で女主人公達は何と言っていたっけ。皆好きな人とより関係を深めるために同じ言葉を使っていたはずだ。そう、確か。


「好きです」


「へ?」

「はやっ」


 自分で言っておいて動転する。この口は何を勝手に動いているんだ。

 小学生の頃わたしは彼を好きだったけれど、彼は別の子を好きだった。時を経た運命の再会ではなかった。


 だからどうしたというんだろう。もし彼が昔のわたしを好きだったとしても、昔と今のわたしは違う。昔のわたしが好きだったけど、今のわたしと再会して幻滅して嫌いになられたほうが困る。だからこれで良かったのだ。

 わたしは小学三年生の頃も高校二年生の今も彼のことが好きだ。その想いを今ぶちまけてしまった。


 混乱して自分が何を考えているのかわからなくなる。

 でも彼を好きだという気持ちがぶれることはない。

 言ってしまった以上後には戻れない。今度は自分の意思で、彼に想いを伝える。まっすぐ彼の目を見据えて。


「相沢くんのことが好きです。付き合ってください!」


 言った。言い切った。わたし苅谷美奈は告白をしたのだ。

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