少年-19.レンタル
「好きです」
「へ?」
「はやっ」
苅谷さんが唐突に発した言葉に面食らう。言った本人も戸惑っているようだった。
映画か何かを好きですという言葉を言い間違ったのだろう。胸が高鳴ったが、勘違いだと言い聞かせ感情を押さえ込む。
彼女が訂正するのを待った。何秒か経って彼女が口を開く。
「相沢くんのことが好きです。付き合ってください!」
自分の耳を疑った。だが、彼女の目つきを見る限り言い間違いをしていないようだ。好きです、そして、付き合ってください。どう思考をめぐらそうとしても恋の告白という結論しか導けない。
「あー、っと」
返答に困った。
告白されるのは人生で初めてだ。学生時代の告白はラブレターや友人を使って呼び出し、校舎裏や屋上、放課後の教室でするものだと勝手に想像していた。実際には校舎裏は人目につく所しかなく、屋上は立ち入り禁止だが。
苅谷さんのことは好きだ。大しているわけではないが普通の女友達より親密で、仲良いことも確かだ。最近彼女のことを意識しているような自分がいたなとも思い返す。
だが、それで付き合うかと言えば別の話だ。
「えっとさ」
体育祭のときに部長が言った話を思い出す。俺が書いた脚本の結末を有耶無耶にした話だ。
――もう少し時間があれば付き合うという形にしたんだろうがな。
今なら分かる。もっと長い時間の付き合いがあれば、即座にイエスとでも答えただろう。
待てよ。ということは、このままの関係の延長上には付き合うという形があるのか。
だが安易に答えられない。
お試しみたいな、友達以上恋人未満の関係がいいで返せる言葉はないのか。最低だ、と思うけれど純粋な気持ちだ。
よし。言葉は上手くないので、気持ちをそのまま伝える。
「ありがとう。でも俺はこのままがいいって言うか、でも友達のままじゃない。でも恋人じゃないっていうか」
わがままだ。そして俺は何を言っているのか自分で分からない。頭は大丈夫か。
「あ、え、えっと?」
泣き顔と笑顔の中間のような表情で俺を見つめる。困惑しているようだ。俺もそうなのだから、彼女はよりわけがわからないだろう。
「いや、えっと、うん? うん。俺が言いたいのはさ? 何だろう」働け、俺の脳味噌。「例えば、そう! 例えばレンタルみたいな感じだ。ちょっとお試し出来るみたいな。仮恋人みたいな?」
ものすごく最低なことを言っている気がする。何だよ仮って。
「えっと、えっと、それってつまり」一呼吸おいて彼女は言う。「半分オーケー、ってこと?」
「そ、そんな感じだね」
「へふっ」
これから何と言葉を返そうと悩む。最低と思われてビンタされて振られるだろうか。
俺が口を開く前に彼女が訊ねてきた。
「じゃ、じゃあさ、気に入ってくれたら、レンタル延長してくれるかな?」
嫌われてないんだなと安心して、自分の例えに乗ってくれたことに嬉しくなって、笑って彼女の質問に答える。
「延滞料金かかるのは嫌だからさ、買い取るよ普通に」
最低な返しだなと思うが彼女はそれで満足したようだ。
こんな時の返事のために恋愛映画を観ておけばよかったと、後悔した。




