第2話 解明の始まり
翌日の昼休み。
大学の中庭にあるベンチで、片山無一郎は弁当を広げながら、昨日の出来事を思い返していた。
――時が、止まった。
あの異様な静寂が、まだ耳の奥に残っている。
なぜ勝手に発動するのかも、どうすれば止められるのかも分からない。
だからこそ――何か法則があるはずだと、必死に探っている。
「……超能力を解明すると決めたはいいけど、まず何から始めればいいんだ?」
独り言のように呟くと、隣に座っていた牧原が口を開いた。
「そうだね。まずは情報収集だな。」
「情報収集?」
「うん。まずは仕組みを知らなきゃ、解明のしようがないだろ? 僕たちは“何も知らない”ところからのスタートだ。」
牧原は理論派だった。いつも落ち着いていて、どこか研究者めいた雰囲気を持っている。
「じゃあ、とりあえずネットで調べてみるか。」
「いや、ネットは便利だけど信頼性が低い。噂やスピリチュアル系の話ばっかりで、根拠のある情報は少ない。」
「確かに……。じゃあ、どうすれば?」
牧原は少し考えて、にやりと笑った。
「“AMO機関”があるじゃないか。」
「……AMO?」
「超能力を専門に研究してる唯一の機関さ。政府公認で、データの信頼性も高い。僕の家の近くに、大学より大きな図書館がある。そこに関連資料があるはずだ。」
「なるほど、さすが抜け目ないな。」
「それに、僕には超能力者の友達も何人かいる。直接話を聞ければ、より確実な情報が手に入るはず。」
「じゃあ俺は……何をすればいい?」
牧原は少し考え、指を立てた。
「片山くんは、“時が止まった時“の記録をしてほしい。どこで、いつ、どれくらい止まったのか――全部メモして。」
「記録か……。腕時計で時刻を確認すればいいけど、停止時間を測るには……」
「ストップウォッチを使えばいい。」
「でも、時が止まってる間ってストップウォッチも止まるんじゃないの?」
「大丈夫だと思うよ。」
「え? なんで?」
「この前、時が止まったとき、片山くんが俺に触れたら僕も動けたでしょ? つまり“片山くんと片山くんが触れているもの”は停止の影響を受けない。だからストップウォッチを手に持っていれば動くはずだ。」
「なるほどな……じゃあ、腕時計とストップウォッチは常に持ち歩くことにするよ。」
二人は昼休みの残り時間いっぱい、超能力の話で盛り上がった。やがて講義のチャイムが鳴る。
「っと、次の講義が始まるね。続きはまた今度。来週空いている日ある?」
「そうだな。……来週の木曜、5月16日なら空いてるけど?」
「その日で決まり。一週間、調査がんばって。」
「おう、任せろ。」
――こうして、二人の“超能力解明計画”が動き出した。
一週間後。
片山は毎日のように腕時計とストップウォッチを持ち歩き、時間が止まる瞬間を記録し続けていた。
AMOに目をつけられないよう、停止中は極力動かないようにもしていたが、それでも緊張と疲労は溜まっていく。
(……疲れた。毎日警戒しながら生きるって、こんなにしんどいのか。)
昼休み。講義を終えた片山のスマホに、牧原からLINEが届く。
内容を見て、片山は眉をひそめた。
「……“すまん、超能力に関する資料をどこかで無くした。一緒に探してくれないか”?」
片山はため息をつく。
(またかよ……。この前はスマホ、その前は教科書。今度は資料かよ。)
やれやれと呟きながら教室へ向かう。
「あーいたいた。で、いつ無くしたんだ?」
「二時間前まではあったんだけど、集合場所に行く前にバッグ見たら消えてて……。」
「なるほどな。じゃあ教室か移動中に落としたな。探してみよう。」
二人で手分けして探し回り、数十分後――。
「……これか?」
「それだ! 助かったー!」
牧原はホッとした顔で資料を抱きしめる。
片山は苦笑しながら言った。
「最近、大学で盗難多いらしいから、もうちょい気をつけろよ。」
「はい……気をつけます。」
しょんぼりした牧原を見て、片山は笑った。
「まぁいいさ。資料も見つかったし、本題に戻ろう。」
二人は人気のないベンチに腰を下ろし、牧原が取り出した手書きの資料を広げる。
「じゃあまずは、超能力の原理から。」
牧原が一枚目を見せた。
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■ 超能力の原理
・この世界では、数千人に一人の割合で「超能力」を持つ者が生まれる。
・超能力は生まれつき「一つの身体に一つ」だけ宿り、他の能力を持つことはできない。
・能力は主に3つの型に分類される。
・強力な能力ほど制御が難しく、暴走の危険がある。
・ごく稀に、“第二の超能力”を持つ者が確認されている。
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■ 超能力が制御できない理由
• 能力自体が強すぎる
• 肉体的な疲労や病気
• 精神的ストレス・恐怖・怒り
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「数千人に一人か……意外と多いな。」
「僕も最初は驚いたよ。」
「それで、“型”ってのは?」
「超能力には三つの型があるんだ。」
牧原は二枚目を広げた。
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■ 超能力の三型
1. 永続発動型
・能力が常に発動しており、使用者の意思では停止できない。
2. 条件発動型
・発動には特定の条件を満たす必要がある。
・条件は能力の性質と関係している。
例:空を飛ぶ能力なら、マントを装着する など。
3. 制限発動型
・条件は不要だが、使用には時間や回数などの制限がある。
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「ふむふむ……条件発動型ってのが面白いな。条件が能力とリンクしてるのか。」
「そうそう。たとえば、空を飛ぶなら“マントを着ける”、洗脳なら“五円玉を振る”とかね。」
「意外と単純なんだな。もっと複雑かと思ってた。」
牧原は身を乗り出した。
「この二つの資料をもとに、君の“時間停止能力”について二つの仮説を立てたんだ。」
「二つ?」
「一つは、“条件発動型”で、条件を自覚していないパターン。
もう一つは、“制限発動型”で、能力が強力すぎて制御できず、ランダムに発動しているパターン。」
「……どっちもありそうだな。」
「だろ? ちなみに、制限発動型の制限内容は“回数”か“時間”のどちらかだけらしい。」
「なるほど。……AMO機関のデータに“時を止める能力者”の記録ってあるのか?」
「あるよ。四人だけどね。」
牧原はさらに一枚の資料を差し出した。
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時を止める超能力:
自分と自分に触れている物体・生物以外の時を止めることができる超能力
Aさん:条件発動型 発動条件:ストップウォッチを押す 解除条件:再度押す
Dさん:条件発動型 発動条件:時計の針を止める 解除条件:針を動かす
Yさん:制限発動型 制限:1日3回/最大30分
Kさん:制限発動型 制限:1日2回/最大40分
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「同じ“時間停止”でも、発動条件も制限内容も全員違う。つまり――“同じ超能力でも型が異なる”ってことさ。」
「……ってことは、自分で確かめるしかないか。」
片山が頷くと、牧原は続けた。
「もう一つ共通点がある。条件発動型の能力者たちは、発動時に“時間に関するもの”を扱っていた。」
「時間に関するもの?」
「時計とか、ストップウォッチとかね。そして――“止める”動作をしていた。」
「なるほど。“時”と“止める”。その二つがキーワードか。」
「その線で探れば、きっと糸口が見えるはず。」
牧原が立ち上がる。
「悪い、ちょっとトイレ。」
「おう、急げよ。漏らすなよ。」
牧原が立ち去り、片山は手元の資料を眺めた。
「……俺のために、こんなにまとめてくれたのか。」
その文字を追っていると、ある一文に小さな違和感を覚えた。
だが、何がおかしいのかまでは分からない。
牧原が戻ってくる。
「どうした? そんな真剣な顔して。」
「いや……なんでもない。続きを話そう。」
その違和感を、このとき片山は深く考えなかった。
――しかし、それが“超能力の真相”へと繋がる最初のヒントになることを、まだ知らなかった。




