「進軍」
エピソード抜けていました(^^ゞ
さて伝令を先発させ、輜重隊という重みを取り払った紂王の軍は、かつて無い身軽さを誇りながら殷墟への道を辿る。
勿論、輜重隊から離れたからと言って、何も食べずに行軍するわけにはいかない。
なので各自が、二日分の粟と干し肉を袋に詰め、最小限の食糧として携行し、その状態でひたすら走ることになる。
臨戦態勢の軍なので、武器などは全て装備の上のことである。
だから通常の行軍と比べると、若干の重量の増加は仕方が無い。
しかしそれでも、輜重隊を引きずっていることを考えれば遙かに早く、余裕を持って殷墟への道を辿ることが出来るのだった。
普段から行われている戦闘訓練を初めとして、行軍訓練などでも十二分に鍛えられている。そう言えるのも、現在小走りで行軍しているのが、紂王配下の直属軍であるからに他ならない。
今回限りで徴兵された、近隣諸侯の手成る農民兵達は、現地解散と言うことに成っていた。
彼らは共に戦った者達が、勇ましく行軍する様を見送りつつ、時折手を振ったり声を張り上げたりしながら、嘗ての仲間達の幸運を祈っている。
激しい戦の中、互いに命を預けて戦い、守り合い、同じ釜の飯を食った仲間として、応援したくなるのは、当然のことと言えるかも知れない。
そんな喝采を受けつつ行き過ぎる斥候達。鋭い目つきで彼らのことを睨みながら、にやりと笑みを浮かべると、短剣で胸当てを叩き誇ってみせる。
軽装歩兵達は槍や戈を打ち振り、旗手達は華々しく旗を振って見せるのだった。
主力の戈兵や槍兵達は、兵種ごとに揃って獲物を振り上げてときの声を上げ、楯兵達は短剣で盾を打ち鳴らして声を張り上げる。
煌びやかに光る王直属の戦車は、がたがたと荒れ地を跳ねつつ、威風堂々通過しながら、硬い表情の頬に微かに笑みを浮かべるのだった。
次に通る将軍達の戦車はその重みで車体を軋ませ、車輪を深く大地に沈める。搭乗する将軍達がそれぞれ得意の得物を振り回しつつ、高らかに声を上げ、皆を鼓舞するのだった。
後に続く書記や占卜官、巫達は穏やかな笑みを浮かべ、工兵達は牛たちの尻をぴしりと叩く。
そして殿軍を飾る盾兵と戈兵の混成軍は、大きく得物を振り回しながら、胸の奥に響くどこか懐かしい歌を歌うのだった。そして更に後、厳しい目つきをし辺りを静かに睥睨する後詰めの斥候達。
だがそんな賑やかなときも直ぐに終わりを迎え、以降ひたすら走る走る走る。
乾いた風が吹き抜け、砂塵が舞い、時には目を開けていられないこともある。
殷墟まで約二日の行程、急ぎ足での行軍とも成れば、如何に鍛え上げられている者達とは言え、やはりなにがしか辛いものが在る。
本来であればそれをただ黙って耐えていくしか無いので在るが、実は紂王の軍の者達には密やかな楽しみがあるのだった。
それは王や将軍達の乗る、戦車の挙動にあるのだった。
言うまでも無く当時の戦車には、コイルや板と言った、スプリングに類いする物は一切無い。更にその車輪は木製で、衝撃を吸収するゴムタイヤのような物も無い。
この厳つい車輪が、丸で木箱のような頑丈な台に、そのまま直付けされた車軸に填まっている。だから車輪とは言うものの、ある意味無理矢理回しているような、実に原始的な構造なのだった。
だからこそそれなりに重い、そこに御者に射手に戈手と言った三人の重みが掛かる。
そんな戦車を二頭ないし三頭の馬で引いて、強引に速度を引き出すのだ。結果、ギーギーと凄まじい軋みを上げながら、とんでもなく揺れる。そして傾き、跳ね、飛び上がる!
荒海を行く船でも斯くやと言う程に、凄まじく動き、木の葉のように乱れるのだった。
それはもう上に誰が乗っていようとお構い無しに荒れる。王も将軍もその地位に忖度すること無く派手に揺れる。更には勢い良く跳ね、搭乗者達を木っ端の如く飛び上がらせるのだ。そしてそれは兵達にとって、堪らなく面白い出来事なのであった。
勿論、それをおおっぴらに笑うには障りが有る。だから皆、ぐっと下を向き、必死になって抑える、只管耐えるのだった。
況んや今は、大きな戦いの後の移動である。普段なら皆疲れ果て、突然の強行軍とも成れば足取りも重く、深い溜息も出る。
それは先行き何れ、戦の勝敗をも左右する、途轍もなく大きな要素と成るのだった。
だがそのことを敏感に肌で受け、どうするべきかを気配を察した武辛、矢庭に雷のような声を張り上げ、全軍に向かって言うのだった。
「かまわぬ笑え!可笑しくば笑え、俺が許す!」
その言葉を聞いた紂王、思わず苦笑を浮かべる。
本来なら注意を与えるべき処なのだが、兵の気配は彼自身も感じていたこと。
しかし、彼の立場上黙って看過するわけにも行かず、かといって寝たふりをするのも戦車で立乗中で在り、とてもじゃないが不可能事となっている。
仕方無しに紂王は、ぐいっと大きく胸を張ると、誰よりも早く、誰よりも大きな声で笑ってみせるのだった。
「わっはっはっはっは!」
勿論こうなれば兵達も、黙っていることなど出来ようはずが無い。
「笑え笑え笑え!」と叫ぶ武辛の言葉と共に、全軍に巨大な笑いの渦が広がっていくのだった。
ここに至るまで、極限まで我慢されていたことも在り、兵も将も、そして王までもが皆大いに笑う。
皆腹を抱えて大笑いし、此処までの戦いの憂さを晴らし、吹き飛ばし、また新たな戦場へ向かう力とするのだった。
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