「役者」
懸案事項を全て解決した訳では無いのだけれども、それでも大凡の見通しを付けることが出来た雨子様達は、やって来る時よりも遥かに心を軽くして帰途につくことが出来ていた。
さすがに和香様は多忙と有って、部屋を出ると直ぐに足早に去って行ったのだが、小若様は彼女とて忙しいはずであるにも係わらず、最後の鳥居の所まで雨子様達を見送っていくのだった。
「そう言えば雨子様」
小和香様はそう言うと、少し業務的な口調になる。
「今月の分の神札なのですが、令子さんにお願いする分についてはともかく、雨子様にお願い申し上げる高額分は未だ素材が入荷しておりません。なので入荷次第お持ちすることに致しますね?」
地方の小さな神社ならともかく、和香様の社ともなると、そのナンバー2の地位に居る小和香様とて暇というわけでは無いであろうと、雨子様は気を利かせようとする。
「いや小和香、そなたも忙しいであろう?近々我がまた取りに参るぞ?」
すると、それまで令子と楽しそうに会話していた小和香様の顔色が矢庭に曇る。
その変化を何故にと思っていた雨子様の手を、令子がそっと引っ張るのだった。
そして雨子様のことを少し離れたところに引っ張っていくと声を潜めて言う。
「小和香さんは、私達の所に来たいって思って居るんです。その名目にしているんですよ、神札のことは」
令子に言われてはっと気がつく雨子様、そして苦笑しつつ申し訳なさそうに言う雨子様。
「済まぬの令子、我は未だそう言った心の機微に疎いようじゃ」
そう言いつつ少ししょげている雨子様の手をぎゅうっと掴むと令子は言う。
「落ち込まないで下さいな雨子さん。それに私も小和香さんも、雨子さんが本当に優しい素敵な方だって、誰よりも知っているつもりですから…。もっとも祐二さんには負けるかもですが」
いきなり此所で祐二の名が出てくるとは思っていなかった雨子様、思わずあちらこちらへと何かを探す風にするのだが、まあそれはご愛敬。
二人して小和香様のところへ戻ると、雨子様が何かを思いついた様にしてしゃべり出す。
「おおそうじゃ、ここのところ祐二の修行も格段と進んできて居るからの、我らだけではなく部外者のものにも一度見て貰った方が良いかも知れぬの?」
ちょっと棒読みなところが有るのだが、それでも十分に意味が通じるのである程度のことは目を瞑るとして、令子はその雨子様の芝居に便乗して、更に話の先を伸ばしていこうとするのだった。
「へぇ、そうなんだ。それはやっぱり祐二さんも見て欲しいだろうなあ」
此処で一言。令子もまた雨子様に負けず劣らず大根役者なのだった。
そんな彼女らのとんでもない芝居を受け取りながら、一時気持ちが沈みそうになった小和香様が笑いを漏らす。
「お二方ともありがとう御座います」
「え?何のこと?」
もうすっかりばれてしまっているのにも係わらず、なんとか最初の設定で押し通そうとはしているのだが、結局これはもう無理と思った令子は、顔一杯に笑顔を浮かべて小和香様に飛びつく。
「うふふ、ありがとう御座います令子さん」
飛びついてきた令子のことを抱きしめ返しながら嬉しそうに言う小和香様。
そんな二人のことを見ていた雨子様は、心中知らずしてほくほくとしてくるのを感じてしまう。
「さて令子よ、そろそろ帰らねばな?余り遅いと節子に心配を掛けてしまうからの」
雨子様は尚も離れがたく居る令子に声を掛けると、小和香様に手を振った。
「小和香、来る時は先にレインを寄越すのじゃぞ?」
「畏まりまして御座います、雨子様」
そう言って嬉しそうにする小和香様に、雨子様はふと思いついたサプライズを仕掛ける。
「それからの小和香、その時は令子の指導もして貰おうと思うて居るから、お泊まりの支度もしてくるのじゃぞ?」
雨子様のその言葉に驚き目を見開く小和香様、同様にびっくり眼で雨子様のことを振り返る令子。
二人は顔を見合わせると手を取り合いつつ、「きゃー!」などと歓声を上げている。
そんな様子を見守りながら独り言ちする雨子様。
「これは帰ったら節子に頭を下げてお願いしておかぬとな。もっとも節子なら二つ返事じゃろうが…」
そんな雨子様の思いを余所に、更に令子は小和香様との別れを惜しんだ後、雨子様の元へとやって来るのだった。
「お前達は本当に仲がようなったものじゃの?」
雨子様はそう言いながら、最後に小和香のことを一瞥すると駅に向かって歩き始める。
令子もまた今一度手を振って雨子様と歩みを共にする。
そんな彼女らのことを、姿が見えなくなるまで見送った後、社の方へと踵を返す小和香様。
さて、帰路を辿る雨子様達が歩いているのは、宇気田神社から駅へ通じる結構広さのある道。
かつては車道で有ったのだが、例の隗の騒動やら、あらゆる核兵器の消滅騒ぎ以降、余りにも多くの人が参拝に訪れることから、とうとう歩行者専用道路へとその姿を変えていた。
既にあの騒動から結構な時間が経つのだけれども、未だに人の行き来はかなり多い。
そんな中、令子と離れ離れになる危険を冒すまいと、その手をしっかりと握りしめる雨子様。
「あ、雨子さん。そんなにきつく握らなくっても大丈夫ですったら」
そう言う令子に、雨子様は何を言っていると言った表情で応える。
「そうは言うがの令子、ついこの間襲われたばかりでは無いか?そなたがもちっと修行をばして、それこそ端神程度にでも成って居ればともかく、未だ半神にもなって居らぬ状況では、危のうて手を離す訳にはいかんのじゃ」
そうやって半人前扱いされてしまっているのだから、令子がただの子供であったならきっと面白く無いことだろう。
だが今の令子にとって、そうやって彼女のことを心から思ってくれる雨子様のことが、何とも嬉しく思えるのだった。
もしかして今って師走なのかしらん?そう思う様な一日。
お陰で書く時間がぁ~~~
と言うことで超短めです、すいません
力尽きました
※余りにも短すぎたので増量致しましたw




