雨子様の親
たっぷり怒られ尽くした後、僕達は部屋に戻って行った。
雨子様はてっきり自分の部屋に戻ると思っていたのに、僕の部屋へと入ってくる。
何事かと思っていると何やらぶつぶつと呟いているのだ。
「どうしたの雨子さん?そんなにぼやく様なこと何か有った?」
そう聞くと雨子様は、僕のことをじろりと睨む様にしながら言うのだった。
「そなたはあれほど節子に怒られて何も思うて居らぬのかや?」
どうやら雨子様は母さんに怒られたことが余程堪えているらしい。
そんな雨子様に苦笑しながら教えて上げることにする。
「あのね雨子さん、母さんのあれ、正確を期すなら怒ったんじゃ無くって叱ったんだよ。そして実はあの時、本当の意味では叱っていた訳じゃ無い様に思うんだよ」
「なんじゃと?何故そう思うのじゃ?」
「なんかね、雨子さんを叱っている時の母さんの目をちらっと見たのだけれど、物凄く優しい目をしていたんだよね。普通、誰かをただ叱っている時、あそこまで優しい目を出来るものかなってね」
雨子様は僕のその言葉に余程驚いたのか、元から大きな目を更に見開きながら言う。
「では一体何のために我は叱られたと言うのじゃ?」
そう言いつつぐいぐいと詰め寄ってくるものだから、僕はベッドの上にひっくり返されてしまった。そして上からむんと睨み付ける雨子様に僕の思っていることを説明して上げた。
「あのさ雨子さん、雨子さんと令子さんはもう家の子ってことになっているじゃ無い?」
「う、うむ。我はそうで有るし、まずもって令子もそう思うて居るの」
「だよね、けど令子さんと雨子さんの間には大きな差がある」
「なんじゃそれは?」
憮然とした顔で雨子様はそう聞いてくる。
「令子さんは元々人の子で、雨子さんは神様じゃない?」
「むぅ」
「だから令子さんの場合、子供から大人になる過程で、何度も実のお母さんに叱られてきた経験があると思うんだよね」
「それはまあそうであろうな?じゃがそれが一体どうしたと言うのじゃ?」
「うん、多分なんだけれども母さんは、きちんと雨子さんの親になって上げたかったのじゃ無いのかなあ?」
「すると何かの?節子は我に親に叱られるという経験をさせたかったと言うことなのかや?」
「多分ね…」
「しかし、しかしなのじゃ。何もあの様なことで叱らずとも良いのでは無いのか?」
そう言いながらちょっと膨れっ面になっている雨子様が、何とも言えず可愛いのはここだけの話。
「だって普段の雨子さん、分別が良すぎて叱るような機会が無いじゃない?」
「だとすると節子は、先程の事態を絶好の機会と思うた訳なのか?」
「僕はそう思ったのだけれどもね」」
「ふ~む」
そう言うと雨子様は暫し物思いに耽るのだった。
僕にはそんな雨子様の心の中にどんな思いが去来しているのかは分からない。けれども雨子様ならちゃんと受け取ることが出来るのでは無いか?そんな風に思って居た。
「なるほどの、しかし祐二よ、節子はどうして我にその様なことまでしたと思う?」
「それは雨子さんのことを本当に大切に思って、そして本当に親になって上げたくって、親に出来る色々なことをして上げたかった…と言うことなんじゃないのかなあ?」
そこで僕は少し口籠もった、自分が思ったことをそのままストレートに雨子様に伝えて良いものかどうか迷ったからだ。でも伝えることにした、そうすることが必要だと思ったからだ。
「だってね雨子さん、雨子さんは極希になんだけれども、物凄く孤独そうな、自分が何もかも全ての埒外にあるような、そんな目をするじゃ無い?」
「………」
「多分そんな壁をなんとか取り払って上げたい、そう思っているのじゃないのかな?」
僕の言葉を聞いた雨子様はきゅっと唇を結んだ。
僕から見た雨子様は必死になって何かに耐えているように見えた。そして食いしばられた歯の隙間から、低い声で僕に言う。
「節子は…節子はそこまで我のことを見て居ったのか…」
「ん…」
その後雨子様は一言言うと部屋から出て行った。
「節子の所に行ってくる…」
静かに扉を閉め、ゆっくりと階段を降りていく足音が聞こえる。
その後聞こえてきた音の感じからすると、どうもリビングの方に行ったようだった。
それから待つこと十余分、再び雨子様は部屋に戻ってきた、目を真っ赤に泣きはらして。
何があったかについては何となく想像が付くのだけれど、それを直ぐに問おうとは思わなかった。雨子様にだって心の中を整理するには時間が必要だと思ったのだ。
ベッドに腰掛けたままじっと雨子様のことを見守っていた僕は、やがて落ち着いたのを見計らって声を掛けた。
「で?」
僕は部屋に入ってきた雨子様にそう問うた。
「節子はリビングに居ったよ、いまにも泣き出しそうな顔をしながら…」
「多分これを機会と思ってがんばったは良いけれども、それが雨子さんの心に届くかどうか分からないし、不安だったのだろうな…」
「うむ…。しかしじゃ!」
そう言うと雨子様は目を怒らせた。
「我は、我は祐二に聞かねば気が付かなんだのじゃぞ?そうなれば節子が損をするだけでは無いか?」
「だよね?」
「それでは節子の丸損になってしまうでは無いか?」
「そのリスクはあったよね?」
「節子にそこまでする義理があるのかや?」
そう言い返す雨子様は何とも苦しそうな表情をする。
「だって雨子さんの親なんだもの…」
「はぁ~、親とは何ともとんでもないものなのじゃな…」
力が抜けてしまったのか床にぺたりと座り込む雨子様。
「勿論親にも色々あって、何もかも放任で、全ておっぽっちゃう親も居るし、そうで無い親も居る。親が子供にどうするかなんてそれこそ親の勝手だからね。ただまあ家の親は、なんて言うのかな、要所要所で詰めてくる感じ?」
僕の説明を聞いていた雨子様は、暫し顔を俯けていた。
やがて上げられた顔は何かの決意に満ちていた。
「のう祐二」
「なあに雨子さん?」
すると急に顔を真っ赤にした雨子様は、何故だか口籠もりながら言葉を紡いだ。
「いずれ、いずれ夫婦となった暁には、子も持ちたい。そしてその時には節子のような親になりたい、そう思うのじゃ」
「きっとそれを聞いたら母さん、物凄く喜ぶと思うよ?」
「であろうな?じゃが今日はもう遅い、明日起きたら伝えるのじゃ」
そう言うと雨子様は物凄くご機嫌になって、鼻歌を歌いながら自分の部屋に戻っていったのだった。
そして後に残された僕は顔真っ赤にさせたままで居る。ねえ雨子様、どうしてくれるのよこの火照りは?
直前に寝過ぎたと言うことも有るのだけれども、その後僕は一睡も出来ずに夜明けを迎えることになるのだった。
お待たせしました。
早い時間に今回分を書き上げたものの、全く気に入らなくて丸々消去
そしてもう一度書き上げたのですが、まさか二日分の分量書く事になるとは思いませんでした
地獄だ・・・




