「得物」
翌日目を覚ました雨子様、確か祐二の部屋に居たはずなのに、いつの間にか自室で眠って居たことで狐につままれた思いを感じていた。
時計を見ると未だ結構早い時刻だ。
まさか祐二と話をしながら寝落ちするなんてと、少しばかり気まずい思いをしてしまう雨子様。だが今更そんなことを考えてみても仕方が無いと思いきり、ベッドから出ると祐二の部屋へと向かう。
扉越しに中の様子をうかがうに、どうやら祐二は未だ眠って居るようだ。
扉に手を掛けると音をさせない様にゆっくりと開く。中では案の定祐二は静かに眠って居た。
その様を見ながら、さて一体どうした物かと思案する雨子様。何故なら昨日話すつもりで居たことを、一つ話し漏れていたからなのだった。
祐二の寝ている傍らで床にぺたりと座りその顔を見つめる。
小さな頃から見知っている祐二なのだが、いつの間にか随分成長してきて、今や少年から青年の顔へと変化しつつあると言った所か。
幼い祐二は本当に可愛く、雨子様の保護欲を大いに刺激するような、そんな所があった。
それが何時の頃からか大人びたことを言うようになり、雨子様の思いを受けるに相応しくもなっていく。
「人の子の育つは早いものじゃの…」
そんなことを独り言ちしながら、雨子様はじっと祐二の寝顔を見つめるのだった。
何気に目に掛かった髪の毛をそっと払うと、うっすらと目を開く祐二。
「ん?雨子さん、どうかしたの?」
眠さに勝てないのか、何とも物憂げな様子で問いかけてくる。
「昨日話し漏れていたことがあったのでな、それをと思うて居ったのじゃが、良い。もうちっと眠って居るが良い」
そう話している間に携帯を手元にたぐり寄せ、その時間を確認する祐二。
「でもそろそろ起きないと鍛錬出来ないな…」
そう言うと少しばかり残念そうに一旦枕に顔を埋め、ぐりぐりと押しつけた後思い切って身体を起こす祐二。
「たまにはのんびりすれば良いのに」
雨子様はそう言って祐二のことを甘やかそうとするのだが、当の本人がその提案を拒絶する。
「そうで無くともこの先、どれだけ修行すれば雨子さんに相応しくなれるのか分からないのに、そんなにさぼっている訳には行かないじゃ無い…」
祐二にしてみれば、少しでも早く雨子様の相方として見合った存在になりたいと思うが故の言葉なのだった。
雨子様にはその言葉が嬉しくもあり、何とも眩しくも思えるのだった。
「それで言い忘れたことって何なのですか?」
目を擦り擦り問う祐二。
そんな祐二の仕草を見ながら、こういうところは昔と変わらぬのだなと、少し嬉しい気持ちに成ってしまう雨子様。
「話しというのはの、その身の守護のことについてなのじゃ。拓也はさておくとして、節子にはしっかりとした守護を付けることが出来た。令子は本人自身に緊急時に対応する呪を与えることが出来た。残りはそなたなのじゃ。普段は我が共にあるから良いというものの、必ずしも常に一緒に居るという訳でも無かろう?そこでなのじゃ」
「何か妙案でもあるのですか?」
「妙案と言うほどでも無いのじゃが、修行の進んだそなた、そろそろ人の間では達人と言える領域に向かいつつあるのは知って居るかや?」
雨子様のその言葉に少し驚くように言う祐二。
「ええ?達人ですか?まあ確かに人よりかなり力の強さや機敏さが上がっているようには思いますが…」
祐二は昨夜雨子様のことを抱き上げた時のことを思い起こしながら言った。
いずれ金メダル云々などと冗談交じりの軽口として思ったのだが、いくら何でも現状でその領域まで達しているとは思って居なかったのだ。
だが今の雨子様の言葉によるとどうもそうでは無いらしい。
「今の祐二の力量なのじゃが、通常の人間大凡上位十パーセントくらいには入ってきて居る。この程度では未だ達人と呼ぶにはおこがましいが、それも今後の修行によって急速に伸びていくじゃろう。特に先達て気の力の解放を受けたからには、これからその効果が早急に現れていくものじゃと思われる。そこでなのじゃ」
そう言うと雨子様はこほんと咳払いをした。
「それなりの能力を身につけつつ有るそなたには、そろそろ自分の身は自分で守ると言うのが一番かと思うのじゃ。いや、勿論普段は我が側に居って護るのは今まで通りなのじゃぞ?」
何故だか後半言葉が早口になる雨子様。
「じゃがそれでもいざという時に備えてそなた自身、身を守れるようにしておく方が得策かと思うのじゃ。ただそれに当たって、素手という訳にも行かぬであろ?」
ここに来て漸く雨子様が何を考えているのか分かって来つつあった。
「でもそれなら以前雨子さんから頂いた日本刀があるのでは無いですか?修行を行う時にはいつも使わせて貰っていますが」
すると雨子様は頭を掻き掻き申し訳なさそうに言う。
「いや確かにそうなのじゃが、あれは修行の次段階に進むに当たって便宜上与えた物で、常ならざる物を討つのに適しているとは言えんのじゃ」
「そうなんだ。でも僕が修行して腕を上げていけば、それでなんとかなったりはしないのですか?」
祐二のその言葉に雨子様が苦笑しながら言う。
「確かにそれは可能じゃ、しかしその領域に達するにはまだまだ当分掛かるであろうの?が、それまでの守りはどうするつもりなのじゃ?」
「そうかあ」
そう言う祐二はなんだか悔しそうだった。
「僕の腕さえ有ればなんとかなるのだけれども、今のところは何とも成らないと言うことなのか…」
「うむ、そう言うことなのじゃ、おまけにあれは切れ味こそ良いものじゃが、呪が掛けられて居らぬが故に収納が出来ぬ」
「収納?」
「うむ、必要の無い時にしまい込むことが出来ないという意味じゃ。まさか日常的に日本刀なぞ持ち歩いたりは出来ぬであろ?」
祐二は大きく頷いてその意見に同意した。
「うはあ、それこそ逮捕されちゃいますね?自分を護る以前におまわりさんに捕まっちゃう」
祐二は登校時に腰に刀を下げている所を想像して思わず頭を振った。全く以て無理な話なのだった。
「ところで呪が掛けられていればと言う話しなのですが、あの刀に後付け出来ないのですか?CPUは未だ予備があるのだし…」
「成るほどの、確かに今有る刀に呪を付けるのが一番安上がりかも知れぬの。また、そうすれば破魔の力も収納の力も与えることが出来るの。じゃがそれを行うには鍛冶を行う場が必要なのじゃ。しかしあいにくと我はその様な作業が出来る場を知らん」
それを聞いた祐二はある考えを提案した。
「ならいっそ爺様に伺ってみたらどうですか?」
その提案を聞いた雨子様は一瞬きょとんとした後、ふむと頷く。
「確かにの、爺様に聞くのが尤も容易いかも知れぬの」
「ただし、断られる可能性もなきにしもあらずですが…」
「まあそれはそうなのじゃが、当たって砕けろじゃ、万が一駄目な場合は和香の伝手を頼ってみるのも有りかも知れぬ」
「和香様の伝手って、鍛冶をなさる神様が居られるので?」
「うむ、そうじゃ。しかしともあれ、朝食の後で良いので爺様のところへ行って見はせぬか?」
祐二としてはそれ以上のアイデアも無かったので黙って首肯して見せ、雨子様の意見を採用することにする。本当にその時は爺様のところを尋ねる、ただそんな軽い気持ちなのだった。
大変遅くなりました。
過去の部分から少しデータを引っ張ってくる必要があり、その部位を探していたら
もの凄く手間取ってしまいました。(^^ゞ
お話しが長くなっていくとこう言うことも頻発しそうだなあ




