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天露の神  作者: ライトさん
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「無尽と節子」


 さて無事節子の守護の地位に就いた無尽、今やすっかりと節子に飼い慣らされてしまった感がある。


 人の機微を図るのに優れている節子の才は、勿論相手が龍であったとて遺憾なく発揮され、暫く共に暮らすうちに無尽の望むことを色々聞き出していた。


 その中の一つが無尽の望む形についてだった。


 折角青龍の姿にまでなったのだから、大きさはともかくその姿形くらいは顕現したい。そう思う無尽のために、家の外はともかくとして、中で過ごす時は常に青龍の形であることを許してくれるのだった。


 無尽にとってはそれが無上に嬉しいことなのだ。かつて憧れても手に入れることが出来なかった、完全に成長しきった龍の角。それを頭に頂いてその存在を知らし召すこと。


 体の大きさなどどうでも良いのだ。その角のあることこそが無尽にとって最も大切なことなのだった。


 それを誇る機会をくれた節子に、既に無尽はぞっこんなのである。祐二が少しばかり心配した裏切りなど、無尽にとって既に絶対に有り得ないこととなっていた。


 そして今一つ節子が与えてくれたものが有る。


 蚪龍と言う、龍と言うには烏滸がましい形で、長くあの裏寂しい仁王堂で暮らしていた無尽は、人にも魔にも神にも係わるものは無く、ずっと長らく寂しい思いをしていたのである。


 が、今はそんな蚪龍のことを慈しみ、で、守護することに対して心よりの感謝を寄せてくれる節子。その存在が長年に渡って虚ろが多くを支配していた無尽の心を、優しく温かくしっとりと埋めてくれているのだった。


 これだけのことをされて無尽が節子に心酔しない訳が無かった。


 家の中ではどこに行くにもその肩に止まり、出かける時は銀の腕輪となってその側を離れることが無かった。雨子様と無尽の間で結ばれた誓いは、熱意を以て遺漏無く果たされるのだった。


 それだけでは無い、既に海にて満腹となるまで様々な物を食し、精に満ち満ちている無尽は、既に食する必要など全く無いのだが、そんな無尽に節子はちょこちょこと、美味しい物をひょいとつまんでは食べさせてくれるのだ。


 そんな時に無尽がまるで犬のように尻尾を打ち振って喜んだとしても、誰が責めることが出来るというのだろう。


 今も夕食の支度をしながら、時折味見と称して食べ物の切れ端を無尽に与えて居る。

尻尾をふりふり、喉をごろごろ鳴らしながら喜ぶ無尽。


ダイニングからそんな無尽の様子を眺めながら思わず零す雨子様。


「やれやれ、あの様子じゃとあやつ、我の言う事よりも節子の言うことの方をよく聞きそうじゃな…」


 もっとも雨子様としてはそのことを悪く思っている訳で無く、逆に嬉しく思えることであった。

そうやって絆を深めれば深めるほどに、無尽が自らの頭をしっかり使って節子のことを守り切る、そう思えるからだった。


「うちの家でペットを飼っていなくて良かったよ」


 とは祐二。雨子様の傍らでテーブルの上で頬杖を突きながらの弁だった。

雨子様はそんな祐二の言葉に、こてんと首を傾げながら聞く。


「ふむ、それはまたどうしてなのじゃ?」


 その問いに祐二は、友人宅で飼われている犬の振る舞いを思い出しながら言った。


「友達んちにチワワを飼っているところがあるんだけど、その犬がお母さんべったりでさ、友達やその家のお父さんがお母さんにかまうと、それはもう凄い剣幕で怒るんだよ」


 それを聞いた雨子様は不思議そうな顔をして聞く。


「しかしその犬は、その家で飼われて居るのじゃよな?」


「うん、そうなんだけれど、いつもお母さんがご飯をあげていたところ、いつの間にか自分のことをその家でお母さんに次ぐ地位に居ると思い込んじゃったみたいなんだ」


「なんと?しかしそれだけではその様に怒ったりせぬじゃろう?」


「うん、だから多分お母さんを自分のものだって思い込んでいるのじゃ無いのかなあ?」


 それを聞いた雨子様は呆れながら言う。


「なんとまあ了見の狭い性格をして居るものじゃなあ?」


 なんだか間延びをしたような雨子様の言いようが可笑しくて笑ってしまう祐二。


「まあ、そう言われたらそうなんだけれども、そう言う犬でも居ようものなら絶対に無尽と大げんかしていると思うよ」


「むぅ、確かにそうじゃなあ。それにしても見よ無尽のあの甘えよう…」


 それを聞いた祐二は吹き出しながら言う。


「此所にも無尽と同じように甘える人が居るのだけれどもなあ…」


 一瞬きょとんとする雨子様。だが直ぐに何を揶揄しているのか思い当たって拳を振り上げ、祐二のことを打とうと思うのだが、見るともうその姿が無い。既に逐電した後なのだった。


「な、何と言う逃げ足の速さじゃ?」


 思わず目を丸くしてしまう雨子様。


 そしてその場で一体どうしてくれようなどと思っていると、そんな雨子様のことをにこにこしながら見つめている目が一対。いつの間に居たのか、いつしかそこには令子がいて、今し方の会話を全て聞かれてしまっているのだった。


「れ、令子?」


 思わずそうとしか言葉が出てこない雨子様。するとそんな雨子様の両の手を取ってしっかりと握りながら言う令子。


「雨子さん、仲間だもんねえ」


 こうなるともう反論のしようがなくなって、赤らんだ顔を俯けながらうんうんと頷くしか無い雨子様なのだった。




 まぁ~~~た吉村家に家族が増えました。養うの大変だよね?

頑張って拓人お父さん!

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