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天露の神  作者: ライトさん
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「腕輪の贈呈」


「で、何々?私はこれを付ければ良い訳なの?」とは節子。


 天露神社あまつゆじんじゃから無尽の変じた腕輪を持ち帰った雨子様は、早速それを節子に見せ、普段から身につけておくことを進言するのだった。


 ただ雨子様の説明が余りに足りていない。突然銀の腕輪思ってきたかと思ったら、お守りだから付けろ?確かに機能としては説明しているのだが、節子としては何がなにやらなのだった。


 それを端で聞いていた祐二の方が何ともやきもきしてしまい、雨子様に補足の説明を行うことを勧める。


「雨子さん、いくら何でもそれは省きすぎ。折角雨子さんが頑張って作ってくれた物なんだから、どう言う物かもう少し丁寧に説明して上げてよ。それにそれだけじゃいくら何でも無尽が不憫だよ」


 言われて見れば成るほどと思ってしまった雨子様、それに守りをさせるにしても、無尽と節子の間に絆を作っておくことは大切なことでもあるのだった。


 雨子様は腕輪に向かって声を掛けた。


「無尽よ、以前の本地くらいの大きさで姿を龍に戻せるかや?」


 そう聞く雨子様に無尽は速やかに返答する。


「もちろんでございます雨子様。しかしそれがしが威をご覧頂くのにその様に小さき姿で宜しいのでしょうか?」


 それを聞いた祐二は、あの巨龍がリビングで姿を現して家がぽんと爆ぜる所を想像し、慌てて手を横に振った。


「だめだめだめ、小さいので宜しく」


 祐二は直接の主人では無いものの、雨子様の大切な思い人であることを察しつつある無尽は、本地に成れぬことを少し不満に思いつつ、素直にその姿を小さい形で現すのだった。


 そして節子の目の前に表れたのは、青銅色したかの巨龍の、美事なまでの縮小サイズの姿だった。


「あら可愛い!」


 節子の第一声はそれ。


「わ!ほんとだ、可愛い!」


 とは、傍らでそれまで静聴していた令子。


 折角雨子様から疑似宝珠を十個も受け、その力を万全にすべく大海に渡って、必死に成って色々な物を食らうて巨龍へと変じたにも係わらず、今はひょろりとした山楝蛇やまかがしにも劣る姿で可愛いと称される。


 何とも無念な思いで一杯に成る無尽なのであるが、雨子様から受けた、それこそ無尽の恩を仇で返す訳にも行かず、密かにしょげながらふわりと宙に浮いていると、令子の小さな手がひょっこりと伸びてきた。


「触っても良い?」


 遠慮がちにそう聞いてくる令子の言葉に、こくりと頭を下げて肯定する無尽。

そんな無尽の頭にそっと手を置き、愛おしむように優しく撫で付ける令子。


「なんだかするりとして暖かいし、触れているととっても気持ちいいね」


 そう言いながら尚も何度も撫でる令子。


 無尽にしてみたら、何でこの様な童に撫でられねばならぬのだと思って居たのも束の間、その手の撫でることの心地よさが次第に頭に馴染み、何時しかとろりとしながら妙に暖かな何かに満たされる思いに成っていた。


 それだけで無く、その喉からはまるで猫のようなごろごろという音ならぬ振動が、辺りに広く拡散していく。


 それを見た節子と祐二は思わず顔を見合わせる。そしてぼそりと言う祐二。


「もしかしてでれた?」


「だね?」とは節子。


 それを耳にした雨子様が二人に問うた。


「何じゃそのでれるというのは?」


 すると祐二はでれ真っ最中の無尽を指して言う、


「何と言うか、ま、ああなること?」


 確かに言葉としてでれるを説明するのは難しいのであるが、目の前にその見本足る物が有れば、指すのが一番早い。


 何となく感覚的概念としては分かるものの、言葉としての意味づけがしっかりしないまま、それでも納得する雨子様。まあ尤もそんな雨子様も、偶にでれている訳なのだが…。


 今や無尽は令子の腕に優しく巻き付いて、なすがままに撫でられまくっている。


「ありゃ、骨抜きだなあ」


 そう言って笑う祐二。だが当の無尽には恐らくその言葉は届いて居ないと思われる。


「あれはもう暫く放っておくとするかの?」


 そう言うと、苦笑いをする雨子様。その後節子に向かって彼の無尽を手に入れた時のことから話し始めるのだった。


 祐二に連れられて小さな棚田を見に行った時の帰路、仁王堂の元で儚くなりかけていた無尽を見つけ、助ける為に連れ帰ったこと。暫くは腕輪の形で雨子様が少しずつ精を与えていたこと。


 節子が襲われて以降、何とかその身に守護を付けたいと思っていたこと。その為に無尽を守護とすることを思いついたこと。当時非力だった無尽にパワーアップを行ったこと。それによって小さかった無尽が、今や巨大な龍へと変化したこと等を、丁寧に説明して見せたのだった。


 そうやって説明し終えた雨子様のことをぎゅっと抱きしめた節子は嬉しそうに言う。


「ありがとうね雨子ちゃん、そんな風にしてまで私のことを思いやってくれて、本当にありがとう!」


 相も変わらぬ節子の少しオーバー気味な愛情表現に、多分に困り顔をしながらも嬉しそうな表情をする雨子様。


「ところで無尽ちゃんだっけ?」


 節子は早速無尽にちゃん付けを行う。まあ今、令子の腕に巻き付いてとろんとしながら撫で続けられている無尽を見れば、ちゃん付けもやむなしと思えるのだが…。


「巨龍に成ったって言っていたけれども、どれくらいの大きさなの?」


 旺盛な好奇心の節子のこと、そう思うのも当然のことだろう。


 それを聞いた雨子様は、令子の腕からひょいと無尽を摘まむと節子の前に連れてきた。


「無尽よ、これ成る節子が今からそなたが守護すべき対象じゃ。我ら三人の母御故、心して守護して参れ」


 束の間ぼうっとしていた無尽だったのだが、雨子様の手に掴まれると直ぐに我を取り戻し、その命を確と受け止めるのだった。


「この無尽、身命を賭して節子様を守護して仕ります」


 今は小さき身体なれど朗々とそう宣し、守護役を引き受けた無尽なのだった。


「無尽、節子がそなたの本地を見たいそうじゃ、今屋外に連れ行く故、束の間で良いその姿を現してみよ」


 そう言うと雨子様はリビングから庭に通じるサッシを開け、ぽいっと無尽を外に放り投げる。


 すると無尽は宙にあって輪を作り、ぐるりぐるりと反転を繰り返しながら大きくなって行き、やがてに三十数メートルに成ろうかというその巨体を堂々と浮かべた。


「まあ立派!」


 その想像を超える大きさに、もしや怯えるかと思われた節子なのだが、雨子様のその思いは美事に裏切られていた。


「なんて堂々として素敵なんでしょう?おまけに溜息が出るくらいに綺麗だわ!」


 世に言う褒め殺しとはこのことかと思われるくらいに、節子の口から溢れる美辞麗句。

最初の内はえへんとばかり聞いていた無尽なのだが、そのうち段々恥ずかしくなってきてぐにゅぐにゅうねうねとうねり出す始末。多分人ならば顔を真っ赤にしていた所だろう。


 その様を見ていた雨子様が少し気の毒に成ってきて節子に言う。


「節子よ、それ位にしてやってはくれぬか?」


「あらそう?」


 節子にしてみたら本当に感動していた物だから、いくらでも言葉が湧いていたのだった。


「周りから見られても適わぬ、そろそろ小さき姿に戻るが良い」


 節子の言葉が止まり、ほっとしていた無尽は、雨子様の勧めに従ってかつての本地と同じ大きさにしゅっと縮まった。


「何じゃ、小さくなるのは早いのじゃな?」


 大きくなる時と小さくなる時の速さの違いに呆れた雨子様がそう言うと、その訳を説明しながら反り返る無尽。


「大きくなる時は気をつけねば周りを害しまする。故にゆっくりと大きくなったので御座います」


「言われてみれば成る程じゃな。その気遣いが出来ること褒めて遣わす」


 雨子様にそう言われてますます反っくり返る無尽なのだったが、あくまでそこまでだった。


 今度は節子の手がひょいっと伸びると無尽を捉え、改めてその頭を愛で始めるのだった。


「あ、節子様、その…」


 またも撫でられまくってでれ始める無尽。


「本当にあれで大丈夫なのかなあ?」とは祐二。


 その言葉に苦笑しながら応える雨子様。


「まあ言うても奴もあれで神の眷属よ。いざというときは間違い無く頼りになるであろう。あやつの蓄えた力の量からすると、恐らく神々の間でも一、二を争うほどの物がある」


 その言葉に驚いた祐二が言う。


「ええ?そんなに?でも大丈夫なの?」


 この大丈夫なのと言う言葉には、本当に色々な意味がある。そんなに大きな力を解放して大丈夫なのとか、彼の存在はその力を正しく使えるのかとか、だが尤も大きな意味を占めるのは、暗にこの存在が裏切るようなことは無いのか?そう言う思いを込めて祐二は言ったのだが…。


 そこのところ雨子様にはちゃんと意が通じていた。


「うむ、大丈夫じゃ、あやつの持つ疑似宝珠を構成して居る呪は、我が呪ぞ。我にとって如何様にでも出来る物じゃ」


「成る程…」


 そう言って安心する祐二。


 その傍らでは節子と令子の二人同時の撫で撫で攻撃に遭い、もはや仰向けになって腹を見せている無尽が居た。


「やっぱり心配…」


 最後にそう零す祐二なのだった。





 今日は定時上げです

いつもこうで来たら良いのですが、なかなか・・・

お楽しみ頂けたら幸いです

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