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天露の神  作者: ライトさん
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「思い」


 無事買い物を終えただけで無く、和香様との打ち合わせも終えることが出来た雨子様は、気分も軽く家路を辿っていた。


 だが気分は軽くなったとは言うものの、考えなくては成らないことは、和香様達と逢う前よりずっと増えている。


 車窓を過ぎゆく景色をぼうっと目で追いながらも、頭の中では和香様達と打ち合わせた内容について色々と反芻しているのだった。


 話を聞くに、どうにも敵となり得る存在が、まず間違い無く個では無く群れであると思えて成らないのだった。


 もし群れだと仮定するとして、自分の考えて居た防衛手段で果たして良いのだろうか?それで家族を守り切れるのだろうかと色々と考えていると、そこからやるべきことがいくつか見えてくるのだった。


 まず今回の一番の目的、無尽へ疑似宝珠を与えるにあたって、当初雨子様としては最低レベルの物を与えれば良いかと考えていた。


 しかし此度のことを鑑みるにそれでは余りにも心許ないのである。なので相当量の格上げをしようかと思うのだが…。


 そう考えながら雨子様は、和香様から貰った紙袋の中を覗き込んだ。

するとそこには少なくとも二十に近いような数のCPUが放り込まれている。


「ふむ、これだけの数が有ればなんとでも成るの…」


 そう独り言ちする雨子様。


 令子の場合とは異なり、元々自分の神体しんたいをしっかりと持って居る存在なだけに、CPUの能力を構成維持のために振り向けるので無く、ほとんど全て疑似宝珠の能力のために振り向けられるので、その意味ではすこぶる効率的なのである。


 おそらくニーや小和香を除けば、最も効率よく疑似宝珠の力を使用出来る者と成るであろう。


 その様なことを色々と思案していると、突然携帯がぶるぶると震えるのを感じた。

見るとそれは祐二からのレインの到着を示していた。


 かつて鏡を使った遣り取りを、便利であろうと祐二に誇ったことがあったのだが、手に持つ携帯の多機能性を知れば知るほど、なんとも居たたまれなくなってしまう。


 ある意味、人の手により出来たこの道具は、使い勝手という意味では神の手による物を遙かに凌駕していると言えるかも知れない。


 因みに祐二の送ってきたレインには「雨子さん、今どこ?」と短く書き記してある。

いつも思うのだが、どうして祐二からの連絡は何故こうも短いのだろう?


 別に何も無理して長く書けとは言わないので有るが、少なくとも自分が愛しいと思っている存在に対して、今少し何かと書き連ねてきても良いのでは無いかと思うのだった。


 しかし何度かその思いを述べて見るも、相も変わらずのこの短さ。雨子様はふとこれが匙を投げたくなると言う事じゃなと、一人くすりと笑いを漏らすのだった。


 さて、その文に対して自分はどのような文を返すべきなのか?

雨子様としては余り彼我のことを考えずに、自分の書きたいように書いて返信することにするのだった。


 無事自分で店に行って部品を買えたこと、和香様達と待ち合わせていたこと、そこに行くのに地下街で迷ってしまったこと、挙げ句待ち合わせ時間に三十分も遅れてしまったこと等々。


 書いているといくらでも書けてしまう、どうしてこれが祐二には出来ないのだろうと、首を捻るのだが、上手く答えが導き出せない。


 一緒に居ればあれだけ細かいところに気が付く性格だというのに、ことレインに限って言えば、本当にぶっきらぼうですら有るのだ。


 ただそれでも、と雨子様は思う。レインのメッセージを送ってくる頻度だけは、以前に比べると格段に増えてきているように思う。


 当面それで良しとするかと、自らを納得させる雨子様なのだった。


 そして色々書き連ねた長文のレインを確認すると、送信のボタンをポチりとする。


 本来レインは、メールと同じように文章を使うものでは有るものの、多くの場合短文の会話として成り立たせることが多いのだが、こと雨子様に限って言うと、ほとんどメールのような使い方をしている。

 故に余計に祐二の文の短さが目立ってしまうのはここだけの話。


さて雨子様が文章を送って数分後、再び祐二からの返信が返ってきた。

何でもそれによると友人との用が終わったので、駅で待つから一緒に帰ろうとのこと。


 味も素っ気もないわずか数行の文章なのであるが、それでもなんだか嬉しくて仕方が無い雨子様。


 自分でも、たかがこんなことでと思ってしまうのだが、胸が高鳴って仕方が無い。

この時点から、祐二の待つ駅に列車が着く迄もどかしくて仕方が無い。


 折角座っていたにも係わらず、到着するかなり前から席を立ち、乗降口に佇んでしまう。そして扉が開くや否や飛び出して、階段を駆け下り、改札を抜けて、その先の人混みの中に祐二の姿を探す。


「居た!」


 少し離れたところにある柱の陰に、いつも見慣れた祐二の顔がひょっこりと覗いていた。


 ばたばたと小走りに駆け寄る雨子様。


 途中までそうやって大急ぎで歩を進めていた雨子様なのだが、ふと自分がどのようなことをしているかに気が付き、顔を赤らめながら密かに速度を落とす。


「祐二…」


 にっこりと笑みを浮かべながら彼女を迎える祐二に、雨子様が掛ける言葉は自然に喜色に満ちていた。


「買い物、お疲れ様でした」


 そう言う祐二の言葉が嬉しくて、ともすればその胸元に飛び込みたくなるのを抑えながら、努めて平静に言う。


「うむ、それだけでは無いぞ。和香に逢うたらこれこのように」


 そう言うと雨子様は紙袋の中味を見せた。


「これは?」


「必要に成るであろうとくれたのじゃ」


 目でその数を数えながら祐二が言う。


「こんなに沢山頂けるのなら、いっそ買わなくても良かったくらいですね?」


 そう言う祐二に雨子様も苦笑しながら言う。


「全くじゃな?」


「でも…」


 そう言いつつ祐二はほんの少し身を屈めると、雨子様の目を覗き込みながら静かに問う。


「一人でお買い物をしてくるのは楽しかったのではありませんか?」


 自分の心中をしっかりと言い当てられた雨子様は、一瞬見栄を張りそうでも無いと言おうとした。しかしそんな我を張る相手では無いのだと、素直に頷いてみせるのだった。


「うむ、確かにの。なんだかとても新鮮じゃった」


 そう言いながら雨子様は、祐二に渡した紙袋を受け取ろうとするのだが、祐二は黙って頭を横に振り、自分が持って行く意思を示すのだった。


 そんなり気無い思いやりが嬉しくて、雨子様はまたにこにこしてしまう。

そして更に胸の内がきゅっとするのを感じてしまうのだった。


「それはそうと祐二、今日は和香だけでは無く小和香とも逢うて居ったのじゃが、あやつら二柱揃って鏡のようにそっくりな格好をして来おったのじゃ」


「ええ?そうなんですか?でもまああのお二方、元々小和香さんが和香様の分霊なだけ有って、そっくりと言えばそっくりなんですがね…」


「うむ、じゃからこそ普段のあやつらは、出来るだけそれぞれ異なる格好をして居ったのじゃが、今日に限って何もかも統一してきおったのじゃ」


 そう言いながら笑みを浮かべる雨子様に、祐二は少し悔しそうにしながら言う。


「うわ、それはなんだか見てみたかったなあ…」


「であろであろ?我は祐二ならばそう言うと思って居ったのじゃ」


 そう言いながら雨子様は、ごそごそと自分の携帯を取り出してくると、とある写真を表示して、祐二の目の前に差し出してみせるのだった。


「おわ!これですか?本当にそっくりさんだなあ…。でもこれ左が和香様なんでしょう?」


 そう言う祐二の言葉に、雨子様はぴくりと眉を上げてしまう。


「む?祐二にも分かるのかや?確かにそなたの言う通り、そちらが和香なのじゃが、どうして祐二にはそれが分かるのじゃ?」


 雨子様は少し前に身を折り、斜めに祐二を見上げるようにしながらそう尋ねる。

その様がなんだかとても可愛くて、祐二の鼓動をかなり早めていたことなど、雨子様は知りもしない。


「んと、その、どちらかと言うと和香様の方が少し威厳?と言うか重み?が有る感じがしません?」


「ほう、威厳とな…」


 雨子様は自分側かを見分けた時に言った言葉と、祐二の言った言葉を考え比べながら苦笑した。なるほどあれでは和香に怒られても仕方無いか、そんなことを雨子様は考えて居た。なかなかに言葉というのは難しいのである。


 そんな雨子様の表情を見ながら祐二が言う。


「間違い無く雨子さんにもその差異は分かったのだと思いますが、因みに雨子さんはその差をどう表現されたのです?」


 すると雨子様は急に目をそらし、明後日の方向を見ながら挙動不審に陥った。


「なんでそこで目をそらすんです?」


 見るからに怪しい動きをする雨子様のことを、祐二は静かに問い詰める。


「それがじゃな…」


 そう言って口籠もる雨子様。要はあの騒ぎを起こした切っ掛けなのだ、さすがに雨子様で有ったとしても言いにくかった。


 そんな雨子様のことを静かにじっと見つめる祐二の視線。


 此所でわいわいと問い詰められでもしようものなら、うるさいとか何とか言って誤魔化せもしたのだが、この様に静かに待たれているお陰で、逆に真実を言わない訳には行かない様になってしまう。


「あのう、なんじゃ、老けとると言うてしもうたのじゃ…」


 そんな雨子様のことをぎょっとして見つめる祐二。

次の瞬間、大いに吹き出してしまう。まあ雨子様ならではの台詞とも言える、


 和香様達とは祐二も実に親しくさせて貰っているのだが、それでもこの台詞は言うどころか、思いも付かないものなのだった。


「ね、雨子さん、その時は大変だったのでしょうね?」


 そう言う祐二の言葉に、雨子様は心底げっそりしながら答えるのだった。


「もう暫く鬼ごっこはしとうない」


 この言葉でまたまた大きな疑問符を頭の中に浮かべる祐二なのだった。全く神様とお付き合いしていると、飽きることが無いので有る。

 お待たせしました。


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