「小雨来襲直前」
「おはよう!」
そう言いながらどたばたとダイニングにやって来たのは祐二君だった。
その前に素早く朝食の載った盆を突き出す雨子さん。
「祐二の分じゃ、早う食べて学校に行くが良い」
「ん、ありがとう」
「学校に着いたら教師に、本日我が休む旨伝えておいてくれるかの?」
「了解」
傍らで見ていて、なんだか仲の良い夫婦のようなシンクロ具合だった。
「母さんや令子ちゃんのことよろしくね?」
そんなことを言いながら、祐二君はカリカリになったトーストに齧り付いている。
一方、先に朝食を食べ終えた拓也さんが、あたふたと出かける支度を始めた。
そして出かけるところを節子さんが見送りに行く。
なんとも混沌の最中と言った朝の忙しい時間、私にはそれが堪らなく懐かしく思えた。
そうこうする内に、あっと言う間に食事を平らげた祐二君。彼もまた旋風のように玄関から出て行く。その後ろ姿を雨子さんと私で見送るのだけれども、ふふふ、雨子さんの目がとても優しいことに気が付いてしまったよ。
その後雨子さんがのんびりと自分の食事を摂るのに付き合いながら、節子さんを交えて朝の穏やかな時間が流れていく。
とりとめのない会話が雨子さんと節子さんの間で繰り広げられるのだが、時に親子のようであり、また有る時は姉妹のようで有り、はたまた親友のように話を弾ませるのだった。私はその傍らで同じ時間を過ごせている、それだけでもなんだか嬉しいと感じているのだった。
「なんじゃ令子?先ほどから何やら嬉しそうじゃの?」
私のことを見た雨子さんがそんな風に言ってくる。
「そう見える?」
「うむ、見えるの」
「だとしたらきっと、孤独で無くなったと感じているからだと思うわ」
私がそう言うと、雨子さんは物凄くしんみりとした顔をしながら頷いた。
「確かにの…我も此所での生活を知ってしまうと、もう社には戻れんかも知れぬ」
それを聞いた節子さんが笑いながら言う。
「じゃあ雨子ちゃんは、もう神様業廃業かしらね?」
そんな節子さんの台詞に、思わず雨子さんは口を尖らせる。
「その様に虐めるのでは無いのじゃ節子」
雨子さんはその様に言った後少しの間物思いに耽り、その後口を開いた。
「節子は我が神を辞めた方が良いと思うのかえ?」
そう寂しそうに言う雨子さんに、節子さんが優しく言う。
「そんな事ある訳無いじゃないの。我が家の心優しい女神様、いつも頼りにさせて頂いているもの」
「本当にかや?」
ちょっと自信無さそうに言う雨子さん。が、そんな雨子さんの背中を力強く叩きながら言う節子さん。
「何言っているの、あなたが祐二や私達を救ってくれたのじゃないの、胸を張ってしゃんとしなさいな」
そうやって節子さんに発破を掛けられる雨子さん。時折どちらが神様か分からなくなることが有るのだけれど、この二人の互いに対する信頼を見ていると、これはこれでいいのかなとも思ってしまう。
「ところで…」
そう言うと私に目を向ける雨子さん。
「そろそろ小雨を召喚して令子の調子を万全にせぬとな?」
小雨ちゃんについては暫く前にお目見えしているので、また会えるのが楽しみくらいに思っている。とっても可愛らしいその姿と喋り方に、私にもこんな子がいたらなあなんて思ってしまうのだけれども、ペットじゃ無いんだからそんなことは言えない。
ともあれ小雨ちゃんを呼び出す前に後片付けをしないとね。
片付けくらい私がとは思うのだけれども、未だ少しばかり足下が覚束ないので、雨子さん達が食器を片付けるのを尻目に、テーブルに丁寧に布巾掛けをする。
言っても片付けの方も、食洗機に放り込むだけなので直ぐに終わる。
「良し、それでは部屋に行くかの?」
私はそんな雨子様に付き従って、その後を子犬のように着いていく。
ふと後ろを見ると、その私の後から節子さんも付いてくる。私と目が合うと、ニコッと笑って言う。
「私も小雨ちゃんのフアンだもの…」
なんだかちょっと言い訳のように聞こえるのだけれども、節子さんの目の煌めき具合を見ていると何も言えなかった。本当に好きなんだなあって、分かってしまうから。
雨子さんの部屋に三人が集まると、雨子さんが節子さんにちらりと目を走らす。
するとふぃっと節子さんが目をそらす。それを見て苦笑する雨子さん。なんだか見ていて飽きないよ?
丸でいたずらっ子みたいなところが有るなと節子さんを見ていたら、雨子さんが電話をし始めた。
「葉子か?そろそろ小雨を呼びたいと思うのじゃが、そちらは大丈夫かや?」
雨子さんがうんうんと頷いているところを見ると、あちら側は何の問題もないらしい。
ただ漏れ出てくる音がちらりと聞こえた。
「…小雨、あちらに行ってもお利口にしているの…」
葉子さんが小雨ちゃんに何やら言い聞かせているようだった。
他にも色々聞こえてくるのだが、どうやらそれが一通り終わるまで召喚することが出来なさそうだった。
携帯に耳を当ててその一部始終が聞こえてしまっている雨子さんは、一体どうした物かと目をきょろきょろさせているのだけれども、これは待つしか無いよなあ。
やがてそう言った言葉も途絶え、終いに互いに挨拶を済ませると、雨子さんは携帯を置いた。
「やれやれじゃの…」
雨子さんはそうぼやきながらも、精神の集中を始める。
やがてその準備成ったのか、宙の一点を手で指し示したかと思ったらたった一言言う。
「来い!小雨!」
するとその部位で一瞬強く光が光ったかと思うと、次の瞬間そこには小雨ちゃんがいた。
その小雨ちゃんに向かって雨子さんが声を掛ける。
「小雨、良く来…」
だが雨子さんがその言葉を言いきる前に、歓声を上げた小雨ちゃんは節子さんに突進した。
「お母しゃ~ん、お腹空いたぁ~~!」
いきなりのそんな言葉にその場で突っ伏す雨子さん。
片や大喜びで飛んできた小雨ちゃんを抱きしめる節子さん。本当に面白い光景である。
お待たせしました。
何とか無事先行三話、書き上げることが出来ました
やれやれ(^^ゞ




