「一歩」
昨日前書きはやめようかなと書いたばかりなのですが、前言翻って……
昨日掲載文の物語、大幅に加筆訂正しましたので此所に記載しておきます
新たに人間として生まれ変わって三日目になった。
精神的な年齢では私は大人のはずなのだけれども、その心が子供の身体の影響を思わぬほど大きく受けていることを知って、実はかなり驚いている。
もっとも、論理的思考力や蓄積された知識と言った物については退行することは無いらしいのだが、感情の抑制や身体の動きは当分不安定さが続くかも知れないということなのだった。
だが雨子さん曰く、心が身体の影響を受けるのと同じように、身体もまた心の影響を受ける物なのだから、おそらくそう遠くないうちに安定化していくだろうとのこと。
私としてはその言葉を信じて、あんまり考え込まないようにしていこう、そう思うのだった。
ただ今回、不安定化した私を巡って雨子さんや吉村家の人々が、誠心誠意何とかしてくれようとしたことが本当に嬉しかった。そして彼らのその思いに包まれ、いつしか彼らの絆の中にしっかりと取り込まれ、同化出来たことがとても嬉しかった。
そう、家族の一員に成れたことを実感出来たというのが、もっとも嬉しかったことかも知れない。
何か不安に成った時や心細くなった時に、寄りかかれる肩や背中が有ると言うのが、どれほど有り難いものであるかということを知った私は、自分もまたそんな役割を果たせる者に成れたらなと思うのだった。
「令子ちゃん、支度は出来た?」
そう話しかけてくるのは節子さん。私がこの家で最も頼りにする人でもあった。
「はぁ~い、直ぐ行きまーす」
そう返事をする私が何をしているのかというと、雨子さんの部屋のドレッサーで、身支度を終えた自身の姿を映し、余念無くチェックを入れているところなのだった。
節子さんが予め揃えていてくれた、着心地が良くてキュートなワンピースに、ちょっとおしゃれな刺繍の入ったソックス、お終いに日差しを防ぐキャプリン。
「うん、良し!」
こう言う時やっぱり自分は女の子なのだなって思う。有る意味こう言うのも条件付けなのかも知れないけど、私自身はそう感じられることが嬉しいと思うのだった。
全ての身支度を終えたと確信した私は、軽い足取りで階下に向かう階段を、トトトと降りていく。幽霊やうさぎだった時はともかくとして、私ってこれほどまでに身軽だったかしらと思ってしまう。
子供の身体だからそうなのか、雨子さん達が作って下さったこの身体だからなのかは分からないのだけれども、それでも今の私は楽しくって仕方なかった。
おっと、でもまた転ばないようにしないとね?昨日の夜もまた少なからず失敗したのだから。
玄関に向かうとそこでは既に節子さんが待機していた。
そして二階から降りてきた私の姿に、一通り目を通すと一人黙ってうんと頷いている。
目が合うとにっこりと笑みを浮かべ、優しく私に話しかける。
「小和香さんの追加の微調整が入ったって聞いたのだけれども、何だかもう凄いわね?抜群に可愛いわよ、令子ちゃん?」
そう言われた私は別に自分の手柄な訳では無いのだけれども、やっぱり嬉しいのは嬉しいし、そんな風に誂えて下さった神様方に大いに感謝したいなと思うのだった。
ただ、生憎と今日は平日なので、この姿を見せたくとも雨子様や祐二君は学校に行っていてここには居ない。そう考えると少し口惜しかったのだが…。
「…?何して居るのですか節子さん?」
気が付くと節子さんが私の周りをぐるぐると回りながら携帯を掲げている。
「ん~、とっても可愛いからこの姿、写真に撮って雨子ちゃんに送って上げようと思って…」
いやその気持ちは嬉しいのだけれども、確かに雨子さんには見て欲しいのだけれども。
でも節子さん、そんな風に目をきらきらさせながら、四方八方から見つめられると、さすがに恥ずかしいのですけれど?
本当のところを言うと、実は未だ私自身はこの姿に馴染めていない。
鏡を覗き込んで見知らぬ可愛い女の子が微笑みかけてくるのを見ると、未だに誰これ?等と思ってしまうこともある。
そんな事を思うなら、どうして本来の自分の顔にしなかったのかと言われるかも知れない。けれどももしそうして、まず無いこととは思いはするのだけれども、それでもうっかり実母に見られてしまったらと考えると、恐ろしくて仕方が無かったのだ。
母一人子一人の母子家庭だったのだ。その母が唯一の子供を亡くして、しかも結婚まであと僅かと言う時の娘を失って、一体どれだけ打ち拉がれたか想像に難くない。
母は気丈な女性だったので多分、きっと、おそらく、その悲しい思いを乗り越えて居ると思う。けれどもその母が再び私の姿を目にしたらどのように感じるのか?
私は想像もしたく無かった。
それだけじゃ無い、私が恋し恋され愛を誓った和也さん。彼が今一度甦った私の姿を見つけなどしたら何を感じ何を思うだろう?或いは彼が既に他の女性と人生を共にしていたら、私は何を考え、どんな風に動いてしまうだろう?
そう思った私は姿を変え、結婚を誓った彼のためにせめても操を立てる意味もあったが、それ以上に男女のことはもう良いかななんて思う思いも有って、この子供の身体を選んだのだった。
果たしてその決断が本当に正しい物だったかどうかは未だ分からない、ただ今分かるのは、現在私の周りに居る人達が、如何に私のことを大事にし、大切に思っていてくれるのかと言うことだった。
だから私は、多分これからも色々なことに遭遇していくのだろうけれども、何にも怖くはないし、(いや、本当のことを言うと怖いことは色々有る、でもこれだけ応援団が居るのだものね)何があろうとも乗り越えていける、そんな思いで満たされているのだった。
そして私は今、この身体に生まれ変わってから初めて、この家の玄関から外に出た。
昔誰かが言っていたっけ?「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」だったかな?
でも今の私にとってこの一歩は、どんな一歩よりも大きな可能性を秘めた、そんな一歩なんだって思う。
今日のは結構短め、しかし人の内面を書くのって本当に難しいなあ




