「天罰」
大変お待たせしました
「ピンポ~~ン♪」
来客のチャイムが鳴らされ、インターフォンの画面を一瞥した祐二君は、そのままの足で玄関に行っていた。
「いらっしゃいませ和香様、小和香さん」
どうやら本日の待ち人が来たようだった。
「祐二君?何で小和香はさん付けでうちだけ未だに様付けなん?ええ加減そこちゃんとしてくれへんかったら、うち泣いてしまうで?」
等と言いながら祐二君に引き連れられて入ってきたのは、和香様と小和香さんだった。
今日の和香様は明るいブラウンのチノパンに、ゆったりとしたとても薄い色合いのベージュのブラウス。髪はワンレン?え?え?前にお会いした時は物凄く長かったのですけれども、切られたのかしらん?
そんなことを思って焦っていたら、私を抱えていてくれた雨子さんが小声で教えてくれた。あれ位の変化は容易いのだと。
そして小和香さんはと言うと、薄い水色の掛かったフレアワンピースでポニーテール、可愛い!
「お邪魔します」
と雨子さんと私に微笑みながら声掛けしてくれる。
一方、相変わらず祐二君にいちゃもんを付けている和香様に雨子さんが声を掛ける。
「何時までも女々しく騒ぐでない和香。」
雨子さんのその台詞に、和香様は頬をぷっくりと膨らませながら言う。
「別に女々しい無いわ。うちかてこの家に伺うた時くらい、肩書きも何にものうして、普通に混じりたいやんかぁ」
そこへ節子さんがエプロンで手を拭きながら登場。
「あらあら、和香ちゃん、いらっしゃい」
その台詞を聞いて一瞬目を丸くした和香様は、節子さんに飛びつくようにして抱きついた。
「いややわぁお母さん、ようにうちのこと分かってはる!これお土産!」
そう言うと和香様は、小和香様に持たせていた大きな紙袋を手に取ると、節子さんに手渡していた。
あの袋のデザインから見るに、恐らく雨子さん達が神社帰りにスイーツを食べた、あの店の物に違いない、良いなあ…。
「小和香さんもいらっしゃい、お待ちしてましたよ」
和香様に抱きつかれたままの節子さんが、苦笑しながらそう挨拶する。
「ありがとう御座います、また何かとお騒がせ致しますが宜しく願いしますお母さん」
その言葉を聞いた途端に雨子さんが目を釣り上げながら言う。
「何じゃそなたら、いつの間に節子のことをお母さん呼ばわりするようになったのじゃ?そう呼んで良いのは我だけぞ?」
すると和香様が相変わらずぎゅうっと節子さんにしがみついたまま言う。
「何言うてんの?そう言う雨子ちゃんかて、ほんまは節子さんの子供やあらへんやん?」
「我は良いのじゃ。いずれ祐二の連れ添いになるのじゃから、なればどこからも文句の付けようが無かろう?」
「そんなんずるいわ。そや、うちかて祐二君に貰うてもうたらええやん?何や、簡単やん?」
それを聞いた雨子様はかんかんになって怒り出した。
おっとそれを見ていた祐二君が、雨子さんの手からそっと私を奪い取ってくれた…。
そして少し離れた所から小和香さんと二人で並んで戦況を見ている。さて今回はどう決着がつくのだろう?
「何を言って居るのじゃ和香は?この国では重婚は犯罪ぞ?」
そう言う雨子さんに和香様がしれっと言う。
「そんなん法律変えたらええやん」
「何を言うとるのじゃ?その様に簡単に法律が変えられたら世話が無いのじゃ」
なんだかもう侃々諤々である。
「雨子ちゃん、うちを誰やと思うてるねん?腐ってもこの国の最高神やで?」
だがその一言が和香様の敗因となるのだった。
「和香様腐ってるんだ?」
そう軽い口調で言ったのは祐二君、多分なんとは無しに口から出たのだろう?
だがその効果は絶大だった。
信じられないと言った表情をした和香様は、よよと泣き崩れていく。
「祐二君に腐ってる言われたぁ…」
「さすがにそれは祐二が悪いの?」
そんなことを言いながら和香様を慰めに掛かる雨子様。
それに対して呆然とした顔つきで言う祐二君。
「え?これって僕が悪いの?僕が?」
息子の何とも情けなさそうな顔を見て吹き出す節子。
「祐ちゃんはからかわれたのよ」
憮然としながら和香様と雨子さんの顔を見ると、吹き出しそうになるのを堪えている。
ただ一人小和香さんだけは物凄く申し訳なさそうな顔をしている。
祐二君は直後、ふと気を抜いたように言う。
「成る程…」
そう言うと祐二君は私のことをひょいと節子さんに渡すと、くるりと背を向け、二階に通じる階段を上がっていく。その後直ぐに扉の閉まる音。
「「…」」
二柱の神様が何も言わずに互いに顔を見合わせる。
「だ、大丈夫なん雨子ちゃん?」
引きつった顔の和香様がそう雨子さんに問う。
すると眉をへの字に曲げた雨子さんが震える声で言う。
「こんな事は初めてなのじゃ…」
そう言うと雨子様は節子さんの顔を不安そうに見る
苦笑した節子さんは静かに言うのだった。
「大丈夫だから行ってみてご覧なさいな?」
そう言う節子さんのことを縋るような表情で見た後、意を決したかのように階段を上っていく雨子さん。
「祐二…」
そんなことを言いながらそっと扉を開けている様子。
さて一体どうなっているのだろう?息を飲むようにしている私と二柱の神様方。
暫くの後、ゆっくりとした足取りで階下へとやって来た雨子さん、なんだかどこか気の抜けたような顔をしている。
「どうだった雨子ちゃん?」
そう言うのは節子さん。
「何じゃその、普通に部品の用意をして居った」
「怒ってた?」
「お、怒ってはおらなんだのじゃが、じゃが…何と言うかその…はぁ~~」
「どないした言うの雨子ちゃん?」
気になって仕方の無い和香様が問う。
「なんだか物凄い気疲れをしてしもうたのじゃ。我はもう当分祐二のことはからかわん」
その言葉を聞いた和香様も、友の様子を目に収めながらしんみり言う。
「うちも…止めとこうっと…」
そんな二柱のことを諫める者が居る。
「あんなに優しい祐二さんのことをからかうからですよ。正に天罰って…この場合誰が天罰当てるのかしらん?」
そうやってこてんと首を傾げる小和香さんは本当に可愛かった。
時にテンポを崩さないようにするのがいかに難しいかを思い知らされます
トホホホ




